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合言葉は、村人A「旅立ち編」  作者: 白雪 四葉
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勇者変身、桃色の君

変身は世の魔女っ子の得意分野ですね。


Q:誰が何に変身するの?


A:答えはタイトルそのまま


ひねりも何もないと言う突っ込み、ごちそうさまです。それではその勢いのまま本編へどうぞ!

 千年前の天空界の勇者フレア様の加入により、弱点だった回復系をようやく得ることが出来た魔界代表パーティーの俺達。




 クレア様の兄であるフレア様は、ふわふわな見た目と綺麗すぎる容姿で威厳は全く無いに等しい。


 

 


 だが、ポテンシャルは恐らくこの中の誰よりも上な気がする。







 千年前の凄惨な大戦において、一人で千人以上の悪魔を葬ったなんて今の彼を見ると正直信じられない。





 それが本来は虫も殺せないほど心優しいフレア様の心を傷付け、今のちょっと天然気味な彼を生み出した原因ともなれば尚更だ。 







 それからもう一つ、天使の生態について驚いたことがある。












「…ちょっと、誰よアンタ!?」


     


 あれから魔獣ベヒモスと別れ、境界から外の世界へ出て来た俺達は、キグルスとフレア様の歓迎会を二人同時に催すことにした。




 そう言えばロベリオも「二人だけずるいぞ!俺様の歓迎会もしろ!」とうるさいので、キグルスとフレア様のついでに一応、奴の歓迎会でもあるということにしておく。






 だけどヴェルグとキグルスはやっぱり仲が悪くて、事ある毎に二人で睨み合いをしては、二人の間に挟む様に座らせた俺の取り合いに発展するから迷惑極まりない話だった。





 フレア様はオレンジジュース片手に笑顔で隣には顔の赤いリリエルがいて、間違いなくあの時の愛の告白は本気なのだと疑い深い彼女に伝えているみたいなポジショニング。





 オレインさんは黒猫クローバと戯れながら、時折は宿屋の主人にお願いして持ち寄らせた珍味や高級なワインを静かに堪能し、大人の女性の楽しみ方でのんびりと過ごしていた。





 ロベリオは何とも不思議なあの姿でがつがつむしゃむしゃ…用意されたご馳走に舌鼓を打ちながら、時折「クレアに会いたい」と俺にぼやいてベヒモスの傷を癒す為に、彼女を一瞬だけ呼び出したことを責めて来る。






 その姿で独占欲かよ…気持ちは分からなくもないけどな。







 とある高級な宿の一室を貸し切って行われた、魔界の未来を担う…筈の俺達一行だったけど。






 

 何だか先行き不安になるばかりの、そんな歓迎会が終わって一夜開けてみれば…


  





「何言ってるのリリエルちゃん、僕はフレアチスだよ…まさかもう忘れちゃったの?酷いなぁ」

「馬鹿言わないで!フレアチスはもっと、クレアそっくりの子供っぽい顔をしていたわよ。一緒に隣の部屋に宿泊した筈よねキグルス?」

「あー…それが、だねぇ…何と言うか、彼は成長期を迎えたらしく。私の目の前で突然、変体したのだよ!加えて言う、変態ではないぞ!変態はヴェルグ君一人で充分、ぐはっ!?」

「人を勝手に変態扱いするんじゃない!!」



 

 キグルスいわく変態…じゃなくて変体、したらしいフレア様がそこにいて、昨日知り合った時とは別人とも言うべき大人の彼が朝から俺達を出迎えた。





 今日も例に漏れずキグルスに変態扱いされたヴェルグは、いつも通りの反応でキグルスに回し蹴りを食らわすと、振り向き様に宿の部屋に置かれていた大きな鏡をフレア様に差し出した。





 ヴェルグ……器用な真似を。







「わぁ…本当だ、凄い!僕、ちょっと成長したみたい。あのね?天使は恋をすると、少し成長するんだって父に言われたことがあるんだ。だからきっと、僕がリリエルちゃんに恋をしたから初めて成長期を迎えたんじゃないかな?」

「こ、恋をした!?」

「うん、そうだと思う。ある一定以上、成長しないように僕達は父に生まれながらにして操作されていてね。それが解除されるんだよ」

「ど、どうなる訳?」




 実に珍しい天空人…天使の生態には、天空界の神とされるいわゆる独裁者?フレア様を含めた全ての天使の父と呼ばれている者の手が加えられているらしい。




 フレア様は何でも無いことの様に語ったけれど…それは許される所業なのか?所詮は普通の人間でしかない俺に、批判するだけの権利はない。

 




 だけどちょっとだけ、納得出来ない気持ちから胸の中がもやもやした。






 恋をしなければ一定以上の成長が出来ないなんて…モテない天使はどうなるんだ?鬼畜な設定だな!?フレア様の語る天空界の歪められた理に、俺達は思わず息を飲んだ。

 





「本当に恋をした人の寿命と同化するんだ。添い遂げる為にね…天使としての永遠を失う代わりに、唯一の人を想い続ける。それが天使の本当の幸せだと僕は思う。両想いかどうかは別としてね」

「そっ!まだ出会ったばかりでそんなの早すぎるわよ!」

「そうだね。でも…これで僕が天使の上位階級から遠ざかったことは喜ばしいことだ」

「え?何それ…フレアチス?」




 天使でいられる時間は永遠ではなく、また同時に恋をしなければ成長しない…その紛れもない事実は俺に大きな衝撃を与えた。




 つまり恋をすることなく成長しなければ、永遠を生きることが出来る…天使とは歪められた不老不死の極みとも言える存在のことを指す訳だ、千年前から時を止めたまま少女の姿で今を生きるクレア様の様に。





 その時の俺はフレア様とリリエルの会話を遠くに見つめながら、乾いた笑みを浮かべるしかなかった。

 






「天使は恋をすると成長期を迎える、か……ははっ」

「レミリオ?」

「ヴェルグ…どうしよう俺、告白する前から失恋?」

「クレア様のことか…」




 その時のヴェルグは全て悟っているのか訳知り顔で、まるで何か痛ましい物を見る様な目で俺を見た。




 うう、イケメンに哀れみの目で見られると余計傷付く…つか俺の気持ちって、実は皆にバレバレなのか?今更だけど恥ずかしい!しかも告白前から失恋確定とか泣ける。




 今なら千年前に想いを胸に秘めたまま、あの姿にならざるを得なかったロベリオの気持ちが分かるかも…






 え、負け犬のお前と一緒にするな?ごめん、ロベリオ…







「やっぱり俺なんか、魅力もないし…ロベリオですらクレア様の恋愛対象になれないのに俺じゃ絶対無理だ」

「そんなことを言うな、自分を卑下しても何も変わらん」

「じゃあヴェルグは俺のことをどう思う?やっぱりつまらない人間だって思ってるんだろ?いいんだ、分かってる」

「おい…いい加減にしろ!!」




 うじうじといじける俺を最初は慰めていたヴェルグも、いい加減苛ついたのか最後は声を荒げて一喝。




 基本的に過保護で俺に対しては、あまり怒りの感情を強く表さないせいか「ヴェルグ君にしては珍しいこともあるね」とキグルスも目を丸くした。





 そうだな、ヴェルグはキグルスに対してはほぼ怒りの感情しか表してないもんな…はは。






「お前の気持ちを完全に理解できるとは言わないが、勝手に思い込むその癖を何とかしろ!少なからず俺は、クレア様の瞳にお前は映っていると思っていたぞ?それに俺はお前を」

「何だよ?」

「家族だと…大切な存在だと思っている。主従であることや俺が勇者の盾である前に、お前は守るべき大切な存在だ」

「それって、俺がロベリオそっくりの顔じゃなくても?」




 俺がずっと気になっていたこと…三年前、ヴェルグと魔界の勇者になる約束を交わしてから、ロベリオの代役であることを第一に考えていた魔王様とヴェルグが今はどう思っているのか。




 ロベリオの存在は、今でもきっと二人の中で大きな位置を占めている筈。




 だからこそ俺をここまで育てて勇者に仕上げたのだから、もしも俺がロベリオと全く違う顔の別人になったとしたら?

