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合言葉は、村人A「旅立ち編」  作者: 白雪 四葉
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7/12

竜の娘は、貧乳娘

世の中は理不尽にできている、特に顔。


Q:セクシーなお姉様は好きですか?


A:大好物です、特に胸と尻(男の本音)

 オレインさんの加入によって、強力な仲間を得ることが出来た俺。 




 黒猫クローバも、主人に付き従う従者みたいにぴったりと離れず付いてきている。

 




 頭が良いな、さすが精霊。俺も欲しい!




 それにしても運が良いのか悪いのか?





 ちなみに彼女はオレインって名前が男らしく、全く可愛くないから好きじゃないそうだ。





 彼女を呼ぶ時は「レイちゃん」と呼ばないと返事してくれない。





 地雷を知らずにうっかり名前を呼んだら、問答無用でしばかれて低レベルの俺は危うく死にかけた。







 あの時、クレア様の光魔法が無ければマジで死んでたな…女は怖い、でも優しい難しい生き物だ。





 重症の俺を救うべく、クレア様の所まで運んでくれヴェルグには何と言うか頭が上がらない。 





 目覚めた途端にしこたま怒られたけど、それまでとは違って素直に受け止められた。





 呆れた目で見られてまた凹んだのも、記憶に新しい。






 だけど後でクレア様がこっそり教えてくれた情報は、とても大きい収穫と言える嬉しい物だった。



 






「あの時は本当に驚きました…かなり慌てたご様子で、お顔は真っ青。虫の息だったロベ様を、私の所まで背負われて来たのですよ?魔王様を除けば、彼は間違いなく魔界最強の騎士。人間で唯一認めたロベリオ以外、心を許すことはないと私は思っていました。ですがそれは…間違いみたいです」




 クレア様には内緒にするよう口止めしたみたいだけど、俺は言って欲しかったな。




 隠すのは、慌てた自分を知られるのが恥ずかしいから?




 ヤバい…いつもあんなすました顔してるくせに可愛い所もあるな!って言えば今度はヴェルグにしばかれそうだ。





 つか何気に面倒見が良いよな?多分、無自覚の世話焼きなんだろう。







 自分から苦労背負い込むタイプ?難儀な性格だ…






 それにしても、いきなり問答無用で魔法耐性の無い俺に闇魔法ぶち当てるとか…容赦無さすぎだよオレインさん!





 ちょっと理不尽だけど仕方ない。






 美女だから許す!!






 仕方ないよね!男って馬鹿な生き物だからね!






 彼女いわく「女は常に男を転がす者、男は常に女に転がされる者」だそうな?






 クレア様になら喜んで転がされると思うね、だって俺は男の子だもん!てへっ!






 本当……こんなお馬鹿ですみません、激しく反省。












「ほう?これは…今まで飲んだことのない味と香りだな」





 街へ買い物に出掛けたあの日の夜。





 オレインさんをエルトリア家に連れて帰ると、例の如くメイド達からきつい視線を浴びて俺は縮こまった。





 当然、俺の愚息も縮こまったことは言うまでもない。





 だけどオレインさんの美しいのに恐ろしくもある黒い笑顔を見た瞬間、メイド達の誰もが彼女に畏怖と言うべき感情を抱いたらしく沈黙した。






 …魔族は力ある者に礼を尽くす。






 いつかヴェルグが俺に聞かせた言葉は、そのまま形となって示された。 





 どれだけ文句があろうとメイド達の誰も彼女には敵わない、それを一瞬にして理解した瞬間と言える。







 …正直、俺までチビりそうになったことは秘密だ。






 お堅いヴェルグに美女を許容するだけの甲斐性があるとは思っていなかったのだが、それは俺の勝手な思い込み。





 あの日も俺に何も言わず空いた部屋をメイドに用意させると、オレインさんを呼んで丁寧に部屋の案内を始めたから驚いた。

 




 しかも俺の心配をよそに、あっという間にこの屋敷に馴染んだオレインさんは、メイド達の誰よりも主人であるヴェルグと会話する仲に。






 俺が勧誘した元隠者の女主人は、思った以上の強者だったらしい。

 








 今日もオレインさんは両手を後ろで組むと、アンティークの椅子に腰かけたヴェルグの傍に立ち、上から覗き込むようにして珍しい紅茶の味の感想を待っている所。




 しかもオレインさんは、自然とたわわな胸をつき出す形になっているので目の毒だ。





 ヴェルグがすげーと思うのはこんな時。





 顔の近くで巨乳が揺れているのに、顔色一つ変えないとか男として枯れてるんじゃ無いだろうか?







