運命的、でも高嶺の花
人間界の勇者のラストダンジョン=魔王のお城。
魔王のペット扱いでレベル一桁のVIPなご招待。
Q:村人が魔王のお城に来たら何する?
A:とりあえず突撃!魔王のお城探訪。
その日、テンプレ的にイケメンなカリス魔王…奴は唐突に村に現れると俺を指差しながらこう言いやがった。
「よく聞け!そこのアホ面下げた村人、貴様を今日から我のペットに任ずる!嬉しいか?ふはは!何も言わずとも良い」
第一印象は「わー腹が立つくらいの美形のくせにチョー頭おかしい、この人。ザンメンってこういうのを指すんだな」だ。
…いるよね、こういう高スペックなのに色々と残念な奴。
選ばれて嬉しいか?もちろん、答えはノーだ。
誰も嬉しいなんて一言も言ってねぇだろ馬鹿。
いくら村人Aで単なるモブキャラであるとはいえ、俺にも一応の矜持はある。
何が悲しくて男の、しかも自分より優れた野郎のペットにならなきゃならんのだ。
魔王だか何だか知らんが村人なめんなよ!
これでも畑仕事は得意中の得意だし!
村の案内だったら俺の右に出る奴は今のところいない!
え?自慢話が地味すぎるって?
仕方ないだろ、だって俺はいわゆるモブキャラなんだから!目立つのは苦手なんだよ!
あー…マジでご機嫌窺いとか虚しすぎる。
あからさまに俺が嫌そうな顔をすると、カリス魔王は極上の笑顔で言葉を付け足した。
「断れば村人全員の命はピー(自主規制)だ。よく考えて答えよ」
おい…何だそれ!よく考えなくても分かるわ!
自主規制かよ!要はイエスしか許さないって?
さすがは鬼畜の代名詞、魔王様だから当然か?
そんな俺様ルールブックをたかがド田舎の、地図にも載らない辺境の村に持ち込むなと言いたいね。
後に残された頼みの綱は俺の育ての親、村長だ。
しかし何やら袖の下を貰ったらしく、二つ返事で俺を差し出す勢い。
それでも俺の保護者か!今まで真面目に、極々普通に村人生活してきた俺って何なんだよ!?
…こんなことなら昨夜も肩揉みじゃなくて、代わりにヘッドロックかましとけば良かった。
他の村人達も、俺の送迎会と言う名の宴会を開こうとか勝手に盛り上がってるし!畜生、俺って何なの?
はいはい、所詮は村人Aですからね。
扱いが貧弱だな!期待した俺が馬鹿だった。
まぁね、自主規制してもよく分かる物騒な脅迫されたら断れないよね。
本気かどうかはさておき。
「いってらっしゃい村人A」
「魔王様のペット頑張れよ」
「たまには思い出すからさ」
おい…最後の奴、たまにはって何だよ!これでも村のために犠牲になるんだぞ、せめて毎日思い出せや。
だからって死んだ奴と同じ扱いは勘弁願いたい。
俺は、ちゃんと生きてる!生きてるんだからな?
あ、何か今の俺、ちょっと格好良くね?
そうやって、現実逃避してみても状況は変わらないんだけどさ。
分かってるんだけどね!あ、何か泣けてきた。
半ば拉致同然で連れて来られた魔王様の居城は、確かに荘厳でいかにもな佇まい。
う~ん、実におどろおどろしい。
もしも物件で売られていても、俺はまず買わない。
いかにも「ここが魔王様のお城ですよー」と言わんばかりの見た目だし…勇者一行に隠す気さらさらありません!てな感じの潔さだな、うん。
さすが魔王様の居城、無駄にご立派で金使ってるなー。
村長の家が何件入る広さだよ、これ?あー…やっぱり考えるのはやめよう、虚しくなった。
さて、その時の俺はと言えば、あんぐり口を開けてでかすぎる入り口の門を見上げていた。
きっと勇者は入り口のこの辺に立って「さぁ皆、魔王まであと少しだ!」とか言って、仲間を鼓舞するんだ絶対。
何でそう言い切れるのかって?
