3-6 ユッカの蕾
しばらく歩くと、次第にこげ臭いにおいが強くなってきた。ユッカの村に近づいているのがわかって不安になった。
強奪された惨状を見たくないというのもあったが、それを目の当たりにしたユッカの心が壊れないかが一番の心配だった。
村に着くと想像以上の光景だった。
家だったらしきものは土台の一部だけが黒炭になって残っており、広大な畑や原っぱが軒並み炎に食いつくされた跡だった。
焦げたにおいが鼻を刺すように漂っており、ここに立っているだけで残った熱に焼かれてしまいそうになる。
ルクリア「大丈夫か?」
ユッカ「はい、ちょっとうちの方まで行ってみます。」
アザミ「行かせて大丈夫ですか?」
ルクリア「ご遺体とかは保安隊で運んでくれてるだろうけど、燃えた自分家見るのは辛いだろうからな、そばにいてやれ、」
アザミ「はい!」
ユッカは一軒の燃えた家の前で、何かそこにはないものを見つめるようにたたずんでいた。
ここが、ほんの昨日までユッカが家族と一緒に泣いたり笑ったりして住んでいた家だったのだろう・・・。
ユッカ「・・・」
アザミ「だ、大丈夫・・・?」
ユッカ「全部燃えちゃったんだね・・・」
何を言ったらいいかわからなかった。
今度はわたしからユッカの手をつないだ。
ユッカはその手を痛いくらいに握り返して来てくれた。
その強さから、言葉では言い表せないユッカの気持ちが伝わってきた。
ナンテン「ルーちゃーん!!!」
どこからともなくナンテンさんがこちらに向かって走ってきた、
走って来るや否や、ユッカの前に座り込んで土下座をしだした、
アザミ「!?」
ナンテン「ごめんなさい!本当にごめんなさい!!!」
ユッカ「ど、どうしたんですか!保安隊さん、」
ナンテン「昨日は、あなたの家族も、村の人たちも、家も全部、なんにも守れなくて・・・」
ナンテンさんはボロボロと涙を流しながら何度もユッカに謝っていた、
ユッカ「そんな・・・、保安隊さんのせいじゃないですよ、」
ルクリア「昨日はあっちこっちで同時に事件が起きてたんだ、こんなへんぴな村が襲われるなんて誰に予想ができる?」
ナンテン「でも・・・」
ルクリア「どう考えてもおまえのせいじゃない、全部白仮面の奴らが悪いんだからよ!」
ユッカ「それに、悪い人たちをみんな捕まえてくれたじゃないですか!」
アザミ「そうです、ナンテンさんはちゃんと自分の仕事してました、そのおかげでユッカは助かったんです!」
ナンテン「・・・ありがとう・・・」
ナンテンさんはバツが悪そうにゆっくりと立ち上がった。
ナンテン「これ、奴らの持ってた白仮面、あなたが殴って壊してちょうだい!」
奴らのつけていた白仮面をユッカの目の前に突き出してくる。
ユッカ「・・・え?、・・・で、でも、」
ルクリア「思いっきりやってみな、少しは気持ちが晴れるかもしれないぞ、」
ナンテン「目をつむって!思いっきりやってみて!」
ユッカ「・・・わかりました!」
ユッカは目を閉じて一つ深呼吸をすると、思いっきり振りかぶって拳を突き出した。
しかし、ユッカの手には仮面を壊した感覚とともに人の肌を殴ってしまった感覚が走ってきた。
ユッカ「えっ!?」
アザミ「!!!?」
ルクリア「はははっ!」
ユッカが目を開けると、足元には壊れた白仮面をつけたナンテンさんが口から血を流して倒れていた。
ナンテン「・・・いった~~~・・・ゲホッ!ペッ!」
ナンテンさんはゆっくり起き上がり、血と奥歯を一緒に吐き出した。
ユッカ「保安隊さんっ!!!」
ナンテン「い、いい、ユッカちゃん・・・これからこの白仮面をつけてるやつに出会ったら、全員こうしていいからね!・・・私が許すから!」
ユッカ「は、はい、」
ユッカの手にはじんじんとした物理的な痛さと、初めて人の顔を思いっきり殴ってしまったという精神的な感触がまだ残っていた。
ユッカ「ルクリアさん!あたしかわいい服が欲しいです!」
ルクリア「!?、なんだ急に?」
ユッカ「昨日なんでも好きなもの買ってくれるって言ったじゃないですかぁ!だってあたしの服とか全部燃えちゃったんだもん、」
ルクリア「いや、言ったけどあの時はおまえが泣いてたからで・・・」
アザミ「確かに言ってました、」
ナンテン「じゃあ約束は守らないとねぇ!」
ルクリア「わ、わかったよ!買ってやるよ!」
ユッカ「やったー!ありがとう!アザミちゃんの分もね!」
アザミ「わ、わたしは大丈夫・・・」
ナンテン「いいじゃない!二人ともいっぱい買ってもらいなさい!」
ルクリア「お、おい!勝手なこと・・・」
ナンテン「よかったわね~!ユッカちゃん!」
ユッカ「うん!」
ルクリア「・・・!!!わかった!わかったから!もう行くぞ!」
ユッカ「やったー!ありがとうございま~す!!!」
アザミ「よかったね」
人を励ますということはとても難しい事だと実感した。
「一緒にがんばろう」とか適当な言葉をかけただけではかえって相手の気持ちを逆なでしてしまう。
それは励ましではなく、フォローしてあげてる自分を見てほしいための無思慮な行動だ。
励ます方の人の性格、生い立ち、これまでの行動を考慮して言葉や態度に出さなければ伝わらない。
いや、そこまでしてちょっとでも伝わればいい方かもしれない。
ユッカの心が元に戻ることはないだろうし、長い時間をかけて歩いていくしかないのだろう。
わたしは少しでも一緒にいたいと思った、
もしかしたらそれは自分のためなのかもしれないが、それでも一緒にいようと思った。
アザミ「行こっか、」
ユッカ「うん!」
元気のいい返事をすると、ふと家のあった方を振り返って小声で何かつぶやいていた、
ユッカ「(ありがとう、お父さん、お母さん、コブシ、・・・行って来ます!・・・)」




