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合言葉は、村人A「旅立ち編」  作者: 白雪 四葉
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勇者の道は、執事から

村人から格上げ、でも執事でした。


Q:あれ、何になるんでしたっけ?


A:多分、勇者?

 単なる村人Aだった俺の日常が変わったのは穏やかな日々が続いたある日のこと。




 魔王様のペット。




 それが初めて俺に与えられた不本意な役目。






 その魔王様いわく、俺の変な顔がツボなんだとか。





 大きなお世話だこの野郎、とは思っても決して言えないヘタレですが何か?








 次に与えられた役目が執事、黒騎士ヴェルグの家に住み込みで暮らして早一ヶ月。





 不本意ながら、奴の家は魔界でも指折りの超が付くほどの名門貴族なんだとか?





 だから周りからは羨ましがられるんだよね。




 どうやったら就職できるんですか?ってさ。





 知らないよ!気付いたらご立派な執事服着させられて、毎日毎日お行儀マナーに歩き方の講義とかマジで面倒なんですけど!?





 紅茶の入れ方一つにしても、こめかみに青筋立てながら教えるのはやめて欲しいよね!





 俺、本気で怖すぎて泣きそう!







 んんっ!?アレ?おかしいな!





 俺は、一体何に成り代わるんだったっけ?





 誰か教えて!助けてクレア様。






 俺の監視役らしいヴェルグがマジで意味不明、怖いだけの存在に逆戻りだよ!





 そうやってペンダントに祈ってみても、当然彼女は現れてくれない。






 だから仕方なく、俺は今日もせっせと執事業務に勤しむのだった…。











「っだー!?やってられるかあぁ!!」




 堪忍袋の緒が切れた俺は、そこでようやく何かがおかしい日常的普遍に物申す。




 本当はここでガチャン!と銀製のティーセット一式、投げてやりたかったけど勿体なくて出来なかった。




 仕方ないので、俺命名「どこまで続くんだ長すぎだろこのでかいテーブル」を、両手で叩きつけるだけに終わる。





 ヴェルグに命名したことを言ったら「お前は下らないことに全力を尽くすのだな」と失笑された。





 悪かったな!だってそう思うだろ、拭き掃除する方の身にもなれよな、この(以下略)テーブル!!







 これだからセレブって嫌。






 何で金持ちが住む部屋って無駄に広いの?部屋数なんて数えるのも嫌になる。




 オマケに家具はほとんど高級そうなアンティーク、食器は銀製品、正直食った気がしねぇ。





 あぁ…貧乏性の悲しい性よ。





 銀製品をぶちまけるなんて、俺にはとても出来ない!







 だけどいきり立つ俺に目もくれず、ヴェルグは出勤前のひとときを優雅に過ごす。





 アンティークの椅子に腰かけた姿が様になってますよ、御当主!





 鎧兜を脱いで、ラフな格好をしてる時は眼鏡を愛用しているらしく、今日も朝からメイド達にキャーキャー言われている。





 ふん!鬼畜な奴の本性知らないから無駄に騒ぐのさ、メイド達は。





 え?知っても騒ぐって?俺がメイドなら騒がねぇけどな…虐められて喜ぶ趣味はねぇし。







 だってアイツ、隠れサディストだぞ…絶対。









 今朝も俺が淹れた紅茶を一口すすり、いつも通り「まずい」と一言。




 だったら俺じゃなくて、もっと上手に紅茶を淹れることが出来るベテラン執事に淹れて貰えばいいだろ!この隠れサディストめっ!!





 高級なティーカップ片手に俺と視線を合わせれば、やっぱり今日も奴はイケメン、俺は凡人で無性に腹が立つ。







 少しで良いからその顔のパーツ分けてくれ!畜生。






 マジで神様は不公平だ…








 ふと何かに気づいたらしいヴェルグが笑顔で俺を手招き。




 既に笑顔の奴はヤバいことを知っている俺は、冷や汗しながら恐る恐る傍へ近寄る。






 やべー何か間違ったか?ち、ちゃんとゴールデンドロップまで淹れたつもりだけどな!?








