9・千里眼
「愛鷹、ちょっと来て」
翌週、帰って来た慎太郎に誘われて愛鷹は山に入った。
しばらく登ると開けた場所があって、そこには炭焼き小屋があった。
「死んだ父さんは猟をしていたけれど、炭も作っていたんだ。
父さんの炭はごく普通のだったけれど、あの山のふもとの木なら
いい炭ができるんだ。
愛鷹なら飛んで取ってこれる。作ってみないか?」
慎太郎は向こうの山を指さした。
「作った方がいいか?」
「みんなが喜ぶよ」
「わかった。やってみる」
慎太郎は父の遺した炭づくりのコツを書いたノートを渡した。
少しずつ炭が出来上がっていった。
「最初にしては上出来」と春に褒められて、炭作りが楽しくなった。
*
4月になって、志乃たちは進級した。 山の中にはまだ桜は咲かない。
その週末、慎太郎も源太も帰ってこなかった。
「兄ちゃん、忙しいのかなぁ。何してるんだろう?」
縁側で、人形を抱きながら志乃がつぶやいた。
慎太郎からはたまに手紙は来るが、どこで何をしているとは書いていないので
志乃は心配でたまらなかった。
「俺、見てみようか?」
「え?」
「慎太郎がどこにいるか、見てみる」
屋根より高く飛ぶと、あたりをぐるっと見渡して、
慎太郎の姿を探した。
*
慎太郎は鹿児島にいた。 知覧。 武家屋敷のある街。
整備らしき人間と飛行機の調子を見ている。
飛行機に番号があって、それが慎太郎の飛行機らしかった。
「慎太郎がいた。ここからずっと南にいる」
「遠くて来れないのかな? お守り人形作ったから
兄ちゃんにあげたかったのに」
「俺が届けようか?」
「ほんと?」
「遠いから時間がかかりそうだけど、いいか?」
「うん、うん、お願い」
*
「慎太郎に会いに行くって?それなら着て行くといいよ」
春はいつかもらった反物で縫った着物を愛鷹に着せてくれた。
愛鷹は人形を受け取り、お弁当を作ってもらって村を飛び立った。
*
何かがおかしい。そう思ったのは飛び立ってしばらくした頃だった。
眼下に見える大きな町が、焼け野原のようになっていた。
ひとつふたつではない。たくさんの街が焼かれていて
たまに焦げ臭い匂いもした。
「俺が思っていたよりも、おおごとな戦になってるな」
海を越え、たまに慎太郎の姿を確認して飛び続けた。
*
知覧に着いた頃、夜が明けた。
仮にも軍の基地だから、簡単には入れてくれないだろう。
バサバサという音に、「なんだ、でっかい鳥か」と基地の警備が油断した。
そのスキに中に入ると、掩体壕の中に飛行機が見えた。
慎太郎の飛行機を探して潜り込もうと思ったが、操縦席は狭くてすぐばれる。
追い出されてしまうかも知れない。
朝を待って、追いかけることにした。
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