 

 

 


 有り得ない話だとしても俺はヴェルグの本音が聞いてみたくて、恐る恐る上目遣いに問い掛けてみた。







「ここまで来ると、親以上の情が湧く物だ。不思議とな」

「じゃあヴェルグは俺のこと、好きなのか?」

「そう言うことになるな」

「少しは照れたりしろよ」




 たまに理解し難い俺とヴェルグの不思議な関係。




 俺が勇者でヴェルグが盾で、だけどエルトリア家ではヴェルグが主で執事が俺で、果たしてどちらが今の俺達にとっては優先順位が高いのか?




 よく分からなくなる時、とりあえず「年の離れた兄貴みたいな存在」で誤魔化して来たけれど…今は何となく、そのどれも違う様な気がして俺は全く気持ちを隠さないヴェルグを苦笑しながら見つめ返した。






 まぁ無自覚の世話焼きなヴェルグにとっての俺は、恐らく「手の掛かる子ほど可愛い」そんな感じなんだろうなぁ…











 俺の一方的な片想いによる失恋と呼ぶべき形で終わりを迎えた、恐らく初恋…?

 クレア様は、初対面の俺にも優しくしてくれた特別な存在であることは間違いない…だからきっと、これが俺の初恋なのだろう。



 


 憧れの存在である天使の彼女…手の届く筈の無い気持ちを持て余し、俺は一人で夜の町中をぶらつく。





 確かに俺はクレア様に何も言えなかったし、何もしなかった…執事と勇者の修行で忙しかったと言い訳するのは簡単だけど、単に告白するだけの勇気がなかったってことだ。






 だから泣いたり悲しんだり、今になって嘆くのは男として女々しいし格好悪い。

 だけど胸が痛くて苦しいから、俺は一人でこの想いを消化するつもりだったのに。




 

 ロベリオとヴェルグがなかなか宿に戻らない俺を探しにわざわざ酒場まで来たから、俺は二人に涙の訳を話さざるを得なくなった。






 どうやら千年前の勇者と黒騎士は、俺の想像以上に俺のことを心配してくれている優しい先輩達だったみたいです…








「うう、ぐすっ…俺、初恋だったのに失恋とか格好悪い」

「まぁ…天使は敷居が高い存在だからな。フレア様のケースは稀だろう。我等魔族同様、天使は同族と結ばれることで血を汚さずに守って来た筈。となると、まして人間相手は難しいだろうな…例がない。混血は忌み嫌われる、レイを見れば分かるだろう?」

「そうなのか…俺、田舎者だからそう言う常識よく分からないや。リリエルが羨ましい!こうなったら俺も勇者服やめて、メイド服着ようかな?」

「やめろ、気色悪い」




 フレア様とリリエルの関係が羨ましくて冗談混じりにメイド服の話を持ち出せば、冗談の通じないヴェルグは心底嫌そうな顔をして眉間にシワを寄せるし、ロベリオはぎゃははと笑ってスルーした。




 何だこの反応の違い…俺のメイド服姿はそんなに嫌ですか?あぁそうですか!すいませんね、リリエルみたいな可愛い女の子じゃなくて。





 今更だけどヘタレの俺から言わせて貰えれば、相当な美少女の部類に入る義妹のリリエルを袖にしてまで天使のクレア様に恋をしたらしいロベリオは、どれだけ理想高いんだよ!





 あぁ…以前、俺にモテ遍歴を語ったくらいだから女の子は選び放題だったのか?同じ顔の筈なのに何だ、この馬鹿みたいにデカイ格差は。







 目の前の剣…カウンターの上に立って面白そうに俺を見ているロベリオをじっとり見つめながら、俺の手はますます普段は口にしない葡萄酒の入った大きめのコップを口元に運び続けた。












「ロベリオ様、俺も同じです!失恋、敗者決定戦の優勝者!あはは、やったね!これで俺もロベリオ様の仲間だ」

「言っておくがな?俺様はクレアに失恋してねぇぞ!告白してねぇだけだボケ」

「俺だって告白してないよ、ヘタレだし!ぎゃははは!」

「おい、ヴェルグ…この酔っぱらい何とかしろ!うぜぇ」





 それから一時間後、俺の意識はすっかり酒に飲まれてへべれけ状態に。




 あぁ世界が回っている…目の前がふわふわと揺れて、視線も定まらない俺は店のカウンターで眠りに入る迷惑な客まで一歩手前だ。





 俺の気持ちを第一に考えて黙って見守っていたヴェルグも、さすがに呆れた様子のロベリオの指摘が正しいと思ったのか、俺の腕を持ち上げて席を立つ様に声を掛けた。






「うー…やだ!まだ飲む、飲まなきゃやってらんない」

「馬鹿者、飲んでもそう簡単に気持ちは変わらんぞ?」

「うう、分かってる…でも、だってさぁ?泣きたい俺」

「いくらでも泣けば良かろう?今夜は付き合ってやる…ただし、もう酒は駄目だ。宿に戻ろう、皆が心配しているぞ?お前には、いつでも俺達が傍に付いていることを忘れるなレミリオ。涙は今夜限りで終いだ」




 酒場を出たまでは良いが慣れない酒を大量に飲んだせいか、ふらふらと千鳥足で歩けない俺を見かねたヴェルグは、それが当然とばかりに俺に背を向けてしゃがみ込むと乗る様に手で促して来た。

 




 本当に底抜けのお人好しと言うか、根っからの世話焼きと言うか…





 だけどその時の俺は、ヴェルグの優しさと気遣いに甘えて頼ることの恥ずかしさよりも、嬉しさの方が勝ったから素直におぶって貰うことにした。





 そこでふと執事だった頃の自分を思い出し、もしも今の光景をエルトリア家のメイド達が見ていたら、間違いなく嫌がらせされている所だなと余計なことまで考えたのは内緒だ。






「ヴェルグ…ごめん、迷惑かけて」

「もう今更だ、気にするな。お前のお守りももう慣れた」

「優しいなー…大好き。俺、女だったら良かったなぁ。そしたらお前の嫁に、して、貰えたのに」




 もしも俺が可愛い女の子だったら…そんな有り得ないことを考えながら、ヴェルグの首にぎゅっと両腕を回しておぶって貰う。




 優しい気遣いと慰めの言葉にまた泣けてきて、俺はヴェルグの肩に顔を埋めて静かに泣いた。

 




 その内に俺が己の背中ですやすや眠りにつくと、ヴェルグは呆れながらもやっぱり優しい瞳で背にした俺を見つめながら、小さなため息を漏らしていた。










「勝手なことを言って、勝手に寝るな…手の掛かる奴だ」





 こうして俺の一方的な失恋による涙の記憶は、そこで終わりを迎えた。







 だからその後は何があったのか知らないし、ヴェルグがわざわざ俺を寝間着に着替えさせたこととか、一緒に寝てくれたこととか全く知らなかった。





 多分だけど恋の痛手に傷付いた俺を独りにさせるのは、過保護なヴェルグとしては忍びなかったのかもしれない。












 その日の夜。







 夢の中で見た俺は、クレア様に勝るとも劣らない美少女の姿で皆と一緒に笑顔でそこにいて、ヴェルグとキグルスはやっぱり口喧嘩して俺の取り合いをしていた。




 いつもクールなオレインさんは、女の子の俺を着せ替え人形の様に次から次へと着せ替えては、うっとりと見惚れた様な恍惚の表情を浮かべて楽しんでいた。





 だけどリリエルは何故か女の子の俺に敵意丸出しで、フレア様はそれを宥めてロベリオは俺の胸の谷間に入ろうとセクハラして、三者三様の対応で出迎えた。










 何だか妙にリアルな夢だと俺は不思議な感覚に身を震わせると、寒さを感じて一気に意識が覚醒し目が覚めた。

 




 

 ぼんやりと薄目を開けて天井を見上げれば、昨日も泊まった高級な宿屋の一室であることをようやく理解して、俺は小さく安堵のため息をつく。










 それにしても酒の勢いって怖い…どうしよう?昨晩は途中から何を喋ったか正直、覚えていない。





 恥ずかしいことまで話してしまったかもしれない、もう消えてしまいたい!昨晩はどうかしていたんだ俺…





 あんな醜態を晒した上にヴェルグとロベリオの前で泣くとか!勇者とか名乗る前に男として情けなさ過ぎる、絶対に呆れられただろうなぁ。








 



