二百七十九話
それからと言うモノ、メーニャには情報収集をして貰いながら日々が過ぎて行った。
その中でも一番ヤバいのが、勇者。どうやらダンジョンの攻略をしつつも首都への道を戻って来ているそうで。
「しかもマードックの率いる魔族軍を一度蹴散らしてるって?うわぁ・・・コワイね。もうこれ魔族が幾ら策を弄しても勇者に絶対に一泡吹かせられないでしょ。一矢報いようとしても軽くあしらわれて全滅、なんて感じになるんじゃ無いの?」
「どうやら勇者の力は既に人外の域に達していると思われます。必要以上にダンジョン攻略を重ねたのではないかと。」
「どれだけの執念なんだろうねぇ。こっちにしてみれば時間は稼げたかもしれないけど、迷惑でしかないからなぁ力を付けられるのは。勇者とは一度たりとて、それこそ冗談でも顔を合わせられ無いよ。と言うか、人外はもう一人居るよねぇ。剣聖って言う物凄くコワイのが。」
出会えば終わる、今の勇者と遭遇してしまえば僕の命もそこまで、と言う感じだ。あと剣聖にも会いたくはない、できれば。
でもこの二名はほぼセット扱いだ。なれば僕の命運が尽きるその瞬間にはその二名が必ず僕の目に映っている状態だと言う事だ。
しかし今、そうはなっていない。このままで居れば僕の勝ちはほぼ確定と言っても良い。
その代わりに勝敗が決まるまでは引き籠もり続ける事になるので、暇に殺されるのが先になる可能性が高いけれど。
「聖女の方の動向もおかしな話だよねぇ。王家に保護されて城で悠々自適に暮らしてるって。まあ結界装置の件が有るから下手な貴族に先に囲われるのはどうしたって避けたいだろうし、暗殺なんて物を警戒しての事も含めてなんだろうけど。」
どんな時代、どんな時にも馬鹿な事を考える者は必ず現れる。
王家に対して密かに恨みを持っている貴族、或いは、派閥、敵対意思を隠し持つ者たち。
魔王と言う脅威を盛大に甘く見て、そして自身の欲望を満たす事に夢中になる愚か者。
人類存亡の危機を目の前にしておきながら自分の事しか考えない身勝手な考え無し。
そんな者たちに聖女の身柄を先に確保されてしまえば、そいつらがソレを利用してどんな要求を王家にして来るか分かったモノでは無いだろう。
まあ僕にしてみると人族のそう言った醜い争いは大歓迎なのだが。
そう言った事は僕の命に直結して来る問題でもあるからだ。
「首都が混乱してれば、している程に、勇者への支援がグダグダになるだろうからね。大いにいがみ合って、争い合って欲しい所だよ貴族には。だけどなぁ・・・」
「はい、どうやら王家も貴族も大人しいモノです。水面下ではある程度に派閥同士で牽制し合っていると言った様子なのですが。大事に繋がる様子は今の所は御座いません。」
「コレが神の加護の力って事なのかね?僕らへと向いていたはずであろうその力が他の方向に行っているんだろう、ってのは良いのだけれど。人族の社会を安定させる方向になるとはねぇ。」
メーニャには首都で暗躍して貰い、その結果から吟味と検証を重ねて「神の加護が魔王へ影響を及ぼしていない」と言った結論に至った。
暗躍の活動内容としては、危険を承知で踏み込んだ物を採用している。
色々と「駒」を使って魔王の噂を流してみたりしたのだ。
しかしこれ、予想していた結果に繋がる事は無かった。要するに、この噂を切っ掛けにして聖女や王侯貴族たちが警戒を上げて魔王の動向を探ろうとする、である。
しかしそんな動きが一切見られない所か、メーニャが言うには首都の雰囲気は完全に今、弛緩しているとの事で。
聖女の張った結界がその空気を生み出していると。
たった一度魔族を撃退しただけではあるが、それだけで国民たちは「もう安全だ」などと言った気分になっているそうな。
噂を流したにも関わらず、国民にまでこういった空気感、結果に至った事で僕もメーニャも「神の加護」の力の向き先がどうにも僕らの方には無いと言う結論を出したのだ。
浸透したその「魔王の噂」が聖女や王国貴族は元より、その国民にすら、恐怖や不安などを与えられ無かった、煽れなかったと言った点が一番重要視されている。
「うーん、でも、神の加護がこちらに向いて無い状態ってのが何時まで続くか分からないからねぇ。引き続きメーニャ頼りになっちゃうのは心苦しいけど、警戒は怠らない様にお願いするよ。何時もすまないねメーニャ。ありがとう。」
感謝の言葉を告げて僕は今後にどの様な行動に出るかをメーニャと引き続き話し合った。




