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合言葉は、村人A「旅立ち編」  作者: 白雪 四葉
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8/12

旅立ちの時、別れの朝

村人➡執事➡勇者の道筋はメイクミラクル(天使談)


Q:モブキャラ出身でも勇者になれるか?


A:運と魔王と黒騎士が合えばなれる(筈)

 俺が勇者と執事の二足のわらじに悪戦苦闘しながら、早くも三年の月日が経った。

 当時は十六歳だった俺も、今では十九歳になり少しは成長した様に思う。





 剣の扱い方も、何も知らなかった俺は今や昔の話だ。






 時折、魔界最強の黒騎士と呼ばれるヴェルグや恐れ多くも魔王様の教育を受けて来たので、ちょっとはマシになれた筈。





 当然、二人とも最強クラスの存在なのでかなり手加減してくれているのだけど。






 それでも幾度となく死にかけた俺、実に不甲斐ない。







 だってスパルタ式なんだもん…本当に容赦無いよ魔王様もヴェルグも!






 村人相手にサディスト全開フル回転営業中だった。







 スクワットしながら魔王様の放つ衝撃波を避けて、更にヴェルグの魔剣攻撃まで避けてみろとかどんな無茶ぶり?







 普通に死ぬわ。







 無理無茶無謀の三種の神器だよ!!意味不明ですみません。





 魔族はやっぱりドSが多いと思うんだ、俺は危うくドMに開発されかけた。

 瀕死になって全回復、の繰り返しが快感になりかけてたよ!それでも死なずに耐えきった俺、マジで偉くね?





 …クレア様の光魔法には相当なお世話になりました。









 そして、ようやく訪れたその瞬間。









 いつも聞き慣れた言葉以外の一言に、俺は耳を疑った。












「美味い」






 毎朝毎晩、仕事として続けていた当たり前の奉仕。




 紅茶にうるさい主の舌を唸らせる、至玉の一杯を淹れられる腕前を俺はようやく得ることができたらしい。





 俺の当面の御主人様は、ヴェルグ=エルトリア。

 魔界最強の黒騎士様だ。





 奴の性格は生真面目で、仕事に対する甘えを一切許さない物であるから、この一言がどれだけ嬉しかったか理解できると思う。





 誰に対しても、最初から厳しい態度を崩さない男は優しい所もあるのだが、それがなかなか見えないから誤解を受けやすい。





 でも俺、ちゃんと分かってるよ?本当は世話焼きのくせに、素直じゃないってさ。






 俺とリリエル、他にも沢山の使用人やオレインさんの面倒を文句一つ言わずに受け入れて、魔王様の補佐もしているんだから頭が下がる。






 

「よくやった、この調子で精進するように」

「うへへ…ヤバい、嬉しい!なぁもっと誉めて誉めて」

「調子に乗るな…まぁ、今日くらいはいいか。そろそろ、魔王様の許可が必要な時期に入って来たのかもしれんな」




 顔が緩みまくりの俺を、苦笑混じりに見つめながらヴェルグは頭を撫でて誉めてくれる。





 それが本当に嬉しくて、俺はまたにやけてしまった。





 ヴェルグにこんなに優しくされたのは初めてかもしれない。







 いつも怖い顔で「まずい」と言われ続けた俺としては、天にも昇る心地とも言える幸福の瞬間だった。





 加えて今まで全く会話に出て来なかった、魔王様の許可という単語に俺は嬉しい反面で酷く狼狽した。







 心のどこかで、このまま平穏な時を過ごすのも悪くないと思い始めていたからだ。









「魔界の剣…かつての勇者、ロベリオの成れの果てをお前が所持する許可だ。それから旅立ちの許可も必要だな…」




 この三年の間、俺は世界を巡る上での基本的なマナーから剣術に至るまで魔王様のお膝元で学ばせて貰った。




 人間界から見れば、きっと俺もロベリオ同様の扱いなのかもしれない。






 人間のくせに、魔族の味方をする裏切り者。





 それでも俺は、やっぱり魔界を捨てられない。






 だってここにいる皆が好きだから。


   



 そりゃあ最初こそ拉致同然の出会いだったけど。







 魔王様もヴェルグも、友達の魔物達も全部含めて魔界の一部。






 天空人のクレア様や竜人族のリリエル、地底人のオレインさんは魔界と別の出身だけど心はきっと俺と同じ筈だ。





 それに魔王様の器はとても大きくて、人間も天使も魔族も悪魔もきっと関係なく受け入れてくれる。






 オレインさんの話で聞いた非情な人間界のアストレイル帝国…今は皇帝も何代目なのか知らないけど、そっちよりはずっと信用できると思う。



 




 …だけど本当に、人間の俺が魔界の勇者で大丈夫かな?






 千年前の魔界の勇者は今、どこにいるのかな?ロベリオは本来、人間界の勇者だった筈だ。





 それから天空界の勇者、地底界の勇者もどうなったんだろう?