 後悔と情けなさで胸がいっぱいになりながら、俺はまだ昨晩の酒によってだるさの残る身体をベッドから無理矢理起こすとそこでまたぼんやり。





 俺の隣にはまだヴェルグが静かに寝息を立てて、普段は絶対に見せない寝顔を見せているのだから、何だか不思議な感覚を覚えた。

 




 寝顔に落書きしたら怒るだろうな、と怒ったヴェルグの未来予想図を胸に思い描いて、俺は思わずクスリと小さく笑う。











 二日酔いによる頭痛を伴う重い頭を手で抑えながら、ベッドの上から降りて洗面所へ向かおうと姿見用の鏡の前を通り過ぎた時…ふと違和感を覚え、もう一度鏡の前に戻る。









「ふぁ…うー…頭が痛い。飲み過ぎた…目も腫れて、る?」




 

 小さなあくびを一つ溢して眠い目を擦りながら、目の前の鏡に映る自分を凝視して、俺はまだ夢を見ているのかと疑いとりあえず頬をつねってみる。





 当然、頬は痛くてそれにより俺は、目の前の鏡に映る有り得ない姿が今の俺自身だと言うことを混乱しつつも確信したのだった。







「んー…アレ?いつの間に俺、髪の毛が伸びたのかな?桃色の、え?何だこれ…何で俺に大きなおっぱいが!?」

「うるさい奴だな…まだ夜明け前、ん?誰だお前は!?」




 そこで驚きの余り俺が大声を上げるとヴェルグが目を覚まし、しかも女の子の姿の俺を見て不法侵入者と勘違いしたらしく険しい顔をする。




 ヴェルグはベッドの傍に立て掛けて置いてあった鞘を素早く持ち出すと、魔剣に手をかけたから乱れた寝間着以外の装備が無い俺は一気に青ざめた。







「ちょっと待て!頼むから俺の話を聞いて、ねぇお願い!!」なんて言っても、きっと今の疑いの眼差しで俺を敵視しているヴェルグは聞いてくれそうにない。






 苦肉の策と言うか、背に腹は代えられないと言うか…俺は仕方なく、隣の部屋で寝ている筈のキグルスとフレア様に助けを求めるべく悲鳴をあげようとして、慌てたヴェルグに背後から抱きすくめられて身動きできない上に口を塞がれて八方塞がり状態。






 ちょっと初めて見た女の子への対応にしては、荒っぽいと言うか乱暴だぞヴェルグ…中身が俺だから良かったけど。いや、良くないか…本当にどうしよう?








「きゃあ…むぐ!?」

「いきなり大声を出すな!!俺が連れ込んだとレミリオに誤解を受ける!おい貴様、どこから入り込んだ?何が目的だ!?」





 そうやって一息に俺への質問を投げ掛けると、ヴェルグは明後日の方向を向いて俺を直視しようとしない。





 何でだろうと不思議に思って後ろに首を回せば、真っ赤な顔をしたヴェルグと視線が合って、照れているらしいことが分かった。








 あれ、おかしいな?あのフェロモンの塊みたいなオレインさんにすら、全く平気な顔で対応していたくせに…うーん、訳が分からん。







 まさかとは思うが、大きなおっぱいが苦しくて何個か前のボタンを外している、ちょっとだけ乱れた俺の寝間着姿に照れているとか?





 でも普段からオレインさんなんて、胸の空いた際どいドレスに生足の姿だぞ…どう見てもセクシーさはあちらの方が上だけどな?








 俺は視線を合わせたヴェルグに訴えかけるべく、涙目でじっと見つめること数秒間。






 先に視線を外したヴェルグは根負けしたのか、俺の口を塞いでいた手をようやく退けてくれた。







「ぷはっ!苦しいよヴェルグ、俺だよ!俺、レミリオ」

「レミリオは男だ、悪ふざけが過ぎると斬り捨てるぞ」

「俺とお前しか知らない情報…ゴニョゴニョだよな?」

「なっ、破廉恥な!?」




 メイドも執事も、およそエルトリア家に関わる誰も知らない筈のヴェルグと俺だけの秘密。




 幼い頃から跡取りとして、将来を見据えたエリート教育を施されて育てられたヴェルグは環境のせいなのか、はたまた元々の性格からか人との距離を置きがち。





 そんなヴェルグだけど実の両親や乳母、魔王様ですら知らない俺にだけ知られた身体的特徴が実は一つだけある。






 え、どこにある何かって?それはまぁ…ヴェルグの反応で何となく察して欲しいかな。







「どうしようヴェルグ…俺、女の子になっちゃった?おっぱい重いし…あ!リリエルに分けてやったら喜ぶかな?」

「知るか!俺に答えを求めるな!」

「むー…何だよ、俺が女の子になった途端に冷たくなってさ」

「別にそう言う訳では…いいからこれでも羽織ってその胸を隠せ!淑女のたしなみが足らないぞ、乙女たる者が全くはしたない」




 ようやく俺をレミリオ本人と認めてくれたヴェルグだけど、昨晩の気遣いがまるで嘘の様に素っ気ない態度でやっぱり俺を見てくれない。





 女の子の俺をあからさまに遠ざけようとしていることが、ヴェルグの態度から感じ取れたから俺は寂しくなってつい頬を膨らませると涙目で睨み付ける。






 そんなに嫌わなくても良いのにな?さすがの俺でも傷付く…淑女のたしなみが足らない?だって俺は元々男だし、何で乙女扱いされた上に怒られなきゃならんのだ。






 少し乱暴に差し出されたそれを受け取ると、俺は渋々羽織って寝間着からはち切れそうなほど大きい胸の谷間を隠した。






 普段からヴェルグが羽織っている黒衣の外套からは、何だか優しい香りがしたので俺はつい物珍しげにすんすん匂いを嗅いで、また真っ赤になったヴェルグに「乙女がはしたない真似をするな」と怒られた。


 





 何だかいつもより風当たりが強い気がして、俺は不満を露に不機嫌そうなヴェルグに尋ねる。







「昨夜はあんなに優しかったのに…ヴェルグは男の俺が好きなのか?女の子の俺は嫌い?お前、女嫌いの男好き?」

「何やら酷い誤解を受けているようだが、俺はまともな感性しか持たん。あまり女は好かんがな」

「ふーん?女嫌いは正解なのか、だから俺に冷たいの?」

「そうじゃない!ただ、どう言えば良いのか…」




 艶のある前髪を掻き上げて、今の俺に対しての苦悩をどう言葉にすれば良いか、悩むヴェルグはやっぱり色男と言うべきか。




 そこで悩ましげに大きなため息をつくと、女の子の姿になった俺を熱のこもった流し目で見つめて来たから何だかドキリとさせられる。

 



 

 いつも以上に男としての魅力が増していると言うか…何故だか急に胸がドキドキして落ち着かなくなり、まるで本物の女の子になった様な錯覚を覚えた。



  



 

 以前、キグルスが同じ様なことを男の俺にして来た時には、単なる笑いで流せた筈なのに。






 あれれ?何だこれ!何か、何だか今の俺とヴェルグの間に流れる空気が桃色って言うか…今まで感じたことの無い不思議な空気が俺を更に落ち着かなくさせる。






 だけどそれはヴェルグも同じだった様で、ベッドの上で隣に座った俺の手の上から、まるで壊れ物を扱うみたいに怖々と手を重ねて来た。







「落ち着かなくてな…お前のことは、守るべき大切な存在として弟のような感覚で見ていた。だから正直、今のお前に対してどう接すれば良いのか分からん」

「それって…」




 重ねられた大きな手のひらから伝わる熱が、そのまま今のヴェルグの心情を表している様で、俺はどうすれば良いか分からなくなる。

 



 最初は素っ気ない態度で傷付いたけど、今度は熱のこもった瞳で見つめられて困ると言う…真逆の態度で俺に接してくるヴェルグはきっと、女の子の姿で困惑している俺以上に混乱しているのだろうと思う。

 






 だって!おかしいだろ、明らかに今までヴェルグからこんな風に手を握られたこととか無いし!?いや、あったらあったで気持ち悪いけど!!