「おい…何か忘れてはいないか?ロベリオ」

「はい!すみません御主人様。お砂糖は二個ですね?って違う!!ミルクも入れますか?じゃねぇ!」

「セルフツッコミとは…なかなか高等な技術だが、執事としてはまだまだだ。自ら間違いに気付いた点は、評価に値するがな」

「だから違うって!何で俺が、ヴェルグの家で執事とかやらされてるんだよ!絶対におかしいだろ!?そりゃあ待遇は悪くない!毎日のおやつも凝ってて俺の楽しみだけど」




 いつの間にか体に染み付いた執事業務は、俺の考えと裏腹に何とかこなせるまでに成長して俺を悩ませている。





 抗議の最中だと言うのに、俺の体はいとも容易く奴の指示に従ってしまう。





 実に執事としての自分に忠実で歪みがない。





 一種の刷り込み?精神操作?条件反射?






 とにかく俺って悲しくなるくらい、流されやすいのね…モブキャラ気質が抜けきれない犬なのね!






 きっと魔王様のペット扱いも、俺をダメにする原因の一つだな。甘やかされると人間って、ダメになるんだよ…





 無意識の内に、紅茶のおかわりを頼まれれば嬉々として用意するし。




 掃除を命じられればこれ幸いとばかりに、ツルツルピカピカに大理石の床まで磨きあげる始末。







 アレ?何をやってるんだろうな、俺の馬鹿!





 それもこれも全部、エルトリア家の優秀なパティシエさんが悪い!だってこんなに美味しいケーキやお菓子、村じゃ絶対に食べられなかった。





 こうなりゃやけ食いだ!とりあえずケーキ、ワンホール持ってこい!





 バクバクガツガツ、口の回りを生クリームだらけにして今日のおやつを堪能していたら、呆れたヴェルグが俺の口の回りを上質な布巾で拭って苦笑した。






 うわー何かめっちゃ恥ずかしい!一応、主人と執事の間柄なんだよね…今のヴェルグと俺。





「これじゃどっちが主人か分からないわよね」と俺に聞こえる声で喋ってるメイド達の、冷やかな視線と嫉妬の視線が突き刺さって痛い。







 ヴェルグが俺に少しでも優しくすると、後が怖いんだ。





 女の嫉妬って、マジで怖いな…それに気付いているのかいないのか、奴の優しい視線が俺に向けられる。





 そうか…ヴェルグって、実は子供好きなのかな?俺が子供じみた真似をすると、叱るどころか優しくなるから居心地悪い。






「少しは落ち着いて行動出来んのか?全く…お前は大きい子供だな」

「う、うるさいな…仕方ないだろ?だって、ケーキ美味しいから」

「そうか…それは何よりだ、が」




 そこで優しかった奴の顔が、みるみる凄い形相に変化すると俺の小さい頭を右手で鷲掴みしたからマジでチビりそうになる。





 いつも思うけど、優しい時と怖い時の差が激しいよ!





 そりゃあ魔王様の側近なんだから、威厳があって当たり前なのかもしれないけどさ。







 また瞳が妖しく光って怖いんだ!深紅の瞳が俺を射抜くと体の芯から冷えて行くみたいな錯覚に陥る。





 魔族って美形が多いけど、その分怖い顔も多いよね!ある意味、オーガの方が可愛らしい気がするよ?割と本気でそう思ってる。







 本音を言ったら何されるか分からないので、とりあえず沈黙しておくヘタレですが何か?






 だってヴェルグはマジで怖いんだよ……怒らせると。







「おい…誰が対等に話していいと言った?この家で執事をするからには、雇い主と雇われ人のルールを守れと言っただろう?お前の記憶力はどこまで底辺なんだ?ロベリオ」

「躾はやめて!痛っ、本気で痛いから!?俺のプリチーな頭を握り潰すつもりかよ、この馬鹿力!鬼畜!腹黒騎士!無駄イケメ…ギャー!!」

「黙れ、このモブキャラが。今からでも闘技場に叩き込まれたいのか?魔族の掟に則って、お前を裁いてもいいんだぞ」

「ごめんなさい!もう言いません!だから許してヴェルグ様」




 半泣きの俺と般若顔の御主人様。




 シャレじゃないからな!人間の頭を片手で握り潰せる握力とか、どんだけ化け物じみてるんだよ。






 やっぱり魔族ってマジで怖い…俺、人間で良かった。




 スプラッタ反対!人間が血を見るのは遺産相続だけで充分じゃね?