 




 色々と魔王様やヴェルグに聞きたいことは多いけど、まだ聞くのは早い気がして俺は聞けずにいる。

 

 






 結局、俺は三年経っても臆病者のままだ。





 

 ほぼ執事暮らしに染まりかけていた俺は、まさかヴェルグが本気であの時の言葉を実行するとは思えず驚いた。







「えっ!?お、俺、ずっとここの執事じゃないのか?」

「何を馬鹿なことを言っている、ロベリオに成り代わると俺に誓いを立てた筈。村人から勇者になる、違うか?」

「本気でそう思ってくれてるとは思わなかっ、痛い!ごめんなさい!死ぬ気で頑張りますから許して御主人様!」




 ギリギリと俺の頭を片手で握り潰す勢いだったヴェルグは、そこで涙目になった俺をどこか心配そうに見つめると静かに目を伏せた。





 最近になって、ようやく俺はヴェルグの癖に気付いたのだけど。





 何か言いたいことがあるけど言えずにいる時、よく目を伏せるんだ。






 それがまた綺麗な顔なんだよね…魔族って顔立ち整いすぎてるだろ、そして魔王様は最もそれが顕著だ。





 長めの艶やかな黒髪に、魔王専用の黒衣と綺麗な深紅の瞳が魔王様の迫力と美しさを殊更引き立てている。








 魔王様が魔族の美しさを顕す象徴なら、クレア様はきっと天空人…天使の美しさを顕す象徴だと思う。



 



 三年経っても臆病者の俺は、やっぱりクレア様を前にすると恥ずかしくて言葉が出て来ない。







 ほとんど三年前と姿が変わらない少女の様なクレア様。





 それに比べてほんの少しだけど身長が伸びて、顔立ちも大人に近付いた人間の俺。







 種族の違いに改めて気付かされ、俺は竜の男だったロベリオよりも更に彼女との距離があるのだと感じた。














「まぁ…では、ようやく旅立ちの時なのですね?喜ばしいことです。これでロベリオも、やっと…」






 旅立ちの時、別れの朝。





 クレア様の瞳には、今まで見たことのない嬉し涙が滲んで俺は少し悔しくなった。






 千年前のロベリオとの出会いから、別れの時まで。






 導き手として勇者の彼と一緒に過ごした中で、クレア様の思いはどこにあったのか。






 やっぱりロベリオと同じように、クレア様もロベリオのことが…そう思うと胸が苦しくなって、俺は聞かずにはいられなかった。






「あ、あの…クレア様?」

「何でしょう?」

「クレア様はロベリオのこと……いや、何でもないです」




 もしもここで俺の質問に肯定を返されたら絶対に立ち直れない、それだけは確実に言える。





 既に存在しない相手に嫉妬するとか女々しすぎる、我ながら成長してないなぁ…俺。

 




 そうやって一人で勝手に落ち込む俺に、気付いているのかいないのか。


 



 クレア様はいつも通りの優しい微笑みを浮かべると、旅立つ俺に向けて気遣いの言葉をかけてくれた。






「私はご一緒できませんが、くれぐれもお怪我などなさいませんよう。そのペンダントが貴方様を守る盾となり、これまで貴方様が築いた絆は刃となって戦いの礎になるでしょう」

「え?」

「私は現在、魔王様の契約者…ここから出ることは許されておりません。私の身を守る為の、苦肉の策です」





 今まで考えたことがなかったけど、そもそも天使のクレア様が魔王城にいること自体がおかしい話だ。




 守るべき存在、ロベリオを失ったクレア様がどうして未だにこの場所に留まっているのか?





 俺は改めて、肝心な所に気付いていなかった己の浅はかさに愕然とした。






 身を守る為に魔王様の契約者でいるのだと言う、クレア様の瞳には僅かに苦悩の色が浮かぶ。





 きっと故郷に帰りたい、そんな望郷の念は彼女の中にまだあるのだと感じた俺は少し寂しさを覚えた。





 第二の故郷としてでもいいから、クレア様にもこの場所を帰る所と思って欲しい。

 





 そう思うのは、やっぱり俺の我が儘だろうか?







「ですが、僅かな時なら召喚に応じることもできるでしょう。ロベ様、宜しければどうぞ両手をこちらに」

「え、っと…こう、ですか?」

「はい、では心を楽にして目を閉じて下さい…」




 

 繋いだ両手から伝わるお互いの温もり。 



   

 これでクレア様に逢えるのも最後になるのだと思うと、俺は目を閉じるどころかじっと彼女の顔を見つめてしまった。




 クレア様と俺の前に光輝く魔方陣が浮かび上がると、俺と彼女を繋ぐ一つの輪になって最後はペンダントの中へ吸い込まれて消えた。





 召喚に応じてくれる、それは少ない時間でも逢えると言うことでもある。





 俺は気持ちを切り替えると、繋いだままの両手に想いを込めてクレア様の瞳を見つめ直した。





 彼女の中に、きっとまだ俺は入り込めていないのだろうと理解していたから本当に言いたい言葉は言えなかったけど。









「あの、クレア様…俺、ちゃんと頑張ります!立派な勇者になって、ロベリオの汚名返上しますから!」

「はい、期待しております」

「その…は、花冠!最後に置いて行きますね!それじゃ」





 純白はクレア様に一番、似合う色。




 だから最後に贈る花冠も、純白の花だけで作った。





 俺の中の彼女はいつまでもあどけない少女のままの姿。





 届きそうで決して届かない、人間の俺と天使の彼女との距離。








 でも今はまだ、これでいい。






 だって俺はロベリオとして何も成していないから。



 



 きっとロベリオも、俺と同じで守りたかったと思うんだ…彼女の曇りのない笑顔と優しさを。




 