 そもそもヴェルグは女嫌いなんだろ?何で普通の女の子は駄目で、普通じゃない女の子姿の俺は平気になってんの!?頼むからその整った顔で見つめないで、俺は男なんだよ!変な気持ちになったらどうしてくれるんだ?






「今のお前は可憐な乙女だ、見た目だけなら…そう、天使のクレア様にも劣らんよ。故に女と見れば声をかける、キグルス辺りは大騒ぎするだろうな」

「ヴェルグ…じゃあ今の俺、可愛いの?お前から見ても」

「そうだ。可愛い…その単語が一番今のお前には似合う」




 言い慣れない言葉を使ったせいか、ヴェルグは先程以上に真っ赤な顔で所在なさげに俯く。





 だけどその時の衝撃を受けて、過呼吸に陥った魚の様に口をパクパクさせた俺よりは幾分かマシだと思う…






 自分から問いかけた答えに恥ずかしいくらい狼狽える俺、馬鹿だ…








「まさかヴェルグにそんなこと言われる日が来るなんて…照れる、恥ずかしい!何だこれ…体が熱くなって、背中が」

「どうした?おい、レミリオ」

「苦しいよヴェルグ…痛い!」

「どこが痛いんだ?しっかりしろ」



 

 急に訪れた痛みと苦しさから、俺は先程の恥ずかしさも忘れて心配そうに俺を見ているヴェルグにしがみつくと、背中から全身に伝わる激痛に何とか耐えた。


 


 冷や汗が頬を伝い、荒い呼吸の中で涙目になる俺を気遣うヴェルグは狼狽えず、ひたすら背中をさすってくれたから何だか申し訳ない気持ちと安心感で一杯になる。




 

 だけどあまりにも痛くて涙が一粒零れ落ちた時、ようやく治まってきたことに安堵したのも束の間、痛みが疼く背中に視線を向けた俺は今の姿以上に有り得ない物を見て驚愕した。










「う、うわ、うわああぁ!?」  




 クレア様やフレア様の背中に付いていた筈の真っ白な翼が、俺の背中からずるずると生え出したのだ。




 わぁ素敵!綺麗、俺もクレア様やフレア様と一緒だ!なんて喜べる筈もなく…






 その時の俺はますます混乱して、ヴェルグに助けを求めるみたいに泣きじゃくって困らせた。


 





「せ、背中から翼が生えた!?だが…触れることは出来ないし、透けている様だ。これはもしや、アストラル体?フレア様と同じ翼…一体、どう言うことだ?」

「女の子になっちゃった上に翼が生えるとか!俺、どうなっちゃうんだ?もう勇者になれないよ、魔王様ごめんなさい」

「レミリオ、少し落ち着け…おい、誰だ!そこで覗き見している不届き者は!?出てこないなら斬り捨てるぞ!」




 泣きじゃくる俺を宥めながら、いつの間にやらほんの少しだけ開かれた部屋の扉の隙間から、覗き見していたらしい誰かにヴェルグが物騒な発言を投げ掛けると。




 案の定と言うか期待を裏切らないと言うか…自称ヴェルグの永遠の好敵手と広言して憚らないもう一人の色男、白騎士キグルスがバーンと勢い良く扉を開けて泣いていた俺の傍にずいっと近づいてきたから俺は驚いて涙も止まってしまった。







 キグルスは紳士的に俺の涙に濡れた頬を取り出したハンカチで拭うと、今度はその頬に手を添えてうっとりとした眼差しで俺を見つめる。






 するとヴェルグはいつもより更に不機嫌な表情を浮かべて、キグルスから遠ざけるみたいに俺を背に隠した。






「奥手とばかり思っていた君が、まさかこんな可憐な乙女を朝から連れ込むとは…ズルいではないかヴェルグ君!隠さずに私にも紹介してくれたまえ、独り占め反対!!」

「キグルス……貴様の頭の中身はどうなっているんだ?とりあえず一度、死ぬといい。俺自ら介錯してやる」

「ちょ、いくらまずい現場を私に目撃されたからって!証拠隠滅は卑怯だよヴェルグ君!?」

「黙れ、本当に消されたいのか?俺は構わないがな!!」




 愛しそうに女の子姿の俺を見つめるキグルスを遠ざける様に、不機嫌度が最高潮に達したヴェルグは今度こそ本気で魔剣を取り出すと、一応の仲間である筈の奴に向けて振りかざしたから俺とキグルスは一緒になって青ざめた。





 ちょっと待て!いくら嫌いだからって同士討ちはダメだよ!?俺は慌ててぶち切れたヴェルグを止めるべく、背後からぎゅっとしがみつくと感情を抑える様に訴える。





 青ざめたキグルスを部屋から追い出したヴェルグはようやく落ち着いたのか、魔剣を鞘に戻すと「すまん」と一言だけ俺に告げて、頭を冷やしてくるつもりなのか俺を一人残して部屋から出て行く。

 

 





 ヴェルグは元々キグルスと仲が悪いけど…あんな風に本気で怒った姿を見たのは初めてのことで、俺は今後の先行きに不安を覚えてため息をつくしかなかった。











「嘘……じゃあ、本当にこの女の子がレミリオな訳!?」 




 疲労感たっぷりの朝を過ぎて、俺はあれからまずオレインさんに助けを求めることにした。




 何故なら彼女は大人の女性…しかも意外と猜疑心の強いリリエルとは違い、警戒心よりも好奇心が先に立つ性格の魔女だから俺を見てもそう警戒はしないだろうと読んだ結果。

 






 確かに好奇心たっぷりの笑顔を浮かべると、女の子姿の上に白い翼まで生えた俺をあっさり受け入れ、今度は俺に着せる為の下着やら洋服やらをクローバ経由で沢山取り寄せ、俺が夢で見た通りの着せ替え人形にし始める。




「これが一番、貴方の…いえ、貴女の魅力を最大限に引き出してくれるわね!素敵よ、レミリオ君…じゃないレミリオちゃん!」そう言ってオレインさんがうっとりと見つめる先には、異界で言う所の薄桃色な甘めのゴスロリ衣装?とやらで身を固めた俺がいた。




 

 髪型にまでこだわるオレインさんに妥協はなく、俺は彼女も愛用している極上の櫛で髪をすいてもらい、桃色のストレートヘアに白のリボンで着飾って貰ってまるでお人形の様な可憐さを演出されたのだった。

 








 


 その後、朝食を取る為にオレインさんと共に宿の共同の食堂へ足を運べば…俺達の他にも宿泊していた貴族やら冒険者達など、とにかく俺に向けられる好奇の視線が物凄くて恐縮する羽目に。





 そりゃ朝からこんな格好した女の子は珍しいに決まってるよな…







 食堂へ一同に介した仲間達に事情を話すと、仲間達は一様に思い思いの反応を見せる。






 中でも一番に驚きを示したリリエルは俺の大きな胸に目を向けて何だか悔しそうな顔をしたから、やっぱりオレインさんに頼って正解だったと改めて思った。




 

 フレア様は相変わらず読めないふわふわな笑顔を浮かべ、キグルスは変わらずうっとりとした眼差しで俺を見つめ、ヴェルグはやっぱり不機嫌そうに俺からキグルスを遠ざけたがって、オレインさんは嬉しそうに完成した俺の着せ替え姿を眺めていた。







「それにしても驚いちゃったね!僕とお揃いの白い翼が生えてるよ?ちょっと小さめの翼で可愛い」

「あのねぇフレア?喜んでる場合じゃないの、由々しき事態って奴なのよ今は!!」

「そうかな?理由は分からないけどレミリオちゃんが天使の器なら、きっと天使特有の魔法も使えるし。良いことだらけだと僕は思うよ?例えば…そうだね、ちょっと街から離れようか?ここだと人の目があるから」