 まっ、まさかの不感症!?イケメンが?ぷぷっ!



 


 ごめんなヴェルグ…俺、お前に助けて貰ったのにお笑いに走っちゃうんだよ。  





 どうしてもシリアス路線は無理なんだ!







 本当に……こんなお馬鹿ですみません、本日二回目の猛反省会実施中。






 それにしても、あの二人が並ぶと絵になるなぁ…ゴージャスな感じ?






「ご感想は?」

「悪くはない」

「回りくどい言い回しはやめてくれない?色男さん?」




 二人はよく難しい魔法や魔術の話をしては、メイド達の嫉妬を平気で買っている。  




 呪いに長けた種族の混血児は珍しく、また深く精霊に通じていることもヴェルグの興味を引くらしい。





 魔法使いは精霊に通じ、魔導士は森羅万象に通じる者。





 オレインさんは前者、ヴェルグは後者の資格を持つ。





 さらにヴェルグは黒魔術を駆使する騎士、黒騎士であるから強さは半端ないことが理解できると思う。





 本人の努力もそりゃあるんだろうけどさ?何かもう…完璧すぎて妬む気持ちもなくなるよ、ここまで来ると。












「ねぇアンタ…そこの間抜け面したアンタよ!キョロキョロしない!ガッカリするのもやめなさい、女の子に対して失礼よ?」





 絶賛掃除中の俺は声をかけてきたメイドの中の一人、小さな背丈に小さな胸が特徴の仕事仲間を無視することにした。





 彼女の名前はリリエル。





 第一印象は、フワッとしたゆるめの赤髪ツインテールが可愛い小柄で華奢な美少女。


 




 でも中身はかなり過激で見た目の予想を遥かに裏切る。





 何せ、馬鹿デカイ戦斧を軽々とぶん回す怪力なのだ。



 


 つまり今、エルトリア家の屋敷へ盗みに入った馬鹿はもれなく魔剣使いのヴェルグか戦斧使いのリリエル、どちらかに確実に葬られる。





 ちなみに否は認められていない。






 加えて魔法使いのオレインさんも滞在している今、彼女お得意の闇魔法で葬られる可能性もある訳で。






 鉄壁の防御力と攻撃力を誇る、恐ろしい舘と言えよう。







 彼女は俺に否定的なメイド達が多い中では珍しく、普通に会話が成立しているメイドではある。





 リリエルは黙っていれば可愛いのに、口を開けばかなり残念な部類の女の子だ。








 …魔王様と同類だな。









「こらー!アタシを無視するなぁモブキャラのくせに!」

「うるせー村人で悪いかこの野郎。俺は仕事中なの!!」

「何よ!大して役に立ってないくせに!」

「何だとコラァ!取り消せ今の発言!!」





 午後のティータイムを優雅に楽しむ二人を尻目に、今日も俺はでかすぎる屋敷内の窓という窓を拭き掃除。




 段々と要領を得て来た最近では、もうこのまま執事でもいいかな?なんてちょっぴり考えるモブキャラ気質。



 


 いや、俺は絶対ロベリオになる!

 




 成り代わるというよりは生まれ変わりたいんだ、今の自分から少しでもまともな存在に。





 村人だった自分を恥じたことはないけど、無色透明な何もないあの日常を、ただ繰り返すだけの世界に戻るのは嫌だ。





 一度でも世界が変わる瞬間を、自分に色が与えられる瞬間を見てしまったらもう戻れない。





 魔界の勇者にはまだ程遠いけど、いつかクレア様の生まれ育った世界も見てみたいんだ。






 天空界、空に浮かぶ未知の世界。






 人間の俺から見れば、クレア様みたいな存在がいる世界は憧れであり理想郷だ。







 …でも俺、高所恐怖症なんだよね。






 まぁ…夢を見るのは、自由だろ?






 それにしてもリリエルは可愛くねぇな!




