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二百九十四話

 勇者と剣聖はこの相対しているモノの正体が「魔族」では無い事を見抜いた。そしてその裏に「魔王」が居るのだとも。


 だがそこまで。コレが所謂「人形」と言った所にまで気づいたのは良いのだが。「ゴーレム」と呼ばれる存在だと言う事にまでは想像が行かなかった。


 何せこの「ゴーレム」に込められている魔力が異常な程の量だった事に、そしてその質が勇者の持つ「神の加護」に反応した事に因って視点、思考がズレたのだ。


 そしてこの異常な存在には通常のやり方では止める事すら困難だと。倒す事を優先したが為に。


 だから勇者は決断した。次の一撃で、最小限の消費で、目の前の暴れている存在を破壊する、と。


 剣聖はこの決断に対して僅かながらに「マズイ」とは思いつつも、それ以外の方法が無い事を悟る。


 だから剣聖は目標の「ゴーレム」へと斬り掛かる。勇者が力を溜めている邪魔を「ゴーレム」にさせない為に。


 この「ゴーレム」を案山子と言い放ったくらいなので剣聖からしてみれば暴れ回っている相手の動きなど止まって居るも同然の事。


 相手の攻撃とも言え無い腕の振り回しをまるで舞を舞うかの如くに避けながら剣撃を入れ続ける。


 ギリギリ、ギャリギャリとまるで金属同士が削れ合う音を奏でながら。


「行きます!」


 その勇者の掛け声でその音は即座に止む。剣聖が即座に「ゴーレム」から離れたから。


 次の瞬間には「ゴーレム」は光に包まれた。その光の繋がる先は勇者の持つ剣。


 これは勇者が「神の力」を行使した事に因る。


 その力の齎した結果は直ぐに目で見て解る。


 建物を破壊していた元凶の消滅。今はもうその存在が居たと言う事を示す欠片さえ残されてはいない。


 完全なる沈黙だけがこの場に残される。そこに響く「不安」。


「・・・凄まじい力だな。だが、今その力の残りはどれくらいだ?」


 剣聖は問題が解決した事に因って剣を鞘に収めた後に勇者に問う。コレに勇者は。


「そこまで多くは使ってはいません。ホンの僅かです。魔王を斃すくらいの分はまだまだ充分に残してあります。余裕です。心配は要りません。」


「なら良いのだが。」


 剣聖のその懸念はその直後に現れる。


 この場へと遠くから走って近づいて来るのは衛兵で。


「ま、魔族が暴れています!勇者様!向こうの通りです!」


「・・・何だって!?」


 先程に倒した存在以外がまだ居る、その現実は勇者に小さく無い動揺を与えた。


 しかしそんな動揺から直ぐに復帰した勇者は叫ぶ。


「直ぐに行きます!剣聖殿!」


「・・・悪い予感が当たったな。しかし、まさかとは思うが、いや、目の前の問題に今は集中すべきか。まだ情報が揃いきってはおらん。行くしかない、か。」


 これに剣聖は自身が感じた悪い予感を溜息と共に飲み込んで抑え込んだ。


 そうして情報を伝えに来た衛兵の案内に従って辿り着いたその現場には先程と同じ敵が。


「どう言う事だ?いや、そんなのはどうでも良い。今直ぐにこいつも消します!」


 勇者がそう叫ぶのだが、そこに剣聖が待ったを掛ける。


「止めておけ。冷静になるんだ。慌てていると見えているモノも見えなくなっていく。」


「何を言っているのです剣聖殿!敵を残すなど落ち着けるモノも落ち着けません!こいつを直ぐに片づけ・・・」


 勇者が直ぐに目の前の敵を屠ろうとしている時にそれは入って来た。


「魔族です!こことは反対側の住宅街に出ました!勇者様!対応を!」


 伝令兵だろう者がこの場に駆け込んで来て勇者を見付けてそう叫ぶ。


 しかしその者は次に家屋を破壊し続けている存在に気付いて「え!?」と驚きに固まった。


「コレは・・・最悪の事態に近づいているな。ならば余計に不味い。今よりも状況が悪化しない事を祈るしかできる事は無い。」


 剣聖は大きな溜息を吐いて肩の力を抜いた。そして眉根を非常に歪めた表情になった勇者を見るのだった。

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