 何だか泣きたくなって、逃げるみたいな形でクレア様の下を去ると、途中の廊下で両腕を組んで壁にもたれたヴェルグとすれ違う。







 旅立つ俺が、クレア様の下を訪れることを見越していたのだろうけど気まずい。






 こんな時だけ、普段はなかなか見せない優しさを発揮するのはやめて欲しいと思った。

 









「良いのか?何も言わずに」

「な、何だよヴェルグ…覗き見とか趣味悪いぞ」

「たまたま、だ。この俺が覗き見などする筈がなかろう?お前もロベリオと似た者同士だな」





 ロベリオも最後まで、クレア様に想いを告げることなく姿を消したことを言っているのだろう。






 俺の場合は単に勇気がないだけで、ロベリオの様な苦悩は無いだけ幸せだ。







 俯きながら歩く俺の隣を背丈が高く、しかも脚まで長い羨ましい体型のヴェルグも歩幅を合わせて歩く。





 やっぱりこんな時だけ優しくて、だから余計辛いと思った。







 ついでに小さい背丈に脚も短めの俺、ヴェルグと並んで歩くと余計な精神的ダメージを負って傷ついた。







 イケメンはその辺、分かってくれないから困るよね…











「うおーん…アニギいぐのが?ゆうじゃになるのが?」





 三年前の魔王城で俺がバニーガールの妄想して、その時に冷めた視線を送ってくれたオーガがコイツだ。




 それから何だかんだ色々あって、魔物の言葉を理解し始めた頃の俺が初めて友達に選んだのもこのオーガ。






 見た目は怖いが、気は優しくて力持ちのいい奴だ。




 

 話してみると意外と泣き虫だったり、俺が魔王様から頂戴したお菓子を半分こしたりと、まるで普通の人間同様の喜怒哀楽が微笑ましかった。





 その内、俺をアニキと呼んで慕ってくれてちょっと照れ臭かったけど嬉しくもある。





 魔物の友達作りにも貢献してくれたコイツは、気のいい仲間か友達感覚だ。




 

 まぁ人間の俺と魔物の友達って、知らない人達が見ればやっぱり異常なのかもしれないけど。



  



「オーガ、友達ナンバー0番!お前が俺と友達になってくれたから、皆と友達になることができた。本当にありがとう」

「う、ふぐおぉーん!アニギがいないどおでざびじいぞ」

「大丈夫!俺とお前は友達の証として契約してる、召喚に応じてくれればいつでも逢えるよ?」

「ほんどうに?」




 ボロボロ涙をこぼすオーガと拳を合わせ、俺まで泣いてしまわないように涙腺を固く閉じた。




 ここで俺が泣いてしまえば、きっとまたオーガは泣いてしまうだろうから。





 だからわざと明るく笑顔で、続く言葉を俺は探した。






「いつかお前とカジノに行く!そしてボインでバインなバニーガールをお前に見せてやる!俺とお前の男の約束だ」

「アニギイィ!!」

「あ、抱きつくのは勘弁。お前に抱き殺されるのは痛い」

「うおぉーん!!」





 俺に抱擁を拒絶されたことがショックなのか、オーガはいつも以上に滝のような涙を落とす。





 ちょっと罪悪感。


 




 ごめん、だってお前に抱きつかれるとマジで痛いし。  





 力が強すぎなんだよ!種族的に仕方ない話だけどな。


  




 遠くで俺とオーガのやり取りを見ていたヴェルグは、俺達の様子が面白かったのか笑いを堪えていた。







「お前はつくづく、妙な物に好かれるな」

「ヴェルグも含めて?」

「好いてなどおらん!」

「またまたぁ!俺に優しい御主人様、ご奉仕致しましょうか?痛ぁ!ごめんなさい、調子に乗りましたあぁ!!」





 そりゃあ調子に乗った俺も悪いけど。




 怒ると俺の頭を握り潰そうとする癖、いい加減にやめて欲しいな…いつか本当に潰されそうで怖いから!





 何とか保護者の機嫌を直すと、次はいよいよ魔王様のいらっしゃるお部屋に向かう俺とヴェルグ。






 三年前からようやくここまで来たのだと思うと、何やら胸に迫る物があった。













「行くのか?犬よ。いや…これからはレミリオと名乗れ。勇敢なるロベリオの志を引き継ぐ、我が愛し子よ。古代魔族語で祝福の意味を持つ名を贈ろう。そして魔界の剣と共に、勇者の魂も持って行くが良い」





 ようやく勇者として本当の名前を貰えた俺、レミリオ。





 これで「ロベリオ(仮)」って言われずに済むんだな?





 わーい、やったね俺。





 魔王様、ありがとうございます!色々あったけど、俺は拉致されて幸せです!死にかけたりしたのも良い思い出です!






