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翼よ、眠れ~アヤカシの末裔・外伝~  作者: 遠野まみみ


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18/22

18・帰郷

8月。 台風の季節だった。

京都を飛び立ったのはいいけれど、大雨でなかなか前へ進めない。

無人の神社の祠や農家の物置で雨宿りをさせてもらった。


通っていた小学校に着いたのは、京を立って2日目のことだった。



講堂で剣の稽古をしていた雪丸が手を止めて耳を動かした。

聞き覚えのある羽音がする。


「先生、今日はこれでおしまいにします」

礼をして、外へ走り出た雪丸の目の前へ愛鷹あしたかが舞い降りた。

「愛鷹―っ 今までどうしてたんだ?無事でよかった。

春さんは必ず帰って来るって言ってたけれど村の皆は心配してた」

「ごめん…。いろいろあった」

疲労困ぱいで頭が回らない愛鷹を背負って、雪丸は歩き出した。


「え…歩ける…」

「その様子じゃ飛ぶのも安定しないし、歩くのだってやっとだろ?

この方が速い。走ってもいいか?」

「うん…ありがとう」

村への道を雪丸は愛鷹を背負って走り抜ける。



「春さーん」

薪割りをしていた春が雪丸の声に顔を上げて、背中の愛鷹に気が付いて

「愛鷹ー!」と、草履が脱げるのも気にせずに走り寄った。


雪丸は急いで愛鷹を下ろして、その背中を押して進ませて

去って行った。


「愛鷹…。お帰り愛鷹。良く帰ってきてくれたね」

春は涙声で愛鷹を抱きしめた。

「愛鷹ぁ。わあああん」

春の声に志乃もやってきて、しがみついた。


「慎太郎が…」

やっと言葉にした愛鷹に、春は冷静に答えた。

「知ってる。あの子、会いに来た。愛鷹が生きているから、帰ってくるから

迎えてやってくれって。 わたしらだって比十ひとの末裔よ。

最期に会って、ちゃんとお別れしたわ」


「兄ちゃん、人形ありがとうって言ってた。 届けてくれてありがと。

でも…でもさ、やっぱり帰ってきて…羊羹持って帰ってきてほし…

ううん。羊羹いらないから、帰ってきて…」


「うぐ…えぐぐ…」

声にならない声を出して、志乃は正座した自分の膝に顔を埋めた。

愛鷹がそっと髪をなでると、我慢できずに大泣きした。


志乃の背中をさすると、志乃は愛鷹にしがみついて

「生きてて良かったねー」と泣きながら言った。


帰ってきてよかった。愛鷹は心からそう思った。



「目をなくしたんだってね。慎太郎が言ってたわ」

「独眼竜で強そう?」

「そうね。うん、そうだわ」


「着物をボロボロにしてしまった。ごめんなさい」

「また縫えばいいわ。眼帯も新しくしようね」


『母さん』って呼んだら、きっと喜ぶ。

慎太郎の言葉が頭をよぎる。

そうだな。わかってるよ。 でも、急にはさ…。



数日後、静かな村でやっと落ち着いて

愛鷹はそれまでのことを話し始めた。


基地のこと。慎太郎と飛行機の中で話したこと。 

飛行機が突っ込んでいったこと。

沖縄の洞窟のこと。 助けられたこと。 慎太郎が来たこと。

不二と宝永のこと。 京都の鞍馬と華菜のこと。


春と志乃はしんみりと、時折「うんうん」と興味深く聞いていた。

この時、愛鷹は「特攻隊」を初めて知った。


日の本の民族は時として、とんでもない戦い方をする。

命より名誉とか意地が先に立つことがある。

それがなんとなくわかる愛鷹だった。

かつて侍がそうしたように、一部の戦闘をする烏天狗や狐族や鬼族も

似たようなところがあるから。


けれど華菜の話をしたときは、思いっきりからかわれて

三人で久しぶりに笑った。



「愛鷹のケガを治したのは不二…霊峰に住む比十ね。

すごいお方に会ったのね」

「うん…。死んでいた俺を生き返らせたって聞いた」

「日本中を旅して、病気やケガをしたアヤカシを助けているそうよ。

立派なお方だわ」


「そうか…」

「えっへっへ」と悪戯っぽく笑う不二の顔が浮かんだ。

確かに行いは立派だが…。


いつかまた会う事があるかもしれない。と思う愛鷹だった。



そして、戦が終わった。


読んでくださってありがとうございました。

次回もよろしくお願いいたします。

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