二百七十七話
勇者一行はその後、残っているダンジョンの攻略を時間を掛けて進めていた。
しっかりとダンジョンを攻略する毎に勇者の力はグングンと上がっている。
しかし勇者は何故かコレに一抹の不安を覚え始めていた。
(これで良いハズだ。私の使命は魔王討伐、中途半端になる事は許されない。流石に時間は掛かっているが、これで確実に魔王を討てるのならば必要経費だ)
広大な森の奥に城が存在していると言う情報は早い時間で斥候が齎していた。
魔王がそこに居るのだろうと言った予測は勇者の頭の中に簡単に浮かんでいる。
これまでの勇者と魔王との戦いの歴史の中で魔王が城から出た事など一度も無いと調べて知っていたから。
そんな前例が今回は覆っている事など勇者は知らない。
(まだ力が足りない、などとは思わない。けれども、何故だ?充分な力は得られているはずだ。なのに、魔王に挑む事に前向きになれない?どうしてそんな風に思うんだ?)
勇者は思う。自分の命が惜しいなどと言った事では無い。寧ろ刺し違えてでも魔王を斃す覚悟はあると。
何かがおかしい、ここで勇者がそう思える事案や出来事が起こっていない。
だから勇者は見逃した。気付け無い。既に手遅れになっている事が。
「次のダンジョンを攻略したら魔王に挑みに行きます。今の私の力なら大勢で攻め込んでも被害を無駄に広げずに済むでしょう。私が先頭に立ち、敵が来れば即座に斬ります。補助には剣聖殿、頼みます。」
決断は下った。勇者は魔王が待つ城に向かう準備を開始する。そこに魔王は居ないと知らずに。
=== === ===
「・・・どう言う事だ?魔王が、居ない?そんな、馬鹿な・・・」
勇者一行は森を一切彷徨わず、強力な敵にも遭遇せず、迷わずに一直線に城へと到着している。
そして中へと入り込んでとうとう一番奥の間、玉座の前まで来た。
しかしここまで城の中で一切、魔族に襲撃を仕掛けられる事も無く、不気味な程に静かな場内を進んでの、この結末。
不気味に思わない訳が無い。奇妙に思わない訳が無い。困惑しない訳が無い。罠と思わない訳が無い。
「全員で内部を隅々まで捜索するぞ!四名一組で分散して怪しい所が無いか探すんだ!」
勇者は感じていた。神の加護は発動している、効果が働いていると。間違ってはいないと。
だけどもその力が向いているハズの魔王がこの城の中心に、玉座に居ない。
ここに来てようやく勇者は確実に何かがオカシイと感じるが、それが何なのかを知る由も無い。
「あり得ない事が起きている・・・それは一体なんだ?それを判明させなければ、恐らく魔王を、斃せない?そんな、馬鹿な?」
神の加護、その効果に因って即座に勇者は本質に近づくが、問題がなんなのかのヒントが一つも無い状態では答えを出せず。
幾ら神の加護が有ろうが、無から有を生み出したり、何らの切っ掛けすら勇者が認知してい無い状態では「真理」を捻り出す事は不可能で。
その後に何時間もかけて城中を探し回っても何の成果も上がらなかった事に勇者は愕然とさせられるのだった。




