二百八十五話
「良くぞ帰って来た勇者よ。魔王討伐の件、大儀であった。」
「勘違いしないで貰いたい。まだ魔王は斃せていない。」
「むぅ?何だと?」
勇者は首都に到着後、直ぐに城に入り王との謁見を要求し、ソレを容赦無しにネジ込んだ。
緊急事態、異変発覚、異常事態、そう言って即座に国王へと情報共有をする為だ。
今のこの現象、現状に国で保存してある資料の中に前例が無いか確認させる為である。
だけども早とちりしたこの玉座の間に急遽集まった重要ポストに就いている臣下たちは勇者の発言にざわつく。
「魔王を斃さずして国に帰ってくるなどと、何をしておるのだ?」
「臆したか?自身の命を惜しんで派兵でも頼みに来たのであろう。」
「魔王の居城に突入したとの報告があったが、まさか、逃げられたのではあるまいな?」
「まさか聖女様の御力を頼って戻って来たのかもしれんぞ?所詮はその程度と言う事か。」
「いや、魔族の拠点を襲撃してコレに成功したと言う報告もある。何を考えてその様な事をしたのやら。」
「魔族では無く魔王を斃せば問題は解決だと豪語していた勇者とは思えんな?どんな意図があって魔族の方に矛先を向けたのだ?」
「自身の使命は魔王討伐だと言っておった癖に、今ここで国に帰って来た思惑は何だ?聖女様の活躍に嫉妬でもして自身の権威を上げ様と戻って来たのではあるまいな?」
金だけを出して自らは安全圏に居てふんぞり返っている貴族たちは勇者たちの苦労も苦悩も知らずに自分勝手で、悪意に塗れた無責任な発言を繰り返す。
国にはまだ、あの森の奥に在った城の中に魔王が居なかった情報は齎されていなかった。
魔王が居ない、それが判った後の勇者の行動が電撃的で、かつ、戻って来る時間も早かったためだ。
魔族を襲撃してこれを成功させた情報の方はどうやら先に広まっていたらしいのだが。
そこにどうして差が出たのかを勇者は知る気も無い。今この場で必要な言いたい事、伝えるべき事だけを述べる。
「神の加護で魔王を捕捉できない。過去の資料を調査して似た現象が無かったかどうか精査してくれ。一刻を争う。結果を早く欲しい。」
勇者が齎したこの事実が玉座の間を静けさで満たさせる。
この場に居る誰もが誰も、王でさえ、思考が止まったのだ。
意味を呑み込め無い、理解し難いと。
「・・・勇者よ、冗談は止せ。何を馬鹿な事を言っておるのだ?」
ここで一番早く気を取り直した国王は絞り出すようにして先程の勇者の言葉を否定する。
信じたくはないのだ。神の加護が魔王に通じていないと言う事実を。
どうしてそうなってしまったのか?所詮は勇者に、そして神の加護の上で胡坐を掻いて呑気にしていた人族である。
世界の真実など知るはずも無い。
魔王が世界の秩序をとっくに破壊している事など思いもよらない。
「冗談でこの様な事を言うと思っているのか?なら勝手に調べさせて貰う。書庫の使用権限を求める。許可の必要な書籍も全て閲覧できる最上級のモノを。」
勇者のこの発言を本気だと理解した者はそこまで多くない。
その理解は非常に重く、そして今後の人族の未来が掛かっていると言う所まで無理やりに背負わせて来るモノでもある。
しかしコレに理解などしていない能天気な馬鹿な貴族が居た。その者は勇者に考え無しの言葉を飛ばす。
「勇者殿が無理であれば聖女様に頼めば宜しいのでは?国王陛下、この様な役立たずよりも国を守った聖女様に頼った方が宜しいのでは?」
国の危機に戻って来なかった勇者に対しての嫌味、当てつけ、寧ろこの当人は本気で勇者など要らないと思っての発言だった。
役立たず、そうハッキリと口に出す。その品性は下劣、この貴族が謁見の間に同席している事は相応しくない。しかし、仕事はそこそこに熟せている人物だったからこそ、ギリギリ同席を許可されていた。
その者は主張したかったのだ。聖女が国を守ったのだ、お前では無い、と。偉そうな態度を取るなと。
しかしコレに勇者は無視を決め込む。どうしてか?
それは勇者が本気でこの発言をどうでも良い事として切り捨てているからだ。
勇者の芯は変わらない、揺らがない。魔王討滅、それ以外の事になど一切気にも留めない。
聖女が魔王の居る位置を特定できるのであればソレで良い。
しかし勇者は「それは無い」と確信を持っていた。
「許可は出す。そして、聖女様にもこの件に関して相談をする。・・・今回はコレで、解散だ。」
国王は絞り出す様にしてそう述べて謁見の終了を宣言した。