 

 …嘘です。







 死んでたらマジでシャレにならなかったこの三年間、遊びの中にも修行を織り混ぜたらしい教育方法。





 普通の人間なら泣いて逃げ出すと思うよ?これ本当。








 困ったことに、魔王様は執務より遊びの方が大好きな御方だ。





 サボりや失踪は当たり前、側近のヴェルグはいつも手を焼いて俺に魔王様探しの協力依頼することもしばしばだった。






 そんな俺の飼い主は、俺と一緒になって魔王城を舞台にかくれんぼするほどの自由人だ。 




 オマケにとてもフレンドリーで、俺からあやとりを習って大喜びする子供みたいな一面もある。







 …当然、ヴェルグは呆れて頭を抱えていたけど。








 まぁね?魔王様が鬼の役になると、容赦なくあっちこっち爆炎呪文ぶちかまして高笑いする悪人その物になるので困るんだけどね。





 だからなるべく鬼の役は俺なんだよね……しかし、自分の城を破壊しまくるのはどうなんだ?まさに自由人!さすがカリスマ。






 細かいこと気にしなさすぎじゃね?大物だなー…だけどその分、ヴェルグの顔色が悪くなるんだけどね。

  

 



 俺やクレア様、リリエルにオレインさん…それから主として崇めているカリス魔王様、はては使用人やメイドに執事などヴェルグの世話になる人間は多い。







 …半分は人間以外も混じってるけど。







 その中でも特に俺が気になるのはやはり、彼女のこと。




 






「あの、魔王様?」

「何だ?」

「クレア様との契約って、いつまで続くんですか?」

「ほう?犬の分際で天使に恋したか?くく、ますます貴様はロベリオそっくりになってきたな。これもまた因果かの」





 何ですと?今の俺は竜人族の勇者ロベリオそっくり、これは喜ぶべきなのか否か。





 まぁ普通は喜ぶ所だろうな、魔族の英雄なのだから。





 だけど素直に喜ぶのは何だか癪な気がして、俺は愛想笑いでごまかした。






 魔界を守ったロベリオには憧れる反面、妙な対抗意識が芽生えて困る。






 今の俺じゃ対抗馬にもなれないレベルなんだけどね…






 あ、地味に凹む。






 クレア様はロベリオとどんな旅をしていたのかな?いつか聞いてみたいけど、でも聞きたくない気もする複雑な俺心。





 

 俺のそんな気持ちに気付いているのか、それとも気付かない振りをしているのか。







 魔王様は淡々と事実だけ語る。






 それがたとえ残酷な事実でも、魔王様は優雅な微笑を浮かべて朗々と語るのだ。






 こんな時、俺と魔王様の間には見えない壁が存在するような気がして居たたまれなくなる。





 やはり彼は魔界を統べる王なのだと再認識し、畏怖と同時に不思議な敬意を覚える。





 これが恐らくは、心酔と呼ばれる感情なのだろう。








 圧倒的な力と存在感、魔界最強と呼ばれる黒騎士ヴェルグを側近として抱えるカリスマ性。





 

 魔王様は、残念な時と格好良い時の差が激しい御方だ。

 






 ちなみに今は、格好良いカリスマ魔王様が絶賛降臨中。








 いつも苦労させられているヴェルグに見せてやりたいと思ったが、俺は隣にいたことを忘れていた。





 それほど魔王様が神々しくも禍々しい、圧倒的なオーラを放っていたからだ。









 うん、とりあえずそう言うことにしておけばヴェルグも怒るまい…多分。

 







「クレアチスはロベリオの導き手、天空界は恥として認識しておる。ロベリオの誤解が解けるまで解除は無理だな」

「恥として!?」

「うむ…天使の愛すべき人間を裏切った人間、ロベリオは天使からも嫌われておる。それを守ったクレアチスも同罪よ」

「そんな!クレア様は何も悪くない。あ…だから、魔王様の契約者に?」





 契約者になると、お互いの危機を察知したり命を共にしたり決して離れられない関係になるらしい。




 そして契約を結ぶことにはメリットもあるが、デメリットもある。






 良くも悪くも相互関係を持ち、共に生きるしか道がない呪いに近い縛りだとか。





 だから魔族の女は、自分の男と決めた者を逃がさない為に早々と契約を結ぶらしい。







 やっぱり魔族の女は怖いな…俺、クレア様で良かった。








 そんな怖い女に囲まれている魔王様は、実はかなりのフェミニストだ。




 クレア様に限らず女性は全てにおいて、守るべき対象だと思われている。






 その点については俺も同意見、魔王様は素晴らしい。







 魔王様の場合、フェミニストの筆頭であるヴェルグに影響されている部分も多々あるだろうな。






 クレア様のことは、これで少しだけど不安は薄れた。








「我の傍におれば、とりあえず安全だ。今代の人間界の勇者…確かアリオスとか言ったか?は我を殺すつもりらしいが、まぁ竜の男だったロベリオに比べればカスだな奴は。相当な色男で女人は食い放題、荒らし放題だとか?男の屑だな…そもそも女人とは食う物でも荒らす物でもない、守るべき弱き物ぞ。我は負けぬ、その様な心構えの勇者にはな。よって我の前へそのアホ面を晒しに来た暁には、返り討ちにしてくれよう!くっくっく。ロベリオの後任が奴とは、人間界の皇帝もたかが知れるわ…」





 ぷぷっ!人間界のイケメン勇者、アリオスはロベリオに比べるとカスだって。




 


 あ、何かもう気分スッキリ。






 そうさ!男の価値は顔じゃない、行動に左右される。





 スケコマシ反対!男なら一途に一人だけを愛するべきだ。





 ふん!イケメン勇者だからって俺達の心のオアシス、クレア様までモノに出来ると思うなよ?







 その点、俺とロベリオは合格だと思います。






 自分で言っちゃうよ?だって俺、一途だし!









 ……報われるかどうかは別として。








「えぇ全くその通りですね!魔王様、格好良い!さすが俺の飼い主、志が高い!俺も鼻が高いです!」

「ふっ、当然のことよ。つまりはだ、そんな男がクレアチスを見つければどうなる?想像してみよ…間違いなく天使の純潔は奪われるぞ?それに、今はまだ天空界への道は閉ざされておる。よってクレアチスは故郷に戻ることも出来ぬ…哀れよな」




 

 想像するだけでおぞましい!純情可憐なクレア様の純潔が、顔もろくに知らないイケメン勇者に奪われる?






