5・戦世
昼が過ぎた頃、荷物を持った軍服姿の慎太郎の友達がやって来た。
服の袖に錨のマークの階級章が付いている。
縁側で鹿の干し肉を作っていた愛鷹と志乃に声をかけた。
「よっ。志乃ちゃん」
「源ちゃんこんにちはー」
「おお。噂の烏天狗の愛鷹か。俺は源太。河童の末裔だよ。よろしくな。」
源太がそう言って見せた指の間には、河童の水かきが小さく残っていた。
玄関から縁側に回ってきた慎太郎も軍服だった。
帽子には源太と違う星のマークが付いていて
襟元に星が2つ──伍長の階級章だ。
「源ちゃん、お待たせ。じゃあ、母さん行ってくるよ。また来週帰るから。
志乃もいい子にしてろよ。お土産は何がいい?」と、声をかけた。
「…羊羹」志乃はつまらなそうに返事した。
「よし、わかった。約束だ。愛鷹も留守番を頼むよ」
「ああ」
「はい、おはぎよ。源ちゃんの分。汽車で食べて」春が渡した包みを見て、
「うあー。おはぎ。おばちゃんありがとー」と
源太は大喜びで受け取った
手を振って村を出て行く慎太郎と源太を、春をはじめ村の人も見送っている。
ふたりは週末になると街から帰ってきた。
金曜の夕方に街を出て、土曜の早朝に帰ってきて、
日曜の昼に戻っていくのだった。
*
「ふたりは戦へ行くのか?」
「まだだけど、兵隊さんだからそのうちに行くかも。
兄ちゃんは空を飛ぶんだって言って、陸軍の航空隊。
源ちゃんは泳ぎが得意だから海軍さんで、船に乗ってる」
志乃が少し寂しそうな顔をしてうつむいた。
「そっか。早く終わるといいな。」
「そゆこと言っちゃダメなんだって」
「なんで?」
「知らないけど、学校の先生が言ってた」
「ああ、志乃はふもとの学校へ行ってるんだっけ」
「でも本当はあたしも思ってるよ。早く終わるといい」
*
その日、春は隣村に病人が出て、泊りで出かけていった。
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