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二百七十四話

 魔道具の故障、この件を聖女が魔族の仕業だと思いもしない理由、それは「世間知らず」であり、経験が圧倒的に不足している事である。


 それは当然の事であり、必然であった。これまで教会に閉じ込められ続けていたのだから、聖女が世の中を、そして、魔族の事をほぼ何も知らないと言って良い状態なのは誰がどう見ても解る事である。


 しかし聖女の周囲に侍る者たちはそんな事に対して気を向けもしない。


 何故ならば、聖女には神が付いているから。


 そんな「神頼み」であり、聖女自身の中身の事になど気にもしなかった。


 神の加護、その力に因って聖女の行動は全てにおいて魔族、ひいては魔王へと影響を及ぼし、人族を助ける、そう本気で思っている。思い込んでいる。


 聖女がこうして教会に戻らずにいる事すらも、それは全て「神の思し召し」などと考えている。


 その聖女は「もう教会に閉じ込められ続けているのはウンザリ」「教会の権力者たちの言いなりになるのは御免」と言った個人的な感情に因るモノである事など誰も知らない、知りもしない。知ろうとすら、しない。


 そして「神の言葉に従って、魔王を討つ」と言った覚悟を持っている事も。


 そんな聖女の心の内とは関係無しに、やはり神の加護は力を発揮しており、こうして王国、その首都を守っている。


 誰がどの様に思おうと、行動しようと、この結果、それが全てだった。


 そう、神の力とはそれ程に強大で、そして恐ろしい。誰の思惑なども超えて魔族、魔王と言う存在を拒否する。


 だが、その効果に綻びが生じている事になど誰も気付け無い。その「神」ですら。


 そんな存在ですら、その「綻び」に気付けていないのに、人族にソレを気づけるはずも無い。


 聖女は連日休み無く首都のあちこち、魔道具を設置した各所、その場所に足を運び続ける毎日になっていた。


「首都の全てを覆うのに数も揃えなくてはならなかったのもそうでしたが、隙間無く覆い尽くす為に設置する場所の距離もここまで離さなくてはならなかったのはどうしようも無いですね。」


 たった一つ、首都の中心に設置するだけで全てを覆う結界を張る魔道具、そんな物をまだ聖女は作製できなかった。


 それさえ作れていたら、この様な事が起きる事も無かったのでは?そんな聖女の思いはその表情に出る。苦虫を嚙み潰した様なモノとなって。


 しかしソレも今はどうしようもない事である。既に魔族は戦力を整えて首都へとじわじわと迫って来ているとの報告があったのだから。


 早急に今できる事を最大限に、そうして出来たのが今の状況なのだ。


 コレがそもそもに「綻びの一つ」だとは聖女も、国王も、勇者も、魔王も、思わない。


「聖女様!魔族が!首都の上空に!」


「来ましたか・・・ですが、この結界は破れないでしょう。安心してください、落ち着いて迎撃します。魔法砲撃隊を前面に出して奴等を撃退します!」


 とうとうその火蓋は切って落とされたが、大丈夫だと口にしたその聖女の顔は明るくは無い。


(魔道具に細工をして来ている者の正体がまだ掴めていないのに、魔族がやって来てしまった・・・来る前に犯人を取り押さえる事が出来ると思っていたのに、何故?)


 聖女は設置した魔道具の場所の警備を重点的にする様に指示を出していた。


 けれどもそれは一向に効果を見せずに魔道具の誤作動が連日起こっている。


 ついぞ先日に修正をした魔道具、そこの警備は厳重にしたはずなのに、その翌日にはまた同じ症状が出たと言って魔道具を監視させていた技術者からの連絡を受けた時には流石の聖女も愕然とさせられ。


 内部に裏切者が居るのではないか?その様な思考に陥りそうになった聖女は「そんなのはありえない」と否定している。


(魔族が今更、外部からこの首都へと侵入はしては来れない。魔道具の誤作動をさせているのは魔族じゃない。奴等ならこの様な遠回りな事、只の嫌がらせにしかならない様な事で止めない。必ず破壊してくるはず。でもこんな事を魔族以外に誰が?以前からずっとここ、首都に潜伏して隠れていた魔族が居たの?その殺人衝動を抑え込み続けて?それこそ、有り得ない)


 聖女は人を疑わない。魔族を疑う。ここにもまた「綻び」である。


 これが勇者であったならば貴族を疑っていただろう。政治的なアレやコレでの妨害を仕掛けて来ている者が居るのでは?と。


 しかしここにはそもそもに勇者も居ないし、居たとしてもその勇者の疑心も的外れであり、やはりそこにも「綻び」が生じていると言っても過言では無かった。


 本来の「神の加護」が力をしっかりと発揮できていたなら、ここで聖女は「もしかしたら」と言った可能性に掛けて魔族に操られた人族が今回の事を成しているのだと答えを導き出しているはずだった。


 勇者がもしこの首都に居たならば、きっと魔族の首都襲撃の前に犯人を見付け捕縛していた。


 段々と神の加護の力が発揮される焦点がズレていっている。この事に誰も気づかない。気付け無い。


 魔王が「世界の均衡を保つ神域」を破壊した事など、その魔王当人ですら理解できていないのだからさもありなん。


 次第にこの世界は神の定めた流れから逸脱し始めている。

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