 ガッデム!サノバビッチ!!







 何か知らないけど「怒る時にはこう言うんだぞい」とクソジジイ…村長に教わったので、ここで使ってみた。







 ……俺、騙されてるのかな?









「我はな、犬よ…ロベリオを友と思っておったよ。親友になったヴェルグの手前、表沙汰にしたことはないがな?」

「魔王様…」

「だから、生き写しのお前には勝手に妙な期待を持って強いているのだ。ロベリオの果たせなかった夢の続きを…」






 ちょっとうるっと来た魔王様の本音。 





 ヴェルグには内緒にしておこう、俺と魔王様二人だけの秘密ってことで。






 と、思ったけどやっぱり隣にいたことをまた忘れていた。


 




 ごめん、ヴェルグ…わざとじゃないぞ?故意だ!







 え?それって結局、わざとってことになるって?ははっ、細かいことは気にするな!ヴェルグみたいに面白くない奴になるぞ?






 それにしても二人だけの秘密って、何か卑猥でドキドキするのは俺だけかな……どうせならクレア様と二人だけの秘密の方が欲しかった、なんて思ってませんよ?えぇ、ちっとも!








 それに俺はロベリオにそっくりなので「ロベリオ(仮)」と呼ばれて長い。






 仮が付いてから三年も経ってようやく本名貰えるとか…







 俺の扱い、結構酷くね?






 マナーを習わせるにしても、執事にしなくても良くね?







 俺の飼い主、魔王様。




 俺の御主人様、ヴェルグ。


 




 主人が二人、実にややこしい関係。 




 まぁどっちも尊敬してはいるけどね。

 







 お陰様で、メイド恐怖症が身に付きましたよ…




 あ、リリエルは別だぞ?アイツは女として見てな、げふん!仲間だと思ってるからな。









 

 村人Aと呼ばれていた頃、俺はずっと一人の寂しい存在だと思い込んでいた。





 でもそれは結局、俺の驕りでしかなかった。


 





 クソジジイ…もとい俺の育ての親である村長、他にも沢山の村人達や来訪者。

 




 俺を取り巻く全ての人々に、俺はきっと助けられてた。









 そしてそれは、今も。






 形はちょっといびつだけど。







 魔界を守り、人間界との因縁を解消し、地底界を暗闇から救い上げ、天空界の威光に凝り固まった制度を廃す。






 魔王様の望みはどこまでも、世界全てに果てしない優しさを届けることだ。



 

 

 自らは立場上、動けないから俺にその夢を託すのだと言って魔王様は朗らかに笑う。







 今日もどこからか仕入れた珍しいお菓子を俺に与え、その反応に満足すると玉座で頬杖をついて魔王様は語る。








「それにお前は菓子一つで笑顔になる、本当に犬よな?」

「そんな、魔王様~!」

「誉めたつもりだぞ?」


 



 恐らく魔王様の使い魔、経由なのではないかと思われる珍品の入手経路。





 魔王様の使い魔は白い鷹だけど、精霊の一面も持つとか。





 そう言えばオレインさんの使い魔、黒猫のクローバは人間の言葉は喋れないけど。





 

 








 精霊の力が弱いケット・シーは、人間に近い存在で商人として成功している者が多いとか。





 俺は可愛い黒猫としてクローバを愛でてるけど、魔王様やオレインさんは他の部分も見ているのかな?









 旅立ち用の資金や俺用のお菓子、その他諸々。





 魔王様が用意して下さったありがたい品々に、俺は目を奪われた。







 お菓子って……魔王様、完全に俺を犬扱いだな。









 中でも一番ありがたかったのは、全てまとめた荷物をコンパクトに収納可能な魔装具。





 魔界の魔法アイテム職人の手作りらしいけど、貴重品なので無くさないように注意するよう言われた。











 魔王様は玉座から立ち上がり、右手を前にかざすと俺の行く道を指し示す。





 そのお姿があまりにもテンプレっぽくて、ちょっと悪者っぽく見えると思ったのは俺の気のせいだと思いたい。








「魔界の勇者レミリオよ…世界を統一し、必ず戻れ。クレアチスの身は我が守る故、お前はヴェルグと共に行くが良い」

「いいんですか!?俺がヴェルグを連れて行っても」

「あれほどの男は魔界にもそうおらぬ。お前の保護者として付けてやろうぞ」

「子供扱い!?」


 


 

 正直、ヴェルグとはここでお別れと思っていた俺は魔王様の気遣いをありがたく受け入れた。





 怖いけど頼りになるし、意外と優しい…それだけは確かだ。








 ちなみに世話焼きなヴェルグの次に配属されるのは、更に気難しそうなこれまた眼鏡の似合う黒騎士らしい……魔王様の側近、黒騎士じゃないとダメなの?とは聞けなかった。







 もしや……魔王様の趣味だろうか?







 確かに黒騎士って格好良いけどね……漆黒の鎧が怖くて悪者っぽく見えるけど。





 昔、冗談でそう言ったら笑顔のヴェルグに首を絞められて死にかけたので二度と言わないと決めた俺。


 





 馬鹿ですが何か?