だってさ?基本的に勇者なんてやる奴は皆、目立ちたがり屋のすけこましって相場で決まってるんだよ。
ついでに女の子にはモテモテ、金髪碧眼の色男、なんてのがよくあるテンプレ勇者だ。
ちなみに異界から流れてきたらしい文献で、そんな話を読んだ。
うちの村の蔵書は意味不明な書が多くて結構、楽しいんだよな。
は?村人Aは暇人だって?ふっ、何を今更なことを。
魔王は基本的に殺られ役、何故かお姫様をさらうとかって言われてるらしい。
俺はお姫様じゃなくて、ただの村人Aなんだけど…。
やめよう、また虚しくなるだけだ。
魔王城にやって来た、勇者一行の話を続けてみよう。
イケメン勇者に鼓舞された仲間達はテンプレ的に「おう!」「はい!」「勇者様、素敵!」とかって、疑いもなく返事するんだろうな。けっ!
ちなみにパーティーメンバーの一軍は、盾役の男一人以外は全員可愛い女の子キャラってのがすけこまし勇者のよくやるパターンだ。
うはー…清々しいほど、欲望に忠実だな。
まぁ男としては間違っていないけどさ、確実に同性には嫌われるタイプだろ勇者って。
そうそう、勇者様にメロメロで目がハートマークになる女の子魔導士とかいたりしてさ?
それって絶対に仲間の男連中から嫉妬買うよね、怖い。
間違いなく仲間の可愛い女の子は食ってるよね、勇者。
食わないのはムキムキの姉御肌系戦士とか、可愛くない獣系とか?うっ、想像したら気分が悪くなった。
選り好みしてるだろうね!勇者様だもんな。
何にせよ選び放題、食い放題だもんな!
ハーレムナイトなんて当たり前じゃね?
くそぅ、全世界の希望だろうが全世界の男の敵だな!
まだ見たことないけど既に俺の敵確定、勇者めっ!!
やばい。俺の中で勇者株急降下、魔王株急上昇!
断然、魔王様の肩を持ちたくなってきたし!!
勢いに流されて壺とか買わされるタイプだな、俺……
それから可愛いお姫様を救出して、そんで「ありがとうございます勇者様」とか言われて、イチャイチャしたあとキスしたりされたりお持ち帰りオッケーとか!くはっ!!
もう語るのもアホらしくなるくらい、めっちゃ美味しい思いするんだろうな、畜生!羨ましすぎる。
…魔王にお持ち帰りされた俺って何なの?ねぇ、何?
「魔王様、何ですか?その小汚ない人間は。今時、布の服にひのきの棒なんてテンプレ村人は需要ありませんよ?」
俺と魔王様を出迎えたのは側近中の側近らしい黒騎士。
いかにも上質であることがわかる漆黒の鎧に、黒髪深紅の瞳がこれまた異常なほど、似合ってる色男だ。
正直、魔王様に続くイケメン登場で俺は不機嫌に。
自分の価値がますます下がる気がしていたたまれない。
魔王様を始めとした魔族ってのは、基本的に黒髪が多いらしい。
瞳は上位クラスであればあるほど、ルビーみたいな深紅で下位になるほど蒼に染まるとか。
人間の上位は逆で、サファイアみたいな深海の色がもてはやされる。
奴隷は魔族に近い赤とか紫とか?つか未だに奴隷制度はどうよ?改善した方が良いと思うけどなー。
だから勇者の瞳は最も上位の碧眼な訳か、なるほど。
ちなみに俺の瞳は中途半端な翡翠色。
どちらにも染まってないって事なのかな?
話を元に戻すぞ。
魔王様の小脇に抱えられた俺を見て、黒騎士は容赦ない一言をかましやがった。
両腕を組んで、ちょっと斜めに構えた姿がすげー絵になってんなぁオイ。
しっかし何だよ…魔王の側近とか、やっぱり美形かよ!無性に腹が立つ。
中ボス辺りになるんだろうな、コイツは多分。
ガーゴイルとかスライムとか、魔王ならモンスターの一つくらい侍らしとけっての!
ちなみにどうせなら可愛い女の子モンスターの方が嬉しいなんて思ってない、少しも思ってないぞ?