 バイキング形式の豪華な朝食を堪能した俺達一行は予定より早めにチェックアウトし、俺のことも含めて今後どうすべきか皆で話し合うことにした。





 中でも俺の背中に生えた翼を見たフレア様は、仲間が増えたとばかりに手を叩いて喜んで下さったけれど…俺は喜ぶべきか悲しむべきか、実に曖昧な表情で応えるしかなかった。







 天使特有の魔法を教えて貰うべく、街から少し離れた丘へ足を運んだ俺達は、フレア様の魔法による特殊な得物を披露して貰うことに。












「遥かなる異界の叡智よ!天使の祈りに応え、今ここに顕現せよ!魔槍ゲイボルグ召喚!!」





 フレア様の身の丈以上に馬鹿デカイ大きな槍が、一瞬にして彼の手の中に現れ、俺達はその特殊な魔法から呼び出された得物に目を奪われた。


 


 ふわふわな笑顔で俺達の前に立つフレア様に、実に似つかわしくない禍々しさを放つその大きな槍は、何でも貫く破壊力を秘めた異界の魔槍なのだそうな。






 異界の神話から産み出された次元の異なる破壊力…軽々と「ゲイボルグ」と名の付く魔槍を扱うフレア様を、俺は尊敬すると同時に畏怖した。






「こんな感じかな?レミリオちゃんも、僕と同じことが出来る筈。さぁどうぞ、やってみて」

「さぁどうぞ、って無理ですよ!?無理、絶対無理!!」

「大丈夫だよ。君にその資格があれば、自然と召喚できる武器のイメージが浮かび上がる筈。呼べる武器は天使によって違うからね?レミリオちゃんならきっと出来るよ」




 じっと皆の期待による視線が集まる中で、俺は逃げ場を失い後ずさる。


 



 だけど…もしも皆の望む様な武器を呼び出せなかったら?





 そう思うと怖くて一歩踏み出せずにいた俺を、すかさず見抜いたのはやっぱりヴェルグで、挑戦することを怖がる俺の背中に手を回すと励ます様に声をかけてくれた。







「俺にできるかな?な、何も出てこないってことも…」

「しっかりしろ!お前は勇者だ、ロベリオの汚名返上するのだろう?それに肝心のロベリオが使い物にならぬとなれば、新しい武器は必要だ」

「はっ!?そうだった、ロベリオと言えばどうしてる?」




 今、この場にいない仲間達はキグルスとオレインさん、それからロベリオの二人と一振りの剣。





 俺は女の子の姿でもロベリオを扱えるのか、物は試しでロベリオを両手で持ってみた…ら、男の姿の時にはあんなに軽々と扱えたロベリオが急に重みを増して、どう考えても女の子の時には扱えない剣に成り果てていたから頭を抱えた。





 しかもロベリオは俺がレミリオ本人だと知った途端、胸の谷間へ入ろうとセクハラしてヴェルグに取り押さえられると言うべき愚行を既に犯し、故に二人が代表して奴を隔離してくれた訳だ…






 どこかの古小屋で柱にくくりつけられたロベリオは身動きできないのが腹立たしいのか、しばらく怒鳴り声を上げて唸っていたらしい。









 何と言うか…実に欲望に忠実な男だな、ロベリオ。









「ふがー!むごー!?」

「すまないロベリオ君…君がいると可憐な桃色の君、レミリオ君が集中できないからこうさせて貰ったよ。騎士として、麗しき乙女に対するセクハラは見逃せないからね」

「うがー!ぎょー!!」

「あらあら、あんまりおいたが過ぎると石化させるわよ?うふふ…喋れなくなってもいいの?ねぇロベリオさん」




 そこで怪しく光るオレインさんの石化の瞳に、さすがのロベリオもビビったのか押し黙る。




 あの問題児のロベリオですら黙らせるとか、オレインさんに敵無しだな!






 そして空気を読まないことにかけては右に出る者はいない強者のキグルスが傍にいることで、ロベリオの逃げ場は完全に塞がれたと考えて間違いない。






 俺は若干失礼なことを考えつつも、今この場にいない二人の仲間に対する感謝の念を胸に抱いた。







「キグルスとオレインさんの有無を言わせぬ強烈タッグか……ある意味、最強だな?石化されてないといいけど」




 そう言えば今更だけど、剣って石化出来るのか?例えば元々石で出来た剣とかの場合はどうなるんだ?なんて、この際どうでもいいことは頭の隅に置くことにして。

 




 俺の独り言にヴェルグは何やら思い出したのか、腹立たし気に両腕を組むと、深いため息をついて目を閉じた。





 どうやらロベリオに対して色々と思う所がある様だ。







「ロベリオはお前にセクハラし放題だと抜かしたからな、仕方なかろう?全く、竜の男があんな俗物とは思わなかったぞ。俺もまだまだ見る目がないと言うことか」

「ヴェルグ……お前って、本当の本当にロベリオの親友なんだよね?何かロベリオに対して風当たり強くない?」

「言うな。今の奴は単なるエロい剣でしかない、俺はお前の貞操を守る為に非情になる。特に今のお前はひ弱な乙女だからな…何かあったら俺は俺自身を許せん」




 ロベリオと俺のどちらを取るかと問われれば?今のヴェルグは間違いなく俺を取るだろう、何せ俺をか弱い乙女扱いするほど庇護欲に満ちているのだから。




 何だかムズムズする様な不思議な優越感を覚えながら、俺は皆から注がれる期待の眼差しに応えるべく覚悟を決める。


 




 これでもしも何も出せなかったら…とりあえず笑い飛ばしてその場を凌ごう、俺はようやく重い口を開くとフレア様から教えて貰った天空人の扱う特殊魔法を恐る恐る紡いだ。


 







「…遥かなる異界の叡智よ!天使の祈りに応え、今ここに顕現せよ!勝利の剣カリバーン召喚!!」




 天使の喚べる武器はそれぞれ違うとフレア様が仰っていた通り、確かに俺の脳裏にもふっと名前が浮かんで、俺はそのまま浮かんだ名前を口にする。




 すると俺の手の中には光輝く美しい剣、勝利を司る伝説の剣カリバーンが顕現したから、驚きと共に俺は喜びで胸が一杯になった。







 異界の神話から産み出された剣は、この異世界エルファレーデでは俺しか扱えない専用の剣。






 俺は思わずはしゃぐフレア様と一緒になってはしゃぐと、今度は傍で見ていたヴェルグやリリエルに剣を見せて喜びをそのまま笑顔で表した。








「わぁ…やったね!おめでとうレミリオちゃん。とっても綺麗な剣だね、今の君にぴったりだよ」

「あ、ありがとうフレア様…やった、俺にも出せた!なぁヴェルグ、ちゃんと見てた?」

「あぁ見ていた、よくやったな。偉いぞ」

「えへへ…誉められちゃった!嬉しいな」




 よしよしと頭を撫でられて喜ぶなんてまるで子供だけど、その時の俺はあまりにも嬉しかったからヴェルグの子供扱いも気にならなかった。




 だけど剣を手にはしゃぐ俺を見つめながら、リリエルが複雑そうな顔をしていたことに俺は気付かず、ちょっと無神経だったかと思う。




 

 何故ならリリエルは何よりも胸が無いことを気にしているから、自然と俺の揺れてしまう巨乳に複雑そうな顔をしても仕方ない話だ。







 しかも恋したロベリオは巨乳好きとか…ロードオブマリアも、その辺を考慮してリリエルを創るべきだったのでは、と思わず考えたが余計なお世話か。







 だって今のリリエルには、たとえ胸なんて無くても傍にいてくれるフレア様がいるから。







「ねぇフレア、アタシとレミリオどっちが可愛い?」

「リリエルちゃんに決まってるよ?僕の永遠の一番」

「ありがとう、ちょっと自信回復したわ!そうよね?胸なんて無くたって女はハートで勝負よ!負けないんだから」

「何に張り合ってるの?リリエルちゃん…気合いが怖い」




 俺に妙な対抗心を抱くリリエルを若干引きつつも、フレア様は見捨てることなく見守る。


 



 俺の手にした剣は使うべき時でないせいか、自然と手の中から光の粒となって消えて行き、俺はその様子を名残惜しげに見送るとほっと安堵のため息をつく。




 

