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6・看病

愛鷹あしたかの傷はたまに痛んだが、そのたびに春が手を当てて

痛みを取ってくれていた。

だが、春が不在の日に限って傷が痛んだ。


顔をしかめる愛鷹に「痛いの?」と聞く志乃。

「このくらい平気だ。芋を取ってくる」と言う愛鷹の着物の衿を掴んで

「無理しないの」と志乃が止める。


「平気だって言ってんだろ」

「あたしよりお兄ちゃんなんだから、妹の言うことは聞くのよ」

「どんな理屈だ、それは」


「兄ちゃんが言ってたもの。

『妹が言ったら、兄としては聞いてやらないとな』って」



「…は…はあ…。う…ん…」

赤い顔で愛鷹は横になっていた。


朝から痛んでいたケガが夜にはひどい痛みになって

とうとう発熱してしまったのだ。


「愛鷹、愛鷹しっかりしろ」

志乃が耳元で声をかけるが、愛鷹には届かない。


井戸は外にあって、暗い中を汲みに行くのは少し怖かったが、

ランプを持って一気に走って水を汲み、

家に戻って手ぬぐいを濡らして、しぼって愛鷹を冷やす。

それを何度も繰り返した。


春まだ早いこの時期、井戸の水は氷のように冷たくて

愛鷹の額、首、胸元を冷やすと、少しだけ落ち着いて眠りはじめた。


ユラ…リ…


愛鷹の顔を覗き込んでいると気配がして、

顔を上げるとそこに綺麗な女の人が座っていた。


平安時代の女性の髪形に、小袖に打掛を着て

背中に愛鷹と同じ黒い羽根があった。

その隣には、立派な羽根の侍のような男の人。


志乃も比十ひとの末裔だ。死者と話くらいならできる。

「愛鷹のお母さんとお父さん…」 直感でそう思った。


両親は志乃に両手をついて、「お願いします」と頭を下げた。

そんな両親と、固く目を閉じる愛鷹を見て、

「はい。お任せください」と、志乃は夜通しの看病を決めた。



特別愛鷹が大事とか、仲良くしたいとかは思っていなかったけれど

兄ちゃんや母ちゃんと当たり前に一緒に暮らして、

しかも亡くなった人に頼まれたら、やるしかなかった。


濡れた手ぬぐいを何度も絞るうちに、志乃の手は赤くなって痺れていった。

手に、はーっと息を吹きかけても温まらない。

思わず愛鷹の頬に押し付けた。


「ふふっ。愛鷹は冷たくてきもちいい。あたしは手が暖かくていい。

お互いにいいよね」


愛鷹の熱が下がったのは、明け方だった。



愛鷹が目を覚ますと、自分の横で丸くなって寝ている志乃がいた。

ほかほかになった数枚の手ぬぐいを見て

愛鷹は自分の布団を半分志乃にかけた。


「風ひいて熱出したら、今度は俺が看病…するかな」 

志乃の髪をなでながら、愛鷹はつぶやいた。



昼過ぎになって、春が帰って来た。


愛鷹にお粥を作って食べさせている志乃を見て、

「えらいえらい、頑張ったね」と、にこにこ笑った。




読んでいただき、ありがとうございます。

引き続き、楽しんでいただけますと嬉しいです。

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