 








 魔王城からエルトリア家に一度帰宅し、旅立ちの用意を慌ただしく進めるとメイド達は主人のヴェルグのみに涙を見せて自己アピールしてたっけ。






 すぐに流せる涙が胡散臭い、あざといな…と思うが、口にはしない。




 そんなこと俺自ら口にせずとも、狙われているヴェルグ本人が理解しているからだ。




 


 俺とリリエル、オレインさんはそんな主従関係の面倒臭さを遠目に見ながらそれぞれ旅支度を終わらせた。






 基本的に女の支度は遅いと言われているけど、この二人はかなり早かった。




 だけど急いで終わらせる、その気持ちはよく分かる。











 だってさ?ずっと、この瞬間を俺達は待っていたから!






 いつか旅立つ、その日の為に弱い俺は当然だけど強いリリエルもオレインさんも真面目に修行続けていた。






 それもこれも全ては、今日のこの日を迎える為に。






 だけど張り切りすぎて、色々用意していたら女二人に怖い顔で睨まれて俺は蛇に睨まれた蛙の如く縮こまった。





 あ、この感覚は何か懐かしい感じがする…過去にも同じようなことがあったような?

 







「遅い!いつまで待たせるのよ」

「本当に…女を待たせるなんて」

「万死に値するわ!」

「右に同じ…覚悟はいいかしら」




 戦斧と黒魔法、凶悪な攻撃方法を得意とする二人の怖い女に囲まれた俺は逃げ場なしで万事休す。





 メイドに囲まれたヴェルグとは雲泥の差だよ…





 そのヴェルグがようやくメイド達を退けて、俺の所へやって来たので俺はこれ幸いとばかりに奴の背に隠れてやり過ごす。






 リーダー格のヴェルグ相手に無茶な真似はしない二人、面白くなさそうにさっさと俺に背を向けた。






 あのね?一応、俺って勇者の筈なんだけど…立場が無いなぁ。



 











 魔王様の許可を得たことで、再び侵入可能になった魔界と人間界の境界。







 普段は魔王様の魔力による強力な結界が張られていて、魔族といえども簡単に入れない場所になっているとか。






 異空間とも言えるその場所は、圧縮された魔力の吹き溜まりになっていて少し息苦しさを覚える。







 空を見上げれば、青い炎のような魔力の塊が浮遊していてまるで満天の星空みたいだと思った。






 きっと夜に訪れたら綺麗だろうなぁ…カップルに喜ばれそうな場所だと思いながら、俺は口を開いた。



 








「ここが魔界の…」

「境界だ。この先にロベリオの魂とも言うべき剣が眠る」

「うっ、緊張してお腹が痛くなってきた…と、トイレに」

「馬鹿者、俺が許すと思うのか?何だその顔は!腹痛ごとき気合いで何とかしろ!う…わ、分かった!分かったから泣くな、行って来い!魔王様…コイツで本当に大丈夫でしょうか?俺はいよいよ不安になって参りました……はぁ」





 緊張するとお腹壊しちゃう繊細っ子なんだよね!俺。





 だから緊張させないで下さい、気弱でごめんなさい。






 当然、トイレなんてある訳が無いこの場所。

  






 どうやって処理したのかはご想像にお任せします。









 悠々と片手を上げて笑顔で戻るとヴェルグとリリエル、オレインさんは呆れた顔で俺を出迎えてくれた。







 こんな勇者でごめんなさい。








「やーごめんごめん、待たせた!さ、いっちょやるか」

「お前はまた、緊張感のない…」

「だって俺、緊張し過ぎるとお腹壊しちゃう繊細っ子だからさ?逆に気を抜くことにした。んで、剣ってどこ?」




 不安そうに俺を見つめるヴェルグの指し示す先には、立派な紋章の彫られた台座に突き刺さる剣が見える。




 恐らくはあれが魔王様の言っていた魔界の剣、ロベリオの魂が同化した次元の鍵なのだろう。







 剣を引き抜くことで、魔界と人間界の境界は崩れて往来が可能になるとか。





 まぁそれでも、魔王様の結界が張られればまた入れなくなるらしい。






 魔王様って、普段は遊んでばっかりだけどやっぱり凄い御方だ。






 ヴェルグが魔王様の不真面目な部分に呆れながらも尽くす理由がよく分かる。


 


 

 真似した訳じゃないけど不真面目と言えば俺も結構、不真面目かも。







 時々は執事もサボってオヤツ食ったりしてたし、リリエルやオレインさんも誘って近くの湖畔でランチしたり?楽しまなきゃ人生、損だよね!





 運悪くヴェルグに見つかった時は、一緒に楽しもうと誘ってその場を凌いだのも今では良い思い出だ。

 





 そんな時、ヴェルグは困った顔で俺を見つめるけど怒らないでいてくれるから妙に安心した。





 俺の置かれた境遇を考えて怒らないのか、それともただ単に呆れていただけなのか。





 どちらなのかは分からないけど、ヴェルグとはあの家で老執事以外の唯一の男同士で不安なく会話できた間柄。






 

