二百六十九話
逃げるなら中途半端にせずに徹底的に遠方へと、それこそ絶対に勇者がやって来れるはずが無い場所、土地にまで逃げてしまえば良いのだ。
その事に今まで気付け無かったのは恐らくは何かしらの制限が僕に掛けられていたからなのだろうと思われるが。
「今更に、勇者との決着を付けないってのも、モヤモヤする部分があるんだよなぁ。これまでに僕がやって来た事への集大成?なーんて御大層な事を言う気は無いけど、その結末はしっかりと見届けたいんだよね。まあ、何が終わって、何が始まるのか?一切何も分からんのだけれども。もしくは、もう何もかもが終わっていたり?既に始まっていたりするのかも?あぁ、本当に誰か説明して欲しいんだよねぇ。」
唯一、そこら辺の事を説明してくれそうだった何時かの「真っ黒な存在」とは時間切れでマトモな会話すらできずに終わっていて。
その時に交わした会話?噛み合っていなかったのでそう言える代物では無かったのかもしれないが。
その内容は何らの考察やら次に繋がるヒントなどは一切伝えられる事も無く。
その真っ黒クロ助が何やら狼狽えたり思考したり驚いたり困惑したりと、寧ろそう言った反応はコッチがしたい、と思わずツッコミたくなったのだ。
(もしかしたら僕の方から端的、具体的な質問やら言葉をかけていたら、また違ったのかなぁ。うん、何かどうでも良いな?)
この先の事を幾ら考えても仕方が無い、そう思って難しく物事を捉え様とするのを僕は止めた。
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マードックは遥か上空から難しい顔で王国の首都を見下ろし、睨んでいた。
「・・・余りにもここまで順調過ぎた。予定では後一年程を掛けて首都近郊にまで迫る心算でいたのだ。勇者がダンジョン攻略を止めてこちらへの対処をして来た時の対応も考えていた。剣聖が国の守護の為に戦争に参加して来ると言った事も見越して戦略も戦術も立てていたというのに、何なのだ?明らかにこれまでの長い歴史との違和が大きい。異常だと直ぐに分かる。何が一体起きている?」
マードックの作戦は別に難しい事では無かった。
それは単純、魔王をなるべく守る戦い、これである。
こうして魔族が人族へと、それこそ王都へと攻め入るルートで侵攻して行けば、何処かしらのタイミングで勇者がこの戦争に介入して来る、そう言った見込みだった。
しかしマードックのそれは大いに外れた、外された。だから、ここまで人族の領域に攻め入ったのにも関わらずマードックは訝しんでいる。
ここまで勇者の持つ「神の加護」その力がまだ魔族軍へと発動されていない事が「おかしい」と。
なるべく勇者をダンジョン攻略へと向かわせない為に、こうして人族を大きく、そして直接的に攻めて勇者を戦場に誘導して「国の守護」に釘付けにするつもりだった。
その後も勇者を引き回し、魔王へと近づけさせない環境を次々に作り出してその対処に「たらい回し」にして時間を稼ぐ。そんな狙いの企みは完全に失敗している。
そもそもにマードックは最初に魔王を軟禁しようとしているのだが、そこは魔族の将来を考えており、ソレには魔王の統率が必要だと結論を出していたからである。
人の寿命を計算に入れて、そして王国の貴族たちの「我が身可愛さ」を利用、計画に組み込んで勇者を首都に呼び戻させて封じ込める作戦だった。
勇者の時間を奪いに奪って「安定的な世界」をその間に構築すると言う壮大な狙いもマードックは思考していた。
ソレでも恐らくは勇者の持つ神の加護が働いて、その意図も苦労も労力も思惑も、何時かは簡単に蹴り飛ばされてしまうのも計算の内に入っていた。
とにかく魔王と勇者を接触させない、その様な狙いがマードックの中にはあったのだが。
「この先どうするべきか?このまま首都を落としてしまっても良いモノか?待機させたままの魔族たちはもうそろそろ我慢の限界と言った感じか・・・長期戦をこのまま続けるならガス抜きが必要になるな。」
攻めるか、待つか、この二択でマードックはかなりの時間を費やした末に結論を出したのだった。