 誰が役立たずだ!少しは役に立ってるっつーの。





 クレア様の爪の垢でも飲ませてやりたいぜ、今畜生。







「本当のことを言われて怒るのは、自分に自信がない証拠じゃない。違う?アタシはアンタがロベリオ義兄様の代役だなんて、絶対に認めない!竜の男に弱者はいらないの」

「ぐぬぬ…このブラコンめ」

「何とでも?義兄妹の絆はね、永遠なの!村人のアンタに理解できるとは思っていないわ」

「え、義兄妹?ぷぷっ!それって結局、赤の他人ってことじゃね?偉そうに絆がどうとか語る割にはオチがイマイチ弱…いっ!?」





 俺が勝ち誇ったようにニヤリと笑えば、それまでとはガラリと雰囲気の変わったリリエルは俺以上の嫌味顔で腹黒そうな笑顔を浮かべる。

 



 ヤバいと思ったその瞬間、奴は容赦なく愛用している戦斧をぶん回して来たかと思えば、逃げ回る俺を部屋の壁際まで追い詰め巷で人気の壁ドンとやらをして来た。






 あの…馬鹿デカイ斧で。






 あと数センチ、俺が逃げ遅れていたら耳を切り落とされる所だった。







 …死ぬよね?普通に。






 トキメキじゃなくて恐怖しか感じられなかったよね!


 



 これ…既に壁ドンの域を超えてるんじゃね?

 危うく漏れそうになったぞ。


 




 …色々とピーな物が。




 


 以前の魔王様を真似て、自主規制してみた。









 まずい。非常にまずいぞ?






 リリエルの奴、完全に目がいっちゃってる!? 





 今更だが激怒させちまったらしい、どうする俺!

 






 …おい、ちょっと待て。





 おかしいぞ?壁ドンは普通、男が女にする行為の筈。





 特にイケメンがね!俺には縁のない話か、あはは。





 いや、あははじゃなくて!問題はそこじゃねぇ!






 つまり何だ?俺は女より弱いのか!?





 つかリリエルもオレインさんも、恐らくクレア様も確実に俺より強いからね!






 し、仕方ないよね?





 …我ながら立場がないぜ。






 いや、今はそれどころじゃない!現実を見るんだ俺!





 絶賛、命の危機継続中!こうなったら…奥の手だ!!









「来てくれ、ワイバーン!友達ナンバー18番!!」

「クエエェー!!」




 クレア様のペンダントは、何の力も持たなかった俺に色々な恩恵を与えてくれる。




 ある日突然、魔物と会話ができるようになった俺がそいつを友達として認識すると、次からペンダントの魔力による召喚に応じてくれることに気付いた時は嬉しかった。





 ちょっとだけ、召喚士みたいだって浮かれたりして。





 ペンダントは恐らく天空界の物で、魔法アイテムとしてはかなりの高級品だろうと、オレインさんは鑑定してくれた。




 そんな貴重品を初対面の俺に貸してくれるなんて、やっぱりクレア様はマジで天使。 




 後でちゃんと返すつもりではあるが、まだまだひ弱なので借りておくことにする。





 俺は物凄い速さで追ってくるリリエルをかわすべく、契約者として召喚可能な友達…魔物のワイバーンを呼び出すと、その背に乗せて貰いながら館の外へ飛び出した。



 





「ほう?面白い…ロベリオは魔物を容赦なく切り捨てる男だったが、お前は同じ顔で全く逆のことをするのだな」

「見てないで助けろよ!!」

「お前の可能性を見極める良い機会だ。リリエル、止めないが殺さぬ程度にしておけ」

「鬼か!?恨んでやる!」





 屋敷の二階の窓からワイバーンに乗った俺と、背中に竜の翼を生やしたリリエルの空中戦を皆が見ている。




 のんびり眺めていたヴェルグとオレインさんは、また精霊の話を続けている。





 どうやら逃げ回る俺の様子に飽きたらしい。




 お願いだから、もうちょっと俺の心配してくれよ!






「ワイバーンですって?竜の下級種族が…ドラゴネスのこのアタシに逆らう気なの?潰すわよ」

「クエッ!?ケエェー…」

「おい、俺の友達を虐めるなよ!可愛いからってもう許さん!来てくれスライム!友達ナンバー16番!皆で一斉にヌルヌル触手攻撃だ!恥ずかしい所まで濡らしてやれ!!」





 竜の娘、最後の竜人族であるリリエルの戦闘力は半端ない。





 奴は空中戦、地上戦共に死角なしの美少女メイド。




 筋骨粒々の大男を軽く束で薙ぎ倒せる怪力なのだ。





 そんなウルトラ級の、見た目だけは可愛いリリエルに正面突破はきつすぎる。

 ここはちょっとヒールに、隠し技で勝負だ!俺とスライムの友情コンボを見るがいい!






 スライムと友達で恥ずかしくないのかって?全然!





 友愛に魔物も人間も、魔族も天使も…とにかく関係ないね!