 だからかな?複雑そうな顔したヴェルグが台座に向かって歩く俺を、呼び止めたのは。










「おい…ロベ!」

「わ、ビックリした!お前が俺の、村での愛称呼んでくれるなんて驚いた…」

「無理なら…もしも引き抜くことが無理そうなら、迷わずやめろ。お前の魂まで剣に飲まれては、元も子もないからな」




 ほら、やっぱりな…ヴェルグは俺に、昔から非情になりきれない。





 基本的に人が良い、だから苦労性なんだな。








 多分、心配してくれるだろうって思っていたけどやっぱり嬉しい。





 優先するべきは俺の身の安全よりも、本来は魔王様の命令が先にならないと側近としては失格だ。







 だから俺は、この時の気持ちを素直に言葉で表現した。







「ありがとうヴェルグ。俺、お前のこと好きだよ」

「なっ!?」

「尊敬してる、女だったら愛してる!ってくらい」

「やめろ!気持ち悪い。さ、さっさと行け馬鹿者」





 真っ赤になった顔を俺から隠すと、ヴェルグは困惑気味に俺達のやり取りを見ていたらしいリリエルとオレインさんの存在に気付く。

 





 あー…やっぱりね、そうなんだ?





 前から怪しいとは思っていたけど…







 リリエルとオレインさんのそんな独り言が耳に届き、俺は何の話だろうと首を傾げた。







「うわー…ヴェルグ、顔が赤いわよ?もしかして嬉しかったの?」

「そんな訳があるか!!」

「あらあら、素直じゃないのね?禁断の主従関係、喜ばれそうな題材じゃない。ヴェルグさん、自分自身の心に素直になりなさいな」

「レイ…素直になれとは、何をだ!?」




 背後では二人の怖い女に囲まれた、絶体絶命のヴェルグが何やらからかわれて叫んでいる。




 あまり強く感情を示さないヴェルグにしては、ちょっと珍しいと思ったが剣に目を向けた俺は戻る気にならず。









 立派な台座の置かれた場所まで歩みを進めると、突き刺さった剣の柄を両手で掴んで一気に引き抜く。





 魂を取り込まれるのではないかと密かに心配していた俺は、あっさり引き抜けたことで少し拍子抜けした。







「これが魔界の……ロベリオ、頼むよ!力を貸してくれ!俺、期待してくれている皆の為にも立派な勇者になりたいんだ」




 手にした魔界の剣は、見た目よりもずっと軽くて俺の手に馴染む感じが心地良い。




 これなら使いこなすのも難しくないだろう、そう思っていた矢崎。






 いきなり剣が俺の手の中でカタカタ震え出したから、俺は怖くなって手を離すけど地に落ちることはなく。





 まさかの浮遊で俺の目の前まで剣自らやって来たので、俺は目を丸くして驚いた。










   

「よぉ、貧弱。テメーが偉大な俺様の代役になるってな、マジな話か?村人から勇者って、どんな冗談だよ?」




 

 まだ何も話していない俺の事情は勿論、剣が勝手に人語を話すとか聞いてないんですけど!?




 俺以外の三人も後から俺に追い付くと、浮遊したままの魔界の剣に目が釘付けになっている。





 俺は驚き過ぎて、まともに言葉も発せず妙な声が出た。






「うえっ!?」

「上じゃねぇよ!俺様はここだ、ここ!」

「け、けけ、剣が喋った!?」

「あぁん!?魔物相手に平然と会話してるくせに、剣が喋ったらビビってんのかよ?マジで救い難いヘタレだな、ぎゃははは!」




 俺が魔物と話せることもだけど、どうやら目の前の剣は俺達の実状など知り尽くしているようだった。

 


 



 しかも話を聞いているとコイツ…まさかのロベリオ?





 嘘だろ、ロベリオってこんな傍若無人キャラなのか!






 俺の中の憧れの英雄像が、一気に音を立てて崩れた瞬間だった。








「おい、テメーこの野郎!まさかクレアに手ェ出してねぇだろうな?アレは綺麗なまま、いつか天空界へ帰す。だから何かしたらぶち殺す、よぉく覚えておけ。分かったかコラ」

「はひっ!?」

「ふん!俺様の言うことを聞くなら、力を貸してやらなくもない。ヴェルグはテメーに甘いみてぇだが、俺様は違うぜ?このヘタレが」





 ヘタレ呼ばわりは失礼だな、君!




 それに可憐なクレア様に手を出すなんて恐れ多いこと、この俺に出来る筈がない。





 

 だけど言葉の中に、クレア様への隠しきれない想いが垣間見えたので、俺はこの剣が本当にロベリオ本人なのだと認めざるを得なかった。











「なぁヴェルグ、どこが勇者なんだよ…どう見ても柄の悪い盗賊が中に入ってるようにしか見えな…おぐふっ!?」




 俺の鳩尾に緩く一撃を決めると浮遊したままの剣…面倒なのでロベリオと呼ぶ、は目を丸くしたまま言葉を失って立ち尽くしていたヴェルグの下へ向かう。





 千年ぶりの、変わり果てた姿になった友との再会。





 それって一体、どんな気持ちなんだろうか?






 俺は内心、冷や冷やしながらヴェルグとロベリオのやり取りを見守ることにした。







「よぉ、ヴェルグ!千年ぶり?マジで変わらねぇなお前」

「ロベ、リオ?本当に、ロベリオなのか?」

「そうだけど?俺様は、友達のいないボッチ全開なお前の唯一無二の親友、ロベリオ=ファンガス=アーク様だ!久しぶりに会えて嬉しいだろ?あ!ちなみに感動の涙はいらねぇ、男の涙はマジでキモいからな。は?喋り方が違う?昔は猫被ってたに決まってんだろ、気付かなかったのか?馬鹿だなーぎゃははは!」

「………レミリオ、折れ。今すぐ」





 怒りのオーラを身に纏ったヴェルグは、かつての親友のなれの果てをあっさり俺に折るよう命じる。





 ちょっと待て、話せば分かる!





