二百八十話
勇者の焦りは非常に大きな物に育っていた。
それは魔王が待ち受けていると思われた大樹海の中の城に肝心の魔王が居なかった事が切っ掛けだった。
自身の中に在る「神の加護」の力を最大限に発揮しても、今一番知りたい存在、魔王の位置が掴めなかったからだ。
今の勇者が内包する神の力は膨大であり、ソレを駆使すれば簡単に魔王の位置など掴めるハズ、そう思っていたのに、ソレが何故か出来ない。
(原因が掴め無い、解らない!機能不全?力が何かしらの干渉を受けている?それこそ有り得ない!外部からの邪魔など今の力の大きさであれば全て自動で弾き返す事が出来るはずだ。それこそ、私の中に在るのは神の加護だ。ソレを容易に突破して来る妨害など、想像するに邪神の力くらいだ。しかし、そんなモノは一切感じない)
困惑や不安、そして混乱。答えの見えて来ない原因の掴め無い状況に勇者は増々焦りを肥大させていく。
しかしそれの答えが出ずとも行動はせねばならない。
そしてその決断を勇者は口にする。
「首都に戻る。その道中に判明しているダンジョンが有れば攻略しつつだ。・・・いや、もう一つ、寄り道をする。」
原因不明から目を逸らした勇者はここで「今自分にできる事を」と、その思考を一瞬だけ魔王から他へと移した。
「魔族の拠点を潰す。王都へと攻め入った一団、そいつらの居る方角、位置は把握した。」
そう、マードック達へとその矛先を変えた。
神の加護は今や勇者の自由自在、御都合主義などと言ったモノを超えていた。
その能力とは、自らの敵と見做した存在の把握であった。
幾ら遠くとも、幾ら隠れ潜もうとも、その存在の居る場所を特定できる。
そんな不条理、理不尽な力となっていた。
もちろん物事が勇者に都合の良い展開になってしまう、そんな力も健在のままで、である。
だがしかしそんな力を発現したのにも関わらず、魔王の位置だけが探知できないと言う現状。
勇者はその探知できないと言う問題から目を背けて現実を見た。
魔王が今は無理なら、魔族を殲滅。その後にゆっくりともう一度問題に向き合えば良いと。
こうして今後の方針は示された。魔族を殲滅後、首都へと帰還。その後にもう一度、魔王の居場所を突き止める為に力を発動させる。
(しっかりと落ち着ける場所で再度試す。それで駄目であった場合は国の兵士を使ってこの大地の隅々まで捜索をさせる)
勇者の思考は最終的には人海戦術に至っていた。
どんな手を使ってでも魔王を見つけ出し、討滅する。勇者の考えは一貫して魔王を斃す事だけ。
だから思いもしない、思いつかない。
既に「世界」が変動して以前の摂理とは掛け離れてしまっている事になど。
神の加護、その力の大半を消費、消滅させれば魔王の位置が把握できたであろう事も。
この後、勇者と魔族、マードックとの決戦が始まる事となるのだった。




