二百七十三話
追撃、魔力の出力が上がらないだけじゃ無かった。
少しづつでも地下を掘って首都からの脱出を計ろうとして進み続ければ一定の所で何故か魔法が効果を発揮しなくなったのだ。
「まだこの距離は首都から出ていないよね?・・・これも聖女の結界の力って事?僕らは首都から出られない?」
まさかの閉じ込め。どうやら聖女の「神の加護」は僕らをここから逃がす気は無いらしい。
聖女が首都、ソレも城の地下深くに潜伏していた僕らを認識していたとは思えないので、もしかしなくてもこれは恐らく「御都合主義」と言った効果の程なのだろう。
「僕らをここから逃がさない事で何が起きるか想像できる?メーニャ、どうだろうか?」
「いえ、思いつきません。どう考えても聖女や勇者にこれ程の地下深くまで我々を追って追い詰める為の手段など無いハズです。その前に、魔王様がここに居る事すら知らないはずです。これまで地下に潜んで来た証拠も一切残していないので考えもそこへと至らない、分らないと思います。ですので、心配は無い、ハズです。」
流石のメーニャもこうなると「神の加護」の力には断言した否定はできないらしい。その最後に「ハズ」と付けている。
「コレは困った様でいて、困ってはいない、のかな?この場合は勇者に対してなのか、聖女に対してなのか、都合が良いのはどっちの方だろう?」
そう言った所が分からない。どちらの都合が良いのか?そしてその場合は僕にどんな不利益が生じるのか?
とりあえずは首都中心部では魔法がいつもの通りに使用出来ていたのでまだそちらに戻った方が安全と言えば安全だ。
首都から離れようとして外縁部へと行けば行く程に魔法が使えなくなるのならここに居続ける方が危険だと思った。
だがここで思考が切り替わる。外からの侵攻を防ぐために結界の近くでは魔法の効果が消えてしまうんじゃないかと。
「もしかして、僕らが対象なんじゃ無く、マードックが対象?攻めてきている魔族の方に「力」の向きが行ってるとか?魔族がこれから攻めて来るなら絶対に魔法を撃ってくるだろうし、ソレを受け止める結界だと飽和攻撃でもされたら壊される可能性も出るよね?じゃあ、魔法が消え去ってしまう結界ならそう言った攻撃は防ぎ続けるのに負担が少ない。」
これは僕の只の願望なのかもしれない。けれども、何だか勘としては「当たらずとも遠からず」と感じる。
ここで「じゃあ物理的な衝撃は?」と疑問に思ったが、しかしソレが防げない、などと言った脆弱な結界だとは到底思えなかった。
聖女の張った結界だ。そんなつまらない穴など存在はしないだろう。何せ聖女も「神の加護」を持っている様子なのだ。その「御都合主義」に下らない弱点など付くはずが無い。
ここで僕は確実に「何かが変わった」或いは「何かしらがズレた」と言った感想を持つ。
そこでまた思い付いた。その感想を確信に変える為に確かめるべきだ。
聖女への嫌がらせをするべきだと。
「メーニャ、ちょっと危ない橋を渡ってくれないか?首都に居るメーニャの育成した手の物を聖女への嫌がらせに使いたい。どうだろうか?」
「それは魔道具の破壊工作でござますね?」
「いや、そこまではしない。しないけど、似た様なモノかな?」
こうして首都での僕らの企みを進める事となった。
=== === ===
「聖女様!ここでも魔道具に誤作動が発生しています!直ぐにでも交換か修理をしなければ二日も持ちません!」
「どう言う事です?その前は違う場所、そのまた前も違う場所で同じ症状が出ています。これは明らかに人為的なモノです。でも、犯人らしき影も形も目撃が無い。偶然では決して無い!」
聖女はどうしてか誤作動を連日起こす結界の魔道具の調整に追われ続ける日々になっている。
コレは聖女が自身で設計、調整を施した物なので狂うはずが無いと確信を持っていた。
首都にやって来て暫く、その後に魔道具造りの才能がここに来て開花していた聖女。これが自身の持つ「神の加護」に因るモノだとは思いもしていない。
そしてこの件に関しては、勇者も魔王も国王も魔族も、その誰もこの「神の加護」の力だとは思いもよらない。
魔族が首都を総攻撃しようとしているタイミングで聖女がここへとやって来て、この様に都合良く、防衛の為の魔道具を開発する。
コレが神の力、御都合主義の影響力だった。しかしソレも今、横槍を入れられて聖女は首都の各地を走り回らされている。
魔道具が各場所へと設置を終えて力を発揮した後での、この様な妙な事態。これが魔族の妨害ならそもそもに設置前で無ければおかしな事で。
本来であったならば、一度この聖女の開発した結界の魔道具を発動させれば永続的に稼働するはずだった。
しかしそれがどうしてか、意図的に、かつ、纏わりつく様にして「故障」をさせられている状況だった。
聖女にはコレの意味が分からない。魔族がやっている事だったのならば、完全に破壊して結界を解除して来たハズ。
「あり得ません。だって、人の中にこの様な自身の首を絞める様な真似をする馬鹿者がいるはずが無い。そしてこの首都に魔族が潜んでいるなどと言った事も無いハズ。私の「神託」には何もお告げはされていない。どうして・・・?」
自身を排除したい団体、或いは個人がやった事かと、聖女は悩んだが、しかしソレを否定する。
「結界が壊されて魔族がこの首都に入り込めば、この様な真似をした犯人自身の命も危うい。私を排除したいからと言っても、そこまでして命を賭ける覚悟が犯人にはあるって言うの?それこそおかしい、そんな者が居れば、ソレは狂人だわ。」
困惑、その極み、納得がいく理由が思いつけない。
そう、聖女は夢にも思わない。魔族が人族を操って駒として使用している事など、これっぽっちも。