…嘘です、本当はちょっとだけ思いました。
妄想だけで生きててごめんなさい。
あ、やっぱりやめて!寝ている間にスライムにまとわりつかれるとか、マジで気持ち悪い。
ひぃ!思わず感触を想像したら鳥肌がっ!!
リアル妄想は墓穴を掘るからやめましょうね!って人生の教訓だな。
そこで一人気持ち悪い妄想に悶絶する俺を無視して、魔王と側近は何やら会話を続けている。
どうも魔王様の方が、部下に頭が上がらないように見えるのは気のせいか?
「見ての通り、不細工な百面相が面白いであろう?故にペットにどうかと思ってな!そこのド田舎の村から拾っ…スカウトしてきたのだ」
「今すぐに捨てていらっしゃい」
「ち、ちゃんと世話するから!」
「ダメです。野良は衛生的にも種族的にも宜しくない、純血であるが故に我々は均衡を保って来られたのですよ!イレギュラーはあの御方一人で充分です」
おい、そこの黒騎士!俺は野良犬か何かか。
つか村人扱いすらしてもらえんのか?
勝手に連れてきたくせに何て理不尽な奴等だ。
それにイレギュラーのあの御方って何だ?
どうも俺をどうするかで話がこじれているみたいで、魔王様と黒騎士は言い合いを続けている。
その後も二人の言い合いは続き、俺は魔王城で三日ほど何もせず豪華な部屋で過ごす羽目に。
実に無駄で、メタボリックに王手な日々だった。
金持ちが太っている理由が、よく理解できる。
村人Aの方が、よっぽど仕事してるわー。
魔王様は何であんなにスリムでいられるのか謎だ。
いい加減待ちくたびれた俺は、仕方ないので勝手に魔王様の居城を探検がてら一人歩き回ることに決めた。
くそ弱い人間の俺が、高レベルの魔物に襲われることもなく自由に歩けるのは魔王様のお力添えあってのことだ。
そういや今の俺、レベルどれくらいなんだろう?
間違いなく一桁だな。
もしも間違ってここに入っていたとしたら、魔物に襲われて一撃でジ・エンドみたいな?
想像すると恐ろしいな。
まぁペット扱いとはいえ、ある意味VIPだから今の俺。
せっかくの機会だから、あちこち見て回ろう。
だけど大方の予想通り、魔王城はどこを見ても何か殺伐としていて面白味もない場所で落ち着かない。
俺は今すぐ回れ右して村に帰りたくなった。
そりゃあね…魔王城って言えば、確かに勇者にとってのラストダンジョンだよ?
基本的にはね、隠しダンジョンがなければの話だけど。
二週目には隠しダンジョンがあるってのが、最近のあーるぴーじー?の当たり前だそうだ、と異界の文献で読んだ。
それによれば、魔王と勇者が出てくる話は大概「あーるぴーじー」と呼ばれている。
…所で二週目って何?意味不明だな!ま、いいか。
しかしな、この長い回廊は一体どこまで続くんだ?
畑仕事で鍛えてるとはいえ、ショボいレベルの俺にはこの馬鹿みたいにだだっ広い城の構造はこたえる…明日、絶対に筋肉痛確定だなこりゃ。
どこまで行ってもゴツい魔物にさらには厳つい兵士とか、現実にいながらにして悪夢の中を歩いているような場所で、早々に俺の冒険心は萎えた。
さっき妄想した、可愛い女の子モンスターなんて一人もいねぇし。
あぁもうお家に帰りたい…これって完全なる平和ホームシックだな。
マジで闘技場とか血塗られた場所はいらないよ?誰得なんだよ!魔王様のご趣味ですか?あーはいはい、そうですか。
趣味悪っ!!
おい、誰だよ…「俺をペットに選ぶ辺りでそんなの分かりきってるだろ」とか抜かした奴は!
喧嘩売ってんのか。
ちなみに売られた喧嘩は一切、買わないけどね!だってヘタレだもん!!
どうせならイメージアップにカジノとかどうかな?楽しい場所を提供すれば、魔王様の人気も上がると思う。
ついでに可愛いバニーガールとかいたら、もうテンション上がりまくるね!
男なら一度は夢見るリアルな子ウサギちゃん。
網タイツは黒で、ヒールは赤でお願いします!