 だけど同時に自分がもはや普通の村人どころか、普通の人間でもないことの証明をした様で、今更だけど不安を覚えて俺は俯く。





 俺の抱えるそんな不安を感じ取ったのか、フレア様はことさら明るく俺を励ますみたいに声をかけてくれたから何だか泣きそうになった。







「これで証明されたね。レミリオちゃんは恐らく人間と天使の…ん?何かが物凄い勢いで向かって来てるみたい」

「ロベリオ義兄様…空気読んでよね、全くもう!」

「もう拘束を解いたのか、さすが腐っても元は竜人族の勇者…いや、今のロベリオは単なるセクハラまがいのエロい剣か」

「いやーヴェルグ、やめて!アタシの千年の恋が本当に終わっちゃうでしょ!?」




 そこで泣き叫ぶリリエルを無視して俺を背に隠したヴェルグは、物凄い速さで飛んで来るロベリオを迎えるべく魔剣を構える。




 魔剣を一応の親友に向けるとか…どう見ても敵扱いで酷いなと思ったけれど、庇われるのも悪くないなと俺はちょっとロベリオに対して酷いことを考えた。





 俺が女の子になってから、ヴェルグは以前にも増してしきりに俺を守りたがるから…守られる女の子の気持ちって物を肌で感じて、何だか嬉しい様な恥ずかしい様な不思議な感動を俺は覚えた。






 もしや、エルトリア家のメイド達もヴェルグに対していつもこんなむず痒い気持ちを感じていたのかな?









「おい、レミリオ!テメー俺様を拘束するとか許さね、おぐっ!?」




 ヴェルグの背に隠れた俺を素早く見つけると、ロベリオはまたセクハラすべく飛び掛かって来たから俺は思わず女の子みたいに悲鳴を上げる。

 




 だけど今度はさせるまいと身構えていたヴェルグは、魔剣を薙ぎ払うと風圧でロベリオを遠くへ吹き飛ばし、戻ってきた所で蹴り飛ばした上に足蹴にして動けない様に拘束した。






「ロベリオ、今は遠慮してくれないか?親友のよしみで」

「ヴェルグ…テメーな!親友のくせに俺様の扱いが酷くねぇか?テメーは親友を蹴り飛ばした挙げ句、足蹴にすんのかよ!?」

「やむを得なき場合は。折って捨ててもいいと思っているが何か?」

「きっ、鬼畜!?やめて捨てないで折らないでえぇ!!」




 発言が本気だと分かるほどその時のヴェルグは怖かったらしく、ロベリオはぶるぶる震えながらリリエルの後ろに隠れた。




 堪忍袋の緒が切れそうなヴェルグに対して、リリエルの足下から姿を覗かせるとロベリオはぶつぶつ文句を言い出す。





「せっかくの獲物なのに手を出さないとかお前は馬鹿か、むしろ男なら襲って当然だろ!?」みたいなロベリオの言い分に、真面目なヴェルグはますます苛立ち顔を赤くしたのは言うまでもない。






「何だよ、別にいいじゃねぇか!俺様がコイツにセクハラしたってよー…リリエルにねぇもんがコイツにはある、よってセクハラする!以上」

「何が以上、だ!ふざけるな、俺が保護者として許さん」

「おいおい、ヴェルグよぉ?テメーは分かんねぇのか?おっぱいポロリのありがたみを!男のロマン、ここに極まれり」

「分かるか馬鹿者!!破廉恥な発言はよせ、それでも元は勇者かロベリオ……俺は段々、お前が信じられなくなって来たぞ」




 ロベリオとヴェルグの言い合いを聞きながら、俺は何だかおかしい今の自分に首を傾げた。





 女の子の気持ちを感じてみたり、ヴェルグに守られて嬉しいと思ったり、これではまるで…恋する乙女?






 いやいや、まさか!だって勇者になる今の今まで、俺はヴェルグの使用人だった訳で…しかも男同士の生活を三年間も一緒に続けていた仲であって、妙な気持ちなんて生まれる筈も無い。





 だけど…昨晩の俺は酔ってどうかしていたから、優しくされたことで恋にも似た感情を抱いたとしてもおかしくはない。







 

 多分?そうじゃないかなとは思うけれど、本当の所は俺にもよく分からない。






 だけどフレア様はリリエルに恋したことで成長したし、天使の要素を持つらしい今の俺にも適用されるのではないか?







 そう考えると凄く告げるのが恥ずかしかったけど、俺は顔を赤くしながら今考えた予想を口にすることにした。







「あ、あのさ?ヴェルグ……どうしよう俺、とんでもないことに気付いちゃった」




 今更だけどヴェルグにどう伝えれば?もしも気持ち悪がられたり、避けられたりしたらどうしよう。

 




 そこで避けられない筈の悲惨な未来予測が、俺の口をひたすら重くさせる。

 




 いっそのこと何も言わず胸に秘めた方が…一瞬、そう考えた俺は弱気になる自分を振り払う様に、心配そうに俺を見守る皆の顔を視線を移しながら見つめて話し始めた。






「どうした?顔が青くなったり赤くなったり器用だな…」

「だ、だって……俺の初恋、てっきりクレア様だとばかり思っていたのに」

「違うのか?あれだけ泣いて荒れたくせに…じゃあ本当は誰なんだ?」

「聞いても引かない?約束してくれるなら言う」




 ロベリオを取り逃がしたキグルスとオレインさんも、ようやく追い付いて来た所で俺は覚悟を決める。


 


 皆は俺が何を言うのかと不安げにしながら、一方で好奇心が勝るのかワクワクもしている様子だった。




 

 そりゃ男から女になっただけでも充分面白いのに、それ以上に何か面白いことでも言うのかと思えば期待もするわな…残念ながら、皆の期待する様なことは言わないと思うけれど。







「俺の初恋、は……多分、お前。ヴェルグ、お前のことを好きって思った気持ちが初恋なんだと思う。だから成長期って言うか変体したんだ、きっと。それ以外に理由が思い付かないもん…クレア様が初恋なら、もっと前にこうなってる筈」




 自然と赤くなる顔を隠すことも出来ずに、俺は上目遣いでヴェルグの反応を恐れながら何とか告げた。




 クレア様に対する気持ちは憧れと言うか、優しい感情が胸を占めるけど…何故だか女の子になった途端、ヴェルグに対しての感情は不思議な高揚感と共に妙な恥ずかしさや照れが伴うから困る。

 

 



 だからきっと、多分?これが俺の初恋なのかも。





 告げられたヴェルグはと言えば…しばらく固まって沈黙し、それから見たことが無いくらい真っ赤になって口元を隠したから、俺はちょっとだけしてやったりな気分になる。






 だけどそれ以上にリリエルや他の皆は俺の告白に驚いたのか、大声で騒ぎ始めたから俺はこれをどうしようかと視線をさまよわせた。







「う、え、えええぇぇ!?ちょっと嘘でしょ、本当なのレミリオ!?じゃあアタシ、ヴェルグに負けた訳!?」

「な、何と言うことだ!この麗しい白騎士の私を差し置いて童貞のヴェルグ君に可憐な桃色の君が恋を!?」

「う~ん…キグルスちゃん、残念ながら童貞じゃないと思うな。ヴェルグちゃん、ちゃんと経験者だよ。まぁ誰といつやったのかは、さすがの僕にも分からないけど」

「あらあら、ふわふわ天使の貴方からそんな生々しい言葉は聞きたくないわねぇフレアさん?イメージって大事よ」




 所在なさげに俯く俺に気付いたのか、皆は少し落ち着きを取り戻すと思い思いに頭を悩ませた。




 当のヴェルグ本人は俺と視線を合わせると、何だか困った様な照れている様な複雑そうな表情を浮かべる。





 これは拒否られているのか、それとも受け入れられているのか?実に分かりにくい微妙な反応をするから俺はますますどうして良いのか分からなくなる。





 嫌なら嫌とはっきり意思表示してくれれば、こっちも悩まなくて済むのに…俺はどうせ傷付くなら早い内にと考え、早口で言葉を付け加えた。








「ごめん、気持ち悪いよな?だけど、好きって言っても家族に対する気持ちが高じただけで…昨夜は酔ってたしね?ただの勘違いかもしれない…だから気にしないでいい」




 勘違いとは実に便利な言葉だと思う。




 だって口にした言葉自体を無かったことに出来るのだから。






 俺の付け加えた言葉を聞いた皆は、やっぱりここでも思い思いの反応で俺を見る。





 だけど俺が付け加えた言葉を聞いたヴェルグは納得出来ないのか、怒った顔で急に俺の手を引いてどこかへ歩き出したから、俺は迫力に圧倒されてそのまま引きずられてしまった。






