6・看病
愛鷹の傷はたまに痛んだが、そのたびに春が手を当てて
痛みを取ってくれていた。
だが、春が不在の日に限って傷が痛んだ。
顔をしかめる愛鷹に「痛いの?」と聞く志乃。
「このくらい平気だ。芋を取ってくる」と言う愛鷹の着物の衿を掴んで
「無理しないの」と志乃が止める。
「平気だって言ってんだろ」
「あたしよりお兄ちゃんなんだから、妹の言うことは聞くのよ」
「どんな理屈だ、それは」
「兄ちゃんが言ってたもの。
『妹が言ったら、兄としては聞いてやらないとな』って」
*
「…は…はあ…。う…ん…」
赤い顔で愛鷹は横になっていた。
朝から痛んでいたケガが夜にはひどい痛みになって
とうとう発熱してしまったのだ。
「愛鷹、愛鷹しっかりしろ」
志乃が耳元で声をかけるが、愛鷹には届かない。
井戸は外にあって、暗い中を汲みに行くのは少し怖かったが、
ランプを持って一気に走って水を汲み、
家に戻って手ぬぐいを濡らして、しぼって愛鷹を冷やす。
それを何度も繰り返した。
春まだ早いこの時期、井戸の水は氷のように冷たくて
愛鷹の額、首、胸元を冷やすと、少しだけ落ち着いて眠りはじめた。
ユラ…リ…
愛鷹の顔を覗き込んでいると気配がして、
顔を上げるとそこに綺麗な女の人が座っていた。
平安時代の女性の髪形に、小袖に打掛を着て
背中に愛鷹と同じ黒い羽根があった。
その隣には、立派な羽根の侍のような男の人。
志乃も比十の末裔だ。死者と話くらいならできる。
「愛鷹のお母さんとお父さん…」 直感でそう思った。
両親は志乃に両手をついて、「お願いします」と頭を下げた。
そんな両親と、固く目を閉じる愛鷹を見て、
「はい。お任せください」と、志乃は夜通しの看病を決めた。
*
特別愛鷹が大事とか、仲良くしたいとかは思っていなかったけれど
兄ちゃんや母ちゃんと当たり前に一緒に暮らして、
しかも亡くなった人に頼まれたら、やるしかなかった。
濡れた手ぬぐいを何度も絞るうちに、志乃の手は赤くなって痺れていった。
手に、はーっと息を吹きかけても温まらない。
思わず愛鷹の頬に押し付けた。
「ふふっ。愛鷹は冷たくてきもちいい。あたしは手が暖かくていい。
お互いにいいよね」
愛鷹の熱が下がったのは、明け方だった。
*
愛鷹が目を覚ますと、自分の横で丸くなって寝ている志乃がいた。
ほかほかになった数枚の手ぬぐいを見て
愛鷹は自分の布団を半分志乃にかけた。
「風ひいて熱出したら、今度は俺が看病…するかな」
志乃の髪をなでながら、愛鷹はつぶやいた。
*
昼過ぎになって、春が帰って来た。
愛鷹にお粥を作って食べさせている志乃を見て、
「えらいえらい、頑張ったね」と、にこにこ笑った。
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