どうせなら、ボンキュッボンのナイスバディなムチムチのお姉ちゃんだと嬉しいね。
あ、やべ、ついうっかりよだれが!誰も見てないよな?と思ったら、いつの間にか後ろにいたらしいオーガに哀れな物を見るような目で見られた…。
待てよ?これじゃすけこまし勇者と同じ思考だぞ…
我ながら欲望に忠実で凹むわー。
そんなこんなで肩を落としながら歩いていると、今まで見たことのない清浄な空気に守られた聖域みたいな場所に出た。
綺麗な滝が回りを囲み、その真ん中に花畑が見える…一種の庭園だな。
何か癒される、初めて魔王城で落ち着ける場所に出会えた気がする。
まずい、気落ちしながら歩いていたからどこをどう歩いたか覚えていない!ま、いいか。
俺はそろそろと忍び足で、恐る恐る誰もいない庭園に足を踏み入れた。
花の香りと滝から放たれるマイナスイオンが心地よく、うとうとしてきた俺は花畑に横になり、天井を見上げる。
ドーム型のガラス越しに綺麗な星空が見えて、外はもう夜なのだと今頃知った。
今更だけど、これからどうするかなー…村にはもう帰れないし、かと言って魔王のペットで満足なのかと言えば絶対に嫌だ。
あーでもないこーでもない、俺はしばらく一人でうだうだもだもだ考えていた。
が、生来考えることが苦手な俺はあっさりと現実逃避ついでに眠りこけてしまった。
魔王城で落ち着ける俺って、結構な強者だな!たまに自分の器の広さが怖くなる。
え、単なる馬鹿?おいおい、俺がその程度で怒るような器の小さい男だと思うかい?
はっはっは!デコピンで勘弁してやろう。
横になって1時間程度。
気持ちよく眠っていた俺に、優しく声をかける一人の淡い影が落ちる。
何だよ…うるさいな、もう少し寝かしてくれと言おうと薄目を開けたら、目の前には驚きの光景が。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「んえ、っと?」
「ふふっ…貴方様があまりにも気持ち良さそうに眠っていらしたので、私もつい一緒になって眠ってしまいました」
…何だこの状況。
目が覚めたと同時に世界が大分変わってるんですけど!
俺の隣に今まで見た中でも一番の、いや、きっとこれから先もずっと俺の中で一番である、と分かるほど可愛い女の子が寝ている。
少しはにかんだ表情がとんでもなく可愛い。
俺の顔を覗き込んで、警戒心の欠片も無い彼女の背中には白い翼。
あぁ…そうか、もしも天使がいるとしたらこんな感じなのか。
その時の俺は、当たり前のように彼女の存在を受け入れられた。
いつもならそんなものいるはずがない、と一蹴する俺がまさかの変わりようだ。
だけどそれも彼女を見れば、仕方ない気がする。
俺の固定観念さえ覆すほど、彼女は異質でありながら圧倒的な存在感で確かにそこにいるのだから。
蒼天の空を思わせるような、慈愛に満ちた瞳の天使。
大きい瞳と長い髪の色は透き通るような空色、華奢で小柄な思わず男が守りたくなるような体つき、色白の素肌に桜色の頬と小さな唇、着ている衣服も純白のふんわりとした可愛らしいドレスで背中に生えた白い翼をことさら引き立てている。
どこからどう見ても純情可憐な彼女は、パーフェクト過ぎて言葉にならない。
空色の髪の乙女、って形容するのが一番正しいような気がするな。
少しポエムっぽくなるけどそう思うんだから仕方ない。
真っ赤になってあたふたする俺と、そんな俺を楽しそうに見つめる彼女。
やばい、ここに来て口下手が悔やまれる!
そもそも俺は、村人Aであってモブキャラであるからして!主役級の活躍は見込めないのが鉄則、それを理解して欲しい。
こんな美味しい状況、一体どうしたらいいんだ!?
運命的、でも俺には高嶺の花!!さて、どうなる?
※異界=現実世界、私達の世界で何故か色々な文化が所々に流れている様子。
魔王のお城にいる筈の無い存在、高嶺の花。
モブキャラから勇者までまだまだ遠い道のり。
次回は村人から勇者へ変わるきっかけのお話。




