二百六十八話
当初の作戦「灯台下暗し」は成功している。
王国も勇者も、教会も聖女も、剣聖も、僕らの事を把握できてはいないと確信を持てていた。
「けどねぇ。勇者の「神の加護」が何時、御都合主義を発揮して僕らへと繋がる切っ掛けを生み出すかもしれないのが恐いよねぇ。神ってのは何処まで行っても理不尽なんだろうから。」
魔神もそうだ。こうしてこの「魔王」に対して一切の「助力」と言った様子はこれまでに無し。放任主義かと叫びたい。何かしら一言くらいは助けてくれても良さそうなのに。
何がどう影響を及ぼしているのかとか、神の力がどの様に作用しているかなどのちょっとした説明などをしてくれても良いと思うのだ。
人族の間に広まっている、或いは魔族の中に伝わっている「神と魔神」の話などはそもそもに何を根拠にされているのかも不明だし。
古文書やら石碑やら叙事詩やら、何でも良いから物的、文章的な物があれば良かった。
その場に人も魔族も居て、神と魔神のやり取りのその一切を見届けていた、ソレを伝承として残した、と言った事なら話は分かるけども。
ドレもコレも別にそう言った保証や証拠などは何も無い。
この世界の「勇者と魔王」と言う神話を、人が自分たちの都合の良い様にする為に改変、でっち上げたと言う事も考えられる。
本当に「勇者と魔王」と言ったこの戦いはこの世界に必要なモノなのだろうか?
僕の思考はここに来て疑う基準、基礎がその点に向かっていた。
僕がメーニャから教わった神話、その内容が先ずおかしいのではないか?と。
でも、その話に何らの矛盾も無いと言った事は何度もこれまでに頭の中で反芻して確かめている。けれど。
「何せ四カ所あったあの「何か分からん不明の場所」での出来事で一切何も分からなかったんだ。僕はそもそもにこの世界の事を全く何も知らないってのを忘れていたよ。メーニャから教わった事が全部嘘だとは言わない。けど、僕は世界の成り立ちやら魔族、人、魔王の事なんてそもそもに初めから何の事かサッパリでこの世に出て来た。だったらもっと単純に平坦な思考で物事と世界を見るべきだった。」
僕がストレスを感じてしまうのは勇者にやられたく無い為だ。
だから、ここまで緩い感じではあるが、それに対抗でき無いかと動いて来た訳で。
そこまでの軌跡の間に少しでもこの世界の事が解かるだろうと、そう思っていたから、アーでも無いこうでもないと悩んでいた訳で。
それがこの「終わり」に近づいて来た局面に来て「まだなんもわからん」な状況であれば悩むのが物凄く馬鹿らしい。
「マードックは、向こうは向こうでこの連綿と続いて来た人と魔族の戦いに終止符を打とうと独自の方向で動いているんだよね?メーニャ、あれからどうなってるのかってのは随時把握してる?」
「はい、魔王様。どうやら愚兄はこの王都のすぐ側にまで勢力を迫らせています。しかし、そこからの動きは不気味な程にありません。コレに国の上層部や国王も、勇者を、或いは剣聖を呼び戻そうと必死に使者を派遣しているそうです。」
「ソレを聞く耳持たないと言わんばかりに断ってるの?何考えてるのか勇者も剣聖も分からないねぇ。不気味。」
僕はこれからどう動けば良いのか?何をどうすれば事が僕に有利に働いてくれるのか?
勇者の持つ神の加護にはどうやっても抗えない、勝てないのか?
マードックは何を考えてここまでジリジリと真綿で首を絞める様にして戦力を王国へとにじり迫らせたのか?
「分からない事ばかりで嫌になるね。何も根本的な所が解決できてない。あー、いっその事にこの大陸から離脱しちゃえば話が早かったのでは?」
海の外へと飛び出して全く別の大地に逃げ出す、今更にその案が浮かんで来て「その手があったか・・・」と僕は頭を抱えた。




