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三百十三話

 勇者へと振りかぶって、そして振り抜いたゴーレムの拳が僅かに剣聖に引っ掛かった。


 それは本来の剣聖なら絶対にやらない失敗だったんだろう。


 けれどもそれは起きた。起きたのだ。


「やった!・・・って喜んでも居られ無いな。そもそも僕の狙いに剣聖は入っちゃいない。勇者なんだ。ぶっ飛ばしたいのはね。」


 喜びは即座に落ち着く。目的の勇者が吹っ飛んでいないから。


 剣聖の動きにもずっと注意を払ってはいたが、それだけだ。剣聖の撃破は狙っていなかった。


「まあ剣聖は勇者を庇う為にずっとこちらの怪力を受け流し続けていたから体力の限界だったのかな?その時間で勇者は最初に吹っ飛ばした負傷からはかなり回復した様だけども。それでもそこにはこのゴーレムを撃破する力が戻っている様子は無い。うん、いける。」


 ずっと攻撃を仕掛け続けながら僕は勇者への観察を怠らなかった。


 どうやら攻撃を躱す事に「神の加護」を使っているらしく、勇者はずっと「力を溜める」と言った行動に移行できていないでいる様に見えたのだ。


「このままで良い。寧ろ、この方が良い。勇者には「神の加護」を回復させない。幾らでも長期戦だ。限界まで。いや、限界を超えるくらいの覚悟を僕はするよ。ここが決め時だ。腹を据えてドッシリといこうか。」


 そこでふと気づいた。剣聖が居ない。


「・・・あ、何処に行った!?ウッソでしょ!?何をする気なんだ!吹っ飛ばされたのはワザとだったのか!一瞬でも剣聖への注意が消えた瞬間にコレ?ヤバイやばいヤバイ!メーニャが危ないかも!?」


 剣聖がここから消えた意図は分からなかった。こちらの隙を狙う為に何処かに隠れ潜んだのかもしれない。


 けれどもそんなのは今気にする事じゃ無い。このゴーレムが幾ら剣聖の不意打ちを食らって万が一にも撃破されたとしても次弾は準備してある所か、数十体もゴーレムの在庫は用意しておいてあるのだ。


 今の現状で一番最悪な展開はメーニャが剣聖に討たれる事。


「それだけは避けたい!けど、勇者を放って置くのはもっとダメだ。クソッ!何処に消えたんだ剣聖は。」


 僕がゴーレムを同時に操れるのはせいぜいが二体。ここで一体を追加で出して剣聖を見付ける為に操ろうとすれば、そこで勇者への注意が散漫になってしまう。


 何がどう転んで勇者に力を取り戻されるか分かったモノでは無い。集中を切らす事はでき無い。勇者への注意を怠れない。


 勇者の持つ「神の加護」とはそれ程に警戒をしなくてはならないモノだと僕は知っている。分っちゃいるが。


「ぐぬぅ・・・ここまで来て、僕はどっちを取れば・・・」


 勇者を執拗に狙い続けて相手の反撃の芽を芽吹かせずにいるか。


 はたまたメーニャの心配を優先して消えた剣聖の行き先を探るのか。


「ここで一番最悪なのは「どちらも得られ無い」事。中途半端が一番ダメだ・・・くっそおおお!」

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