 …待てよ?地味にそれも嫌だな。






 そうやって関係ない妄想に耽っていると、ヴェルグは長い睫毛が印象的な深紅の瞳を伏せて、深い溜め息をこぼした。







「お前はクレア様に…あの穢れなき御方に釣り合い、そして今代の勇者に対抗出来るだけの男になるのだろう?」

「そっ!それは、そうだけど…」

「だったら文句を言うな。はっきり言えば、今のお前はどちらにも当てはまらないただの無力な村人Aだ。世界を渡り歩くだけの、知識もマナーも何も無い零歳児。それを少しでもマシな状態にしてから旅立たせよとの、魔王様のご慈悲だ」





 まずは魔王様のペットとして入城を許された俺。





 大した苦労もせずに、クレア様と知り合いになったことは元より。





 名門らしいエルトリア家に執事として住み込みを許されたり、実はかなりの幸運なのか?






 そもそも、どうして魔王様が数ある村から俺を選んだのか不思議で仕方ない。 




 いくら顔が面白おかしいからって、やっぱりここまでして貰える義理は無い。






 もう今更だと開き直った俺は、ヴェルグに尋ねた。





 気になることは、聞かずにいられない性分だからと恐れも抱かずに。








「なぁ…魔王様とヴェルグは、どうして俺にここまでしてくれるんだ?」

「お前はロベリオに生き写しだからだ…魔王様はお前を犬扱いしているが、それは表向きの顔と心得ておけ。我々魔族の英雄、ロベリオ=ファンガス=アーク…人間にとっては我等に与した裏切り者として忌み嫌われている。だから勇者としては認められず、歴史上からは抹消された悲しい存在。竜と人の混血、伝説上の種族。今はもう、失われつつある竜人族の最後の勇者だ。クレア様と同じく千年前の大戦を、収めた影の功労者と言えよう。お前は千年前の悲劇と呼ばれる天地・人魔大戦を知っているか?」




 確かクソジジイ…ごほん!村長が、昔語りとして夕食時に聞かせた話に「天地・人魔大戦」はあった気がする。





 天空人の住む天空界、地底人の住む地底界、人間の住む人間界、魔族の住む魔界、この世には四つの世界が存在する。






 天空人はクレア様のように背中には白い翼の生えた、別名を天使と呼ばれる種族。





 地底人は黒い翼の生えた、別名を悪魔と呼ばれる隠者のように隠れ住む種族。





 二つの種族は非常に仲が悪く、決して交わることはない。







 人間は俺のような凡人からイケメン勇者に至るまで、幅広いバリエーションに富んだ種族。





 魔族は人間よりも遥かに長命で魔力まで持つ、人間の進化版みたいな種族。






 こちらも非常に仲が悪く、決して交わることはない。






 その四つの世界がお互いの種族から、最強とされる勇者をそれぞれ使者として選んで送り出したのが悲劇の始まり。 





 表向きは使者を受け入れることでお互いの親交を深め、世界平和の第一歩にしようと言う物だ。  






 それが四つの世界の代表者が言っていた綺麗事。 





 でも本当の目的は、世界平和とは名ばかりの侵略。






 知っていたのは四人の勇者の中でもたった一人、地底界の勇者だけ。







 闇の中でしか生きることを許されない彼等は、なりふり構わず暗殺者として初めての世界、天空界に降り立つと天使の虐殺を繰り返して大戦の火種を作った。






 勇者を先導する為の導き手も、それぞれの種族が一人ずつ選んで送り出したと言われているけど定かではなく。





 当時も生きていた当事者のヴェルグに聞いて驚いたのは、クレア様はその内の一人なんだとか。






 人間の勇者を導く役目を負った、天空界からの導き手。







 人間界の勇者として選ばれたロベリオは、天空界からの導き手として選ばれたクレア様と知り合い、長い旅路の果てに魔界に辿り着くと魔王様やヴェルグ、ひいては魔族の皆と親交を深めた。