「低レベルの魔物が束になったからって、いきがってんじゃ…って何なのコイツ等?動きが不規則で読めない…イヤー!?動けない、何よこの粘液!?スライムのくせに生意気!」

「やったぜ!密かに開発したフォーメーション完成だ皆」

「ニュニュ~!」

「見たかリリエル!これが村人とスライムのコンビネーション技だ!弱くたって、頭とタイミングを揃えればお前にだって勝っちゃうもんね!」






 俺とスライムの、友情コンボ炸裂。





 密かに練っていた、高レベル相手の撹乱戦法がうまくはまってくれたようだな。






 …恥ずかしい所までは濡れなかったらしい、残念だ。






 まさか、こんなに効果的だとは正直ビックリだな。




 ついでに気位の高いリリエルは、俺達にしてやられたことがよっぽどショックだったのか涙を浮かべて走り去る。 





 まるでこっちが悪者みたいな流れだな?ちょっと反省。




 女の子を泣かせたままにはできないので、俺はとりあえずリリエルの後を追うことに。





 追いかける俺の後ろ姿を見送ったヴェルグとオレインさんは、苦笑混じりに会話を続けていた。







「最も弱小な存在が、倍以上のレベル差の相手に打ち勝つとは。見事だ、あれもまた才能と言えよう。リリエルは己の力に頼りすぎな所があるからな…良い薬になった」

「面白いスタイルね?でも、私は嫌いじゃないわ。何でも受け入れる、節操なしなロベ君らしい戦い方ね」

「節操なしは否定しないが。あれでは勇者と言うより、魔物使いだな…まぁ良い。まずは荒れた屋敷の修復が先だ。やれやれ…これをきっかけに、アイツには竜の娘と分かり合って欲しい物だ。心強い存在になるだろう」





 ちなみにリリエルが力任せに破壊した屋敷の修復には、相当な額が掛かったらしい。





 後でヴェルグに俺も同罪だから「給金から半分ずつ差し引いておく」と笑顔で言われて泣けたよね、マジで。


 



 畜生、何でこうなるんだ?俺って不幸!!








 やっとの思いでリリエルに追い付いた俺は、どうやって慰めるべきかと言葉を探す。 





 既に泣き止んでいたリリエルは、綺麗な湖畔に体育座りして湖に映る自分の姿を眺めていた。




 

 だけど悲しいかな!純白のパンツは見えそうで見えないベストポジション、湖にも映っていなかったから俺は密かな期待を打ち砕かれて絶望した。

 





 …ちょっとだけ舌打ちしそうになったのは内緒だ。






 リリエルの後ろ姿がとても寂しそうに、切なさを感じさせる物だったから俺はどうしたら良いか分からなくなる。





 しばらく沈黙が続いていたが、俺に気遣ったのかリリエルから声をかけてきてくれたので正直ほっとした。







「何よ…クソ弱い村人とスライムのコンビにあっさり負けた、愚かな竜の娘を笑いに来た訳?アタシのことは放っておいて!」




 

 うん、確かに弱いよね……今の俺とスライム。





 二人で一人、なんて言葉があるけど一人と数匹でも絶対敵わないよね!まともにやり合ったら負けるよね。



  


 だからってクソはいらねぇだろクソは!さすがに傷付くわー…現実って残酷なのね!俺のなけなしのプライド粉微塵にされちゃった!てへっ!






 でも、本当のことだから俺は腹を立てずにいられた。





 本気でリリエルと戦えば、次は確実に負けるだろう。





 俺は泣きそうな顔をしたリリエルの隣に座ると、静かに声をかけた。







「騙し討ちみたいな形をとってごめん。でもお前はマジで強いから、ああでもしないと勝てなかった。だって俺、本当に弱いんだ。お前の強烈な一撃を食らったら、即死する自信がある!」

「どんな自信なのよそれ、おかしな奴…でも、ありがと。自分が自惚れてたって気付けたから、今回のことは許してあげる。スライムの進化は、アンタの教育の賜物?ちょっと驚いたわ」

「教育とかじゃない、友達だから一緒に考えてみたんだ。どうしたら少しでも強くなれるかってさ?魔物相手に何を馬鹿なこと言ってるんだって、そう思われるかもしれないけど。魔物の声を聞けることに気付いてからはよく話をするよ。こんな俺は、勇者ロベリオにはなれないかな?」





 竜人族の最後の勇者、そして竜の娘リリエルにとっての義兄…それがロベリオだ。





 俺にとっては目標であり一生、敵わない相手でもある。





 だってどんなに知りたくても、当時のクレア様にもヴェルグにも俺は会えないのだから。





 ちょっとズルいよな?なんて思ってしまうくらいには、ロベリオの存在を認めている。





 しばらく黙っていたリリエルは、そこでようやく俺の方に振り返ると少し苦笑気味に言葉を返してくれる。




 