 でも俺にそう言わせない空気が今のヴェルグにはある。





 どうしようかと悩んでいると、ここでかつての義兄妹たるリリエルが止めに入ってくれたので俺は安堵した。







「ちょっとヴェルグ!落ち着きなさいよ、ロベリオ義兄様だって悪気があって言った訳じゃ」

「よぉ、リリエル!千年ぶり。相変わらず貧乳だなー成長期逃しちまったんじゃね?ぎゃははは!」

「何ですって!?今すぐ叩き折ってやるわ!貸しなさいレミリオ」

「うおぉい!?二人とも落ち着けって!」





 リリエルが止めに入ってくれたので安心だ、そう考えた俺が馬鹿だった。




 ロベリオの自由すぎる発言は、かつての親友と義理の妹すら敵に回してしまうらしい。





 もうどうにでもして、と俺が半ば諦めているとロベリオはオレインさんの下へ向かう。





 彼女の周りをぐるぐる一周すると、満足したのか剣先をふにゃりと曲げて何やらエロいことを口走った。







「うっひょ~!精霊達の噂通りセクシーなお姉ちゃんだなー!エロさ全開、ムチムチボイン!あれで結構、クレアもムチムチボ…ぎゃふっ!?痛ぇな!何しやがる貧弱!!」




 黙って聞き流すつもりだった俺は、クレア様の名前に反応すると思わずロベリオに蹴りを入れてしまった。





 お前、それでもかつての勇者なのかロベリオ…と、言いたい気持ちをぐっと堪える俺達四人。





 まぁエロいのは、男としては正常なんだけどね…





 クレア様に何て伝えればいいんだ、このロベリオ…








「お前のゲスい発言とか止めないけど…頼むからクレア様のイメージを壊すなよ!男のマロンが崩れるだろうが!」

「それを言うならロマンだろう」

「そう、それ!ナイスアシストだヴェルグ!!」

 



 間違えた俺に生温い視線を送りながら、しかし答えをきっちり教えてくれるヴェルグは律儀だ。




 こんな感じで三年間、エルトリア家で一緒に暮らしてきたから今更だけど。






 先程の俺のひ弱な蹴りは全く効いておらず、ロベリオはあっさり甦ると今度は俺の所までフヨフヨ浮遊しながらやって来た。

 




 見た目は剣でしかないが、何となく奴の訴える感情は分かりやすい。





 今はフルフル震えながら俺に語りかけるが、どうやら馬鹿にしているらしいことだけは理解できた。






「アホだろテメー、男なんて生き物はなぁ…欲望の赴くままに生きるのが本来の在り方なんだよ。見ろ、今の人間界の勇者をよ。俺様も今思えば昔、勿体無いことしたわー」



 


 あー…今の人間界の勇者と言えば、アレか?




 魔王様いわくロベリオに比べるとカスの、顔と下だけの女たらし勇者アリオスのことだな。






 え?何だか言い方がキツいって?基本的にイケメンは嫌いなんだよ!だって俺、イケメンじゃないもん。





 でも魔王様とヴェルグは別、今の俺にとっては身内同然だから。





 ロベリオもイケメンじゃないな、俺そっくりなんだし? 







 そういう意味では同士と思うけど、今の奴と同士扱いされるのは何だか嫌だ。





 俺のそんな気持ちに気付く素振りも無く、ロベリオは自分のモテ遍歴とも言うべき過去の栄光を自慢気に語る。








 さすがにちょっとイラッとした。








「人間界の王女だろ?天使、エルフ、悪魔、ありとあらゆる女にモテたからな俺様!羨ましいだろ、そこの貧弱!」

「くっ!う、羨ましくなんて…ないもんね!俺だってモテたぞ、サキュバスとかリリムに!いつもMP吸われないように逃げ回ってたもん、いやーモテる男は辛いなー!」

「どれも魔物じゃねぇか!!生身の女の話をしてんだよ」

「可愛い女の子の魔物だろ!ちゃんと生身の女の子だし」





 女の子についての妙な対抗心を掲げる俺とロベリオ。





 俺達の言い合いを遠目に眺めていた三人、ヴェルグやリリエルにオレインさんはお互いの顔を見合わせると深い溜め息をつく。







 俺達のパーティー、こんなんで本当に大丈夫かな?不安だらけの旅立ちだった。










「何と言うか…実に下らない低レベルの争いだな」

「アタシもアホらしくて怒る気が失せちゃったわ」

「うふふ…低レベル同士で案外、気が合うかもね」






 何だか酷い言われ様だけど、とりあえず魔界の剣は手に入れたのだし上々の出だしでは?







 その剣は、全く俺の意思に沿ってくれない天の邪鬼。








 だけどこれからもっと、忙しくなる。





 




 まだ見ぬ世界へ思いを馳せ、俺は胸を躍らせた。













ロベリオは猫被り満々だった訳です、好きなクレアの前だから尚更。やはり人間、伝説と現実は全く違う…を体現してもらいました。姿が大分?変わってますが今も心は勇者ですね…一応。


次回はヴェルグと正反対のナンパ好きな白騎士がメインのお話。ナルシストで好きなタイプ(笑)

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