 だけど当時の勇者に課せられた本当の役目は、魔王様の抹殺と同時に魔界の制圧だった。





 それを拒んだロベリオは、人間界から送られてくる第二の使者を阻止すべく自らを犠牲にして魔界の安寧を守った。





 だから人間界にとってロベリオは勇者ではなく裏切り者、だけど魔界では魔族の英雄として今も尚、広く子守唄代わりに英雄譚として語り継がれているんだとか。







「魔王様のことは分かった。じゃあヴェルグはどうなんだ?ロベリオって、お前にとっては何?」

「さぁな…千年前のことなど、もう忘れたよ」

「嘘だ。お前はロベリオのことを話す時、すごく顔が優しくなるぞ?隠さないで教えてくれよ、俺とお前の仲だろ?って痛い!調子に乗りました、ごめんなさい!」

「どんな仲だかは知らんが…まぁいい。しかし、余計なことを詮索して何になる?これだから人間は嫌いなんだ…踏み込まれたくない領域に土足で上がり込む。そう言えばロベリオも、アレも空気を読まない男だったな…懐かしい」




 空気を読まない男のレッテルを貼られたことは、ちょっと遺憾だが。




 でもヴェルグが懐かしそうに、過去の記憶へ思いを馳せているのだと分かったから俺は続く言葉を待った。






 遠くを見るような目でヴェルグの口からぽつりぽつりと語られる、竜人族の勇者ロベリオの英雄譚。





 何となくだけど、ロベリオがヴェルグにとって大切な存在なのだと推測することは俺にも出来た。












「なぁ魔王様!突然だけど、俺と友達にならねぇ?」




 その男は最初から、かなり礼儀知らずの愚か者だった。




 人間界の勇者が訪問するとの知らせを受けて、当然ながら幾度も魔王様の御身を狙われている歴史を知る我等は入城を頑なに拒否、反対した。




 しかし、歴代の魔王が討たれたことへの根深い怨恨や因縁を承知の上で魔王様…カリスティア様は、ロベリオの入城を許可なされた。





 今回の訪問を、本当の意味で平和への第一歩にしたいと仰る器の大きさ。





 俺はこの時ほど、魔王様の部下であることを誇りに思ったことはない。






 しばらくして、導き手の天使クレアチスと共に魔王城へやって来た奴は、玉座に堂々と座する魔王様を凝視すると笑顔でとんでもないことをさらりと言い放った。




 入城を許可しただけでも恐れ多いと言うのに、何と無礼で分を弁えない愚か者か!





 俺は内心、はらわたが煮え繰り返って今にも奴の喉元を切り裂いてやりたい衝動にかられた。







「人間界の勇者が魔王様と友達になる、それって世界平和の第一歩になると思うんだよ!な?だからお願いします」

「貴様は魔王様のご慈悲を何と心得る、この無礼者が!」

「魔王様の友達が無理ならまずお前からでもいいけど?」

「は?」





 …魔王様が無理ならまずお前からでも、だと?