「家族愛…そうなのかい!?ならば私にもまだチャンスはあるね!」

「あら、キグルスさん…貴方はリリエルちゃんが好きだったのではなくて?」

「恋とは突然、やって来る物!リリエル君に対する想いもレミリオ君に対する想いも、どちらも私の真実さ!」

「あはは、単に気が多いだけの話だよね?リリエルちゃんもそう思わない?僕はずっと君だけに一途だから安心してね」




 ちなみに俺とヴェルグがその場からいなくなっても、皆は気付かずに「あーでもない、こーでもない」と妙な議論をひたすら繰り広げていたらしい。





 俺の存在って一体、何?気付いてよ皆…何だかヴェルグが怒ってるみたいで怖いし!誰か助けて。





 だけど当然、俺のそんな心の叫びを聞き届けてくれる優しい仲間なんている訳もなく。






 丘の上から更に人気の無い森の中に連れ込まれてこれから一体どうなるのかと、俺の手を引いて前を歩くヴェルグの背中を見つめて恐れるしかなかった。









「あ、の……ヴェルグ?」

「お前がそう望むなら」

「な、何?どうし、ん」


 


 昼間でも少し薄暗い魔界の森は、大気中にエメルが多くあるせいで、清浄な空気と爽やかな風が吹き抜ける精霊の好む絶好の場所。




 俺もたまに仕事をサボってはエルトリア家の近くにある小さな森で、昼寝したり魔物達と戯れたり思い思いに過ごした思い出の場所と言える。






 ふと過去に思いを馳せていた俺は、急に立ち止まったヴェルグの背中にそのまま顔を埋めると、そこで振り返ったヴェルグに両肩を掴まれて思わずびくりと身体が跳ねる。




 くいっと顎を持ち上げられて、背中を木に押し付けられたかと思えば…え、嘘?何で顔がこんな近くに!?怒濤の展開でまだ考えもまとまらない内に、俺の唇はヴェルグのそれで塞がれてしまった。


 








 だけどまさかそんな場所で真面目なヴェルグからキスされるとは思いもよらず…俺は混乱して涙目になりながら、続けられる戯れに酷く狼狽えた。





 唇って柔らかいんだなとか、舌を吸われるとか舐められるとか初めてだなとか…抵抗もせずにされるがままの俺は、酸欠のせいなのか頭がふわふわして何も考えられなくなる。





 女嫌いって言っていたくせに!何だよこれ…初めての俺ですら分かるほど、ヴェルグが手慣れていたことに妙な腹立たしさを覚えた俺は、そこでようやく唇を離すと正気に戻った。






「んん…っ!?ふぁ、や、ちょっと…」

「初めてか?」

「あ、当たり前だろ!?ヴェルグ、お前がこんなことするなんて何の冗談だよ!俺は村に帰らなきゃならないんだぞ?だってもう、勇者にはなれないから…それなのにこんなのって酷い、帰りたくなくなるだろ!馬鹿、何でキスなんて」




 改めてされたことの重大さに気付いた俺は、怒りよりも悲しみの方が先に立って泣き出してしまう。




 だって勇者になれず村人に戻るしかない今の俺が好きだと思った所で、魔界貴族のヴェルグは高嶺の花でしかない。




 たとえ執事かメイドで傍にいられたとして…それで何になる?他のメイド達と同じ様に遠くから見つめることしかできないなんて、そんなのは絶対に嫌だ。





  




 ヴェルグが俺以外の誰かを好きになる…それは想像以上に俺の胸を締め付けたから、俺はようやくこの気持ちが恋なのだとはっきり自覚した。





 だけど泣きじゃくる俺を抱きしめたヴェルグは、愛しさを込めた瞳で俺を見つめると優しくて残酷な言葉を投げ掛けてきたから、驚きと共に嬉しさと切なさで胸が一杯になって俺はますます泣いてしまった。







「俺にお前を守らせてくれレミリオ…どこにも行くな」

「ヴェルグ…俺、ずっとこのままかもしれないんだぞ?勇者としては役立たないかも。魔王様の意思に背く形になる、お前は魔王様の側近だろ?お前まで悪く言われるのは嫌だ」

「その時はその時だ。俺はお前と離れたくない、もう今更お前のいない生活にどうして戻れようか?」

「そ、んな…どうして俺にこんな優しくしてくれるんだよ?俺は元の村人Aに、戻るしかないのに!」




 最初からこうなることが分かっていたら、ヴェルグと一緒に生活なんてしたくなかったのに。




 一緒にいることが当たり前になり過ぎて、だからこそ今生の別れは辛いなんて酷すぎる。





 ぽろぽろ途切れない涙を落とす俺を見かねたのか、ヴェルグはもう一度抱きしめると背中を優しくさすってくれる。


 



 その優しさにまた泣けてきた俺がヴェルグの胸の中で泣き続けると、ヴェルグは俺の頭を撫でながら先程の俺の問い掛けに答えてくれた。







「好きだからだ、お前が」

「う、え、マジですか?」

「マジだ。自分でも驚くほどお前が好きだレミリオ」

「悪い冗談って言っても怒らないよ?なぁヴェルグ」




 涙も引っ込むほど驚いた俺が思わずヴェルグの顔を見上げると、ヴェルグは真っ赤な顔で俺を見つめてはにかんだ。




 本気なのだと伝えたいのかヴェルグの視線は真っ直ぐで、俺は目をそらすことも出来ずに見つめ返す。





 三年前は単に怖いだけだったヴェルグの深紅の瞳は、今はとても綺麗に思えてしまうのだから我ながら単純だなと可笑しくなる。




 

 だけど本当にそれで良いのか?たとえ俺は良くてもヴェルグの今後に悪影響は無いだろうか。






 見えない未来への不安から、俺はヴェルグからの愛の告白に返事できずに俯く。







「お前は俺が初恋だと言ったな?」

「そ、それは…言ったけど、でも」

「理由はともかくお前は女になった、なら何も問題ない」

「そ、そう、なのか?でも俺達、ずっと男同士で生活を」




 様々な過去の出来事や未来への不安から、返事できずにいる俺をヴェルグは何も問題ないとばかりに畳み掛ける。





 続けられる説得に俺は段々と、今の姿のままでも勇者になる方法はないのだろうかと、贅沢な夢を思い描く様になるから我ながら諦めが悪いと思う。





 魔王様に認めて貰うことが出来れば或いは…そんな夢みたいなことを考えて、だけどヴェルグにここまで言わせておいて村人に戻るのも違う気がしたから、俺はとりあえず未来を前向きに考えることにした。








「お前は俺が嫌いか?」

「嫌いじゃないけど、でも…」

「もしも男に戻ったらどうすればいいか分からない?」

「う、うん……キグルスに散々、変態扱いされてたから嫌かなって、思って」




 最終確認と言うか、一番の難題と言うか…ヴェルグにとって鬼門とも言えるあの白騎士にどう対応するのか?