 色々と吹っ切ったのか、既にその背中から悲しみは消えていた。






「いいんじゃない?アンタにはアンタのスタイルがある。確かに義兄様は、強かったわ。人間界の誰よりも…アタシはそんなドラゴニアのロベリオ義兄様に、憧れていたし好きだった」

「異性として?」

「うん。でも分かっていたの…きっと義兄様は、あの導き手が好きなんだろうなってこと」

「それ、クレア様のことか?」





 ロベリオの隠していたクレア様への秘めた恋心。





 俺は知らない振りをして、言葉を濁すのは簡単だった。


 



 だけどこの時は、リリエルの本心を聞いてあげるべきなんじゃないか?

 そう思ったから俺は、話すだけでも辛いと思うリリエルの本心を聞き続けた。

 




 片想いって、俺はまだ経験したこと無いけど想像するだけで何だか辛い。

 想い想われる奇跡の裏には、想われないことの悲しさ辛さが存在するんだ。





 クレア様もロベリオも、想われていたのにそれに気付いてあげられなかったのかな?





 俺はまるで自分の痛みのように片想いの辛さを思いながら、傷心の涙を浮かべたリリエルの横顔を見ていた。






「今だから言うけど、義兄様が天使に恋したことは本当に想定外のことなの…元々マリア母様、ロードオブマリアは竜の男に相応しい竜の娘を対に用意していた。自分が選んだ人間と、竜以外の血が混じることを嫌うから。そうやって竜人族は血を絶やさずに来た」

「え?リリエル、じゃあお前って」

「そう。アタシはロベリオの為だけに創られた、対の存在である竜の娘…でも」

「でも?」





 そこで一呼吸置くと、リリエルは深いため息を一つ。





 胸の中にずっと仕舞い込んでいた、報われない想いに終止符を。





 胸を突き刺す沢山の思い出の欠片に別れを告げて、彼女は晴れやかな笑顔で俺に向き直る。





 俺はその笑顔に「リリエルは強いな」そう言いかけてやめた。






 …だってまだ、想いは捨てきれていない筈だから。







「この想いが母様による洗脳とは思っていないし、思いたくない。千年越しの片想いなんて、アンタに想像できる?」

「その前に俺、生まれてないし…分からなくてごめん」

「ふふっ、分かって言っているの。いちいち謝らないで」




 

 やっぱりリリエルは強いな、千年もの長い間ずっといなくなった大切な人を想い続けることが出来たのだから。





 俺に同じ真似が出来るだろうかと考えて、また胸に込み上げる物があった。





 同じだけの想いを返して貰えないこと、きっとそれ以上に大切な人を失うことは辛い。





 もしかしたら、クレア様もヴェルグも…魔王様も、泣いたのだろうか?失ったロベリオのことで。





 千年後、ようやく同じ顔をした俺を見つけた魔王様はどんな気持ちだったのかな?





 ちょっとでも俺の存在が、皆の救いになるといい。






 この時は素直に自分の姿を誇らしく思い、隣に座るリリエルの顔を見つめながら彼女の紡ぐ言葉に耳を傾けた。



 



「何が言いたいのかって言うと…ロベリオ義兄様は最後の竜の男、アンタは村人。真似できる存在じゃないし、真似する必要もない。アタシの力を望むなら応援してあげてもいい…但し、今のままの気持ちで強くなるって言うならね?」

「そっか、真似する必要ないのか…でも俺、あの時にヴェルグと約束したんだ。ロベリオに成り代わるって、約束」

「ヴェルグのことは気にしなくてもいいわ、アイツもかなりのコミュ障だから。友達、いないのよ…義兄様以外。一人残されたアタシの心配をして、保護する世話焼きのくせにね」





 万能に見えた魔王様も、本当はそうじゃなかった。




 完璧に見えたヴェルグも、本当はそうじゃなかった。







 皆が皆、胸の中には悲しみを抱えながら生きていた。






 きっとそれは、クレア様も。







 千年前の悲劇で傷付いた、皆の心に報いる為には俺に何が出来るだろうか?


  






 そんな風に珍しく思いを巡らせながら、俺はリリエルと手を繋いで仲良くエルトリアの屋敷へ帰った。

 












 





次回は今から三年後、ようやく旅立ちの時を迎えます。


同時に執事から勇者に格上げ、そしてあの人物が意外な形で再登場。

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