 何と言うべきか…奴の切り替えの早さには、さすがに呆れて物が言えず俺は頭を抱えた。




 当の魔王様は面白そうに俺と奴のやり取りを見ているだけで、奴の暴挙を止めようともなさらない。






 こうなるともう、怒りを通り越して本当に呆れるしかなかった。





 やれやれ…たまに我が主、この御方のお気持ちがよく分からなくなる。





 毒気は抜かれたが、だからといって魔王様への無礼を許したつもりはない。




 俺は奴の本心を探るべく、表面上は和やかに言葉を交わして、にこやかに振る舞う馬鹿勇者を睨み付けた。





 もしもこれが演技だとすれば、魔王様のお命を狙わないとも限らない。





 俺は警戒心を隠さず、目の前の馬鹿を見据えた。





 本性を現した時には躊躇わず、この能天気男を八つ裂きにしてやろうと心に決めた俺は嫌々ながら握手を受け入れる。





 力ある者には礼を尽くす魔族の本能か、それとも実力者ではあることへの敬意か。





 この時の握手に奴からの悪意は感じ取れず、俺は正直拍子抜けした。











「行くのか?ロベリオ」

「あ、ああ…何だよもう!黙って行こうと思っていたのにさ」

「お前は分かりやすいからな。俺に隠し事など出来る筈も無かろう?クレア様のことはどうする?あの御方はお前にとって」




 ロベリオが魔界に滞在して早くも一年の月日が経った。




 魔族の俺にとっては大した時間に思えずとも、半分は人間の血が流れている友にとってはそう思えないらしい。






 そしてこの頃の世界は緩やかに、しかし確実に破滅への道を辿っていた。





 今朝から様子のおかしかったロベリオが、何かをするとなれば俺達の寝静まる深夜しかない。






 俺の第六感と言うべき読みは、悲しいくらい見事に的中した。








 天空界と地底界の覇権争い、人間界と魔界の覇権争い。




 対となる天使と悪魔の殺し合い、人間と魔族の殺し合い。






 長年の因縁が、遂に形となって現れたそれは後に「天地・人魔大戦」と呼ばれるとても凄惨で、最も愚かな世界の全てを巻き込む大戦争。





 何度も繰り返し送られてくる魔王様の抹殺命令、人間界を取るか魔界を取るか。





 追い詰められたロベリオが、俺や魔王様に内緒で何かをしようとすることは容易に推測できた。





 人間界からの要求をはね除けて、ずっと隠し守ってきたクレア様にも言わずに行くだろうことも。








「いいんだ!クレアにはあのままでいて欲しい。俺のことを友達として、忘れないでくれればそれで充分だからさ」

「本当に?」

「ヴェルグは魔族のくせに、こんな時だけ優しいんだな」

「優しくなどない。お前の犠牲を仕方ないこととして、簡単に受け入れようとしている卑怯者だ。友と呼ばれる資格も」




 お互いに口ではそう言いつつも、本音はロベリオも俺も違うことは明らかだった。





 ロベリオはクレア様に特別な感情を抱いている。





 だが、彼女にも俺にもそれを知られることを恐れている。






 俺は言葉通りに止めようともせず、ロベリオが魔界の為に貢献しようと言うなら受け入れることでそれに報いようと、虫が良すぎる結論に至っていた。






 本当に、俺は卑怯者だ。






 友と認めた筈の人間を、簡単に失おうとしている。魔界や魔王様の為ならば、非情になることも厭わない。




 だからせめて引き留めない俺をなじって欲しかったのに、泣きそうな顔でロベリオは俺に抱きつくと小さく笑った。





 これを振りほどく気にはなれず、俺はただ項垂れて幾年ぶりかの涙を浮かべるのみ。







「友達だよ!何があっても、俺とお前はずっと。たとえ姿が変わっても、どれだけ時が経とうと友達」

「ロベリオ…」

「泣くなよ…色男が台無しだぞ?お前は俺の、自慢の友達だからさ!クレアのことを頼む、守ってやってくれ」

「分かった…お前の望み、ヴェルグ=エルトリアが騎士の誇りにかけて必ず叶えよう。だから死ぬな…必ず戻れロベリオ」







 そこで小さく息を吐くと、ヴェルグは長い夢から覚めたと言わんばかりに続く自嘲気味の言葉を紡ぐ。





 今もずっと、それを後悔しているのだと俺にも分かるような苦悶の表情を浮かべながら。







「だけどロベリオは…俺の友はそれきり二度と帰っては来なかった。後で調べて分かったことは、ロベリオは今も世界の礎として生き続けているという残酷な事実だけだ」




 あの時ロベリオが何をしようとしていたのか、知ることが怖くてヴェルグはしばらく彼の痕跡を辿れなかったらしい。





 大切であればあるほど、失う代償もまた大きいと言うべきか。





 やっぱりな?千年経っても忘れられないんじゃないか…何が忘れただよ、嘘つき。







「何で?生きてるのに残酷ってどういう意味…」

「四つの世界に存在する次元を繋ぐ扉には、それぞれの鍵となる剣が必要でな…その内の一つとなる魔界の剣に身を捧げたのだ、ロベリオは。命を懸けて守ってくれたのだ、魔界を。そしてクレア様を」