 俺はヴェルグの覚悟を問う代わりに、自らの気持ちを再確認するべくヴェルグの顔を正面から見つめて、やっぱり好きだと改めて思うと恥ずかしくてたまらなくなる。






 もうこの時点で俺はヴェルグの覚悟に負けている訳で…本当は泣きたいほど嬉しかったのだから、断れる筈もなかった。






「俺は男のお前に思慕は抱いていないが、大切だとは思っていた。だが、女のお前は可憐な乙女で女嫌いの俺でも抱きたいと思う…どうだ?これでもまだ不安か?」

「自分の貞操が不安」

「それでいい。余計な感情論は気にしないことだ…所で、出来ればそろそろ先程の返事をして欲しいのだが?」




 ヴェルグはやや不安げにチラチラと俺を見つめては、早く返事をして欲しいと子供みたいにねだる。




 普段は威厳のある当主を装っているくせに、俺にだけ見せてくれる顔が好きだと秘かに思いながら、俺は抱きしめて耳元に「俺も好きだよ」と囁くことで告白の返事をした。



 




 元村人の俺と魔界貴族のヴェルグ…どう考えても釣り合わない不思議な関係。






 だけどその時の俺はヴェルグが望んでくれる限り、傍にいたいと優しいキスと抱擁を受けながら強く思った。













「ねぇヴェルグちゃん、これからどこへ行くの?」

「まずは境界から程近い、オーロラの街フレスベルグに向かおうと思っていたのですが……レミリオがこれでは」

「そうだね…とりあえず魔王ちゃんに説明しないとね?」

「ま、魔王ちゃん…フレア様が言うと不思議と許せますね」





 街近くの丘の上から今度は俺達一行の第二の故郷、そして人間界の勇者にとってのラストダンジョン?魔王城へ俺達は足を向けることに。

 




 本当は人間界の最果てと呼ばれ、境界から出て程近いオーロラが美しいと評判で、しかも千年前のロベリオの足跡も辿れるフレスベルグと言う凍える寒さの街へ向かうつもりだったらしい。



 



 だけど…まずは魔王様が今の俺の処遇をどうなされるのか、どんな判断を下されるのかが運命の分かれ道だ。






 それが一番の難題であり、また今後も旅を続けるなら絶対に避けて通れない試練でもある。



 




 何故なら四世界の代表として選ばれるパーティーには、必ず勇者が一人はいないといけないと言う絶対条件があるからだ。





 勇者査定は最終的にどれだけ貢献度を稼げたか、どれだけ世界の為になることをしたかが考察の鍵になる。

 




 貢献度とは簡単に言ってしまえば「困った奴を助けたり、事件を解決する」ことであり、それを稼ぐ為の専門家と言うべき勇者補佐役の妖精までパーティーに一人、勇者査定を行う本部から派遣されている。







 俺達の所へ派遣された妖精は「ルルイ」と言う元気で明るいイケメン大好きっ娘だ。





 禁忌とされるパーティー内恋愛を犯してしまった俺とヴェルグのことも、本部には内緒にしてくれるらしい…今の女の子である俺はどうでも良いが、ヴェルグが悲しむのは困るからだとか。






 イケメンマニアのルルイからすれば、魔界代表パーティー内で一番のイケメンはキグルスなんだとか…「銀髪と黄金の瞳、優雅で洗練された仕草が王子様みたいでたまらない!」が理由らしい。

 





 まぁ…あの性格とその他諸々はともかく出来る奴ではある、忘れがちだが領主としての腕は確かなのだ。






「キグルス様って本当に残念なイケメン、略して残メンですよね~キャハッ!もったいない」と悪気の無いルルイに言われてちょっと、いや、かなり傷付いていたのは記憶に新しい。









「確かオーロラって、ふわふわゆらゆらするカーテンみたいな現象だよね?天空界の虹みたいな物かな?」

「天空界の虹とはそのような物なのですか?それはきっと、とても美しいでしょうね」

「うん、綺麗だよ…綺麗な物は好き。リリエルちゃんも、とっても綺麗」




 魔王城への道すがら、まだ魔王城へは行ったことが無いフレア様は今後も旅を続けられること前提で会話を広げては、フレスベルグの街から見えると言われているオーロラに興味津々のご様子。





 ご自身の故郷である天空界の虹から始まり、美しさにリリエルの名前を持ち出す辺り、かなり恋には積極的で少し驚いてしまう。





 ふわふわとした優しい見た目と空気感に加え、滅多に怒ることもなくのんびりとした性格ではあるけれど…やっぱりフレア様もちゃんとした男であるのだとリリエルには伝えたいのかも。





 


「うう…傷心のアタシ、フレアの直球な言葉が胸に迫るわ」

「胸はほぼねぇけどな?ぎゃはは…ぐふっ!?痛てぇな!斧で殴るなよ!刃こぼれしたらどうすんだ」

「ロベリオ義兄様?もうその突っ込みはやめて!自分が一番、分かってるから!どうせレミリオより小さいわよ!」

「悪かったよ……頼むからマジ泣きするのは勘弁してくれ」




 斧で殴られる元婚約者で義兄のロベリオに、泣きながら小さい胸を隠す義妹で怪力メイドのリリエル。





 両者共に濃い人間性を持つ竜の義兄妹は、それぞれに千年前とは立場を変えながらも仲の良さを窺わせる。






 俺はようやく一つのパーティーとしての形が出来た魔界代表パーティーの今後を思いながら、ロベリオとリリエルのやり取りに思わず笑っている皆に視線を向けた。









 最初からパーティー入りしているメンバーにヴェルグ、魔王様の側近にして魔界最強の黒騎士と呼ばれる堅物だ。




 勇者である俺の盾であり、同時にエルトリアの屋敷においては執事になる俺の御主人様。




 

 女嫌いの世話焼き、花と紅茶が好きな魔界貴族だ。







 次はリリエル、千年前の人間界パーティーのメンバーでロベリオの義妹でありながら婚約者と言う近親婚が認められた竜人族の最後の女の子だ。




 彼女は怪力無双の美少女メイドで、容赦なく戦斧を振り回す過激で物怖じしない明るさが魅力だな。





 貧乳を非常に気にしているので胸のことは禁句だ。







 続いてパーティー入りしたのは、俺が勧誘した元隠者で魔法アイテムショップの麗しき女主人、オレインさん。





 呪いに長けたメデューサの母親と黒い翼が特徴である地底人の父親の間の子である彼女は、博識で魔法使いとしての能力も高い絶世の美女だ。





 女嫌いのヴェルグですら彼女には一目置いて、時にはその知識と判断力を頼りにしている。




 

 

 次にパーティー入りしたのは、ヴェルグの永遠の好敵手と言い張る元黒騎士で今は白騎士のキグルス。





 元々が聖剣使いであるのだから、本来は白騎士を選択する方が間違いないのだが…ヴェルグへの対抗心で黒騎士の道を学生時代から選択してしまったらしい。





 故に本来の輝きを放つことが出来なかったのだよ、とは本人談。





 まぁ色々と面白い奴であるが、領主としては優秀でグランドール家が抱える全てにおいては完璧な魔界貴族なのである。





 女好きでナンパも大好き、この世の女性全ては愛でるべき尊い存在だと言い切ってしまう辺り…魔王様と似た部分があるな、キグルスは。


 



 うーむ…実に女嫌いで馬鹿真面目なヴェルグとは真逆の性格だなぁ。







 最後にフレア様、大天使の称号を持つ天才で千年前の人間界の勇者ロベリオに続く天空界の勇者だ。





 そうだ…フレア様はロベリオと旅したクレア様の双子の兄でもある、よって第一印象はクレア様そっくりで驚かされたな。





 ふわふわした優し気な見た目と性格に反した毒舌も、彼の魅力と言えようか?千年前の地底界の勇者レオルドの為に大罪人になった経緯も、彼の一途な性格を如実に表している。





 リリエルに恋する辺り…ちょっと趣味が面白いと言わざるを得ないが、それはまぁ人それぞれだからな。









 改めて見てみると…俺達のパーティーって濃くね?

 






 一人一人が濃すぎるよね!お陰様で勇者って立場の俺の存在感が、全く生かされてない気がするんですけど!?








 こんな感じですけど…まぁ皆、これからも宜しく。









 俺が魔王様に認められなきゃ先が無いんだけどね…











見た目と中身が違う、女の子勇者で中身が男の子と言うことは逆もまた然りですね。その辺はまだまだ先ですが、次の人間界編で見られると思います。ヴェルグとは意外と簡単にくっついた様に見えますが、レミリオを心配するあまりのスピード告白です。一応、軽薄な訳では無いですよ(笑)


こんな切羽詰まった状況でもなければ、もだもだと何も言えずに終わるタイプですねヴェルグは。

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