二百九十話
「魔族」と判断されたその存在は周囲の建物を壊し始める。その肉体一つで。怪力で。
それこそ手あたり次第に、丁寧に、時間を掛けて。
コレに慌てた者たちからパニックになり通路は大混乱に見舞われた。
退避、逃げろ、巻き込まれる、何だアイツは、瓦礫が飛んで来るぞ、衛兵はまだか、勇者は来ないのか、聖女様は、危ない、ここに居たら殺される、そんな言葉が即座に飛び交い始めるのは当然だった。
今回の魔族と人族との戦争において首都でこの様な混乱が起きたのはコレが初。
今日までの「聖女様万歳」で弛緩していた空気は一気に逆転してヒリヒリとしたモノに変わっていた。
「勇者様が来るまでヤツを足止めだ!お前ら!構えろ!・・・一斉に突け!」
二十名の衛兵がこの場に早くも駆けつけて自らの仕事を全うしようと動き出す。しかし。
「・・・硬い!」
その槍先は刺さらずに弾かれる。その表皮に僅かにですら掠り傷すら付けられずに終わる。
しかもその「魔族」はそんな衛兵たちの攻撃になど目もくれず、気にも留めずに動き続けていて建築物破壊をし続けていた。
「諦めるな!突け!攻撃し続けるんだ!」
衛兵隊長だろう者が部下への指示を出すのだが、しかしここで「魔族」の乱雑に振り回していた腕が近づいた槍をその勢いのままに叩く。
「ぐぁッ!?」
その槍を持っていた衛兵はその余りの威力に槍を手放させられる。
「何て力だ!?クソ!援軍はまだか!?勇者様でも剣聖殿でも!」
衛兵隊長はそんな叫びを思わず吐き出すもその願いが叶う事は無く。
「・・・おかしいぞ?コイツ、俺たちを認識していないんじゃないのか?」
しかし気付く。相手の「魔族」が建物の破壊しかしていない事を。逃げ惑う者たちを攻撃しようとする素振りすら見せない事を。
「盾を用意しろ!飛んで来る瓦礫での怪我に注意!不用意に近づくな!相手の怪力で殴り飛ばされるぞ!」
衛兵隊長は優秀で、そして決断力も早かった。
だが只それだけ。破壊行為を続ける「魔族」を止める事の出来る力は有してはいない。
「国民の避難誘導を優先!我々では・・・この魔族を止められん!勇者様が来るまでにこの場に余計な者が入らない様にする!お前ら直ぐに動け!動け動け動け!」
衛兵隊長の判断は的確で行動力も高かった。
今の現状が勇者にしか打破できないと言う事実を直ぐに呑み込んでの部下への指示だ。
そもそもに、そんな人族の動きなど最初っから気にもしない「魔族」はまるでロボット、その身に刻まれたプログラムに従うかの様にして自身の周辺に存在する家々を壊す行動を繰り返し続けるだけ。
そう、人族の誰もが勝手に「魔族」と判断した存在の正体になど気づいていない。気にもしていない。
この存在は「魔族」では無い。
ソレに気付けても、ソレが解かっていても、今のこの現状は変わらなかっただろうが。
こうしてこの場に勇者がやって来るまで破壊行動は続けられ。
「・・・何だ、この様相は・・・」
勇者が現場にやって来た頃にはその周辺は瓦礫の山と変わっていたのだった。