「じゃあ好き、だったのかな?クレア様のこと」

「だろうな。口にすることを酷く恐れていたが」




 実際にクレア様はどうだったのかな?ロベリオのことをどう思っていたんだろうか。 




 使命に忠実ですごく真面目そうだから、その手の感情は抱きそうに見えないけど。





 そもそも、天使と人間って恋愛が出来るのかな?





 同じことを考えて、ロベリオも悩んでいたのかも。






 まぁ拒否られたらどうしようって、そんな気持ちも少なからずあったのかもな?




 男として好きな女にフラれたら立ち直れないよ…ましてや天使に恋してごめんなさいなんて言われた日には。






 真相は、神様と本人達のみぞ知る所だけど。







「でもさ…俺、何となくだけどロベリオの気持ち、分かるような気がするよ?関係が壊れることを恐れていたのかも」

「関係が、壊れる?」

「友達って、大事だからさ?それ以上を望むと今まで築いた大切な時間が、関係が壊れてしまうんじゃないか?好きって気持ちを伝えることより、そっちの方が怖かったんじゃないかな?なんて偉そうに言ってごめん。ロベリオのことは友達だったヴェルグの方が、よく分かってる筈だよ」





 残念ながら俺はロベリオについて、ほとんど何も知らない。




 知っているのは竜人族の最後の勇者、魔族の英雄で人間には裏切り者扱いされているクレア様の知り合い、ヴェルグの友達。






 簡単にまとめるとこんな所だろうか?






 でも俺は話に聞いただけの、第三者。 




 だけどヴェルグやクレア様は当事者。





 この違いはとても大きい。







 何故ならロベリオ本人の風貌や性格、どんな声をしていたのかなど俺は分からない…だけど二人は見知っている間柄なのだ。






 千年も前の話だから仕方ないけどね。






 待てよ?じゃあ二人の実年齢って……考えるのはやめよう。







 蚊帳の外の自分がちょっとだけ、寂しい気持ちになった。





 ヴェルグは俺とは別の、失った者への哀悼と言うべき寂しさを感じていたようだけど。








「いや…そうでもない。俺はあまり、良い友とは言えなかった。人の心の機敏に疎い俺は、ロベリオの本心を推し測ってやれていなかった。今はそう思う」

「そんなことない!大事なのは気持ちだ。ヴェルグがロベリオのことを友達として、大切に思ったなら絶対に気持ちは伝わってる。俺がロベリオなら間違いなく嬉しいと思う」

「そうか…お前は無知で低レベルな凡人だが、たまにはまともなことを言うのだな?少しだけだが見直したぞ」

「一言多いよ!?ここは素直に感動しておけよ!」







 人間界の勇者は、テンプレなイケメン。




 


 …じゃあ、俺は?


 






 今はまだ、テンプレな村人A。








 村人から出来る執事に格上げされた時には、きっとロベリオに恥じない魔界の勇者になれる筈。








 うん…多分、きっと、恐らくはね!?自信?ゼロ!







 ついでに仲間随時募集中!と言えば、俺じゃなくてクレア様やヴェルグ目当ての奴が殺到しそうなのでやっぱりやめておく。








 こんな状態で本当にモブキャラ卒業出来るのかな…若干の不安を覚えつつ、今夜もメイド達に混じってベッドメイキング。








 このままだとロベリオに成り代わる前に、老執事の代理にされそうな予感がしてならない…そんな一日が終わる。









次回は美女と黒猫が登場人物ですが……


残念ながらエロい展開はありません(笑)


少しずつ仲間が増えていきますね。

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