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翼よ、眠れ~アヤカシの末裔・外伝~  作者: 遠野まみみ


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17/22

17・鞍馬山

「父さま、烏天狗の男の子落ちてる」

街道を野菜が入った籠を抱えて歩いていた、モンペ姿の烏天狗の少女が、

かわいらしい羽根をパタパタさせて父を呼んだ。

「烏天狗?お仲間さんか。華菜かな、先に帰って母さまに布団敷いてって

伝えといてや」

「はーい」

少女は山に向かって飛び立った。


「おーい、坊や。生きとるか?…息、してはるな」

羽根も身体もびしょびしょの愛鷹あしたかを抱えて、男は華菜の後に続いた。



愛鷹が目覚めたのは、その翌日だった。

「ここは…?」


「あ、起きた 起きた。父さま、男の子起きた」

華菜が部屋を覗いて、父を呼びに行った。



「わたしの名は鞍馬くらまや。さっきの子は娘の華菜。あんたは?」

愛鷹あしたかと申します。…助けていただいたようで、ありがとうございました」

愛鷹は布団から出て、手をついて礼を言った。

「ほう、愛鷹山の愛鷹殿か。よろしゅうな。なんであそこに倒れとった?」

愛鷹は今までの出来事を話した。


「そうか。大変やったな。それにしても比十ひと族の不二殿と宝永殿か。

わたしも会うてみたかった」


「父さま、母さまが食事ができましたって」

「ああ、愛鷹に運んでくれるかい?」

「はーい」


華菜はいそいそと働いた。

同い年くらいの烏天狗と会うのは初めてで、嬉しかったのだ。



「…なんだか、俺は助けてもらってばかりで…情けない」

茶碗を見つめたまま、愛鷹はかなり落ち込んでいた。

「子供が助けてもろうて、何が問題やの?」

華菜の母が愛鷹の顔を覗き込んで、

「大人になったら、誰かを助けたらええねん」と

ほほ笑んだ。



愛鷹あしたか、知ってる?この奥に魔王殿ってあるんや。

魔王は違う星から来たんやって。もしかしたらアヤカシの先祖かもな」

華菜は山を案内してくれた。


さりげなく右に立って、愛鷹が見えない部分を補っているようだった。


「この先が貴船神社。 夜は人間があまり来なくてとってもいいよ。

狐さんとか狸さんの一族が遊びに来はる」


「狐族に狸族…。」

愛鷹は村の雪丸たちを思い出していた。

だが、帰りにくい。どんな顔をして帰ったらいい?


慎太郎は、もう帰らないのに。



烏天狗・鞍馬は剣の達人でもあったので、愛鷹は剣術も習った。

隻眼なので見えない右にどうしてもスキができる。

さすがにこの状態は父からも継いでいないので、戸惑っていたのだが

それを補うために集中して、気配を感じる訓練をひと月と数日かけてしてくれた。


「だいぶええな。さすがに基本ができとる」

「ありがとうございます。…もしかして、源義経に剣術を教えてました?」

「ああ、遮那王やな。それ先代…いや先々代だっけか?

ともかく、いくらなんでもわたしはそこまで長生きしとらんで」



「愛鷹ー。うちの相手もしてや」

華菜が両手に短剣を持って、斬りかかってくる。

「ちょっ…。それ真剣。待ってまって。危ないから」


華菜といい不二といい、どうしてこう、アヤカシの女性陣は強気なんだろう。

そう思いながらも、愛鷹は華菜の攻撃をすべてよけた。


「おお、お見事。愛鷹に継がせた者も手練れだったようだ」

鞍馬は笑って、愛鷹に「婿にこないか?」と冗談か本気かわからない事を

言ってきた。


「遠慮しておきます」

「なんで? うち、かわいいやん?」

華菜が不満そうに頬をふくらませる。

「まだ…子供なもので。…それに、やはり帰らないと」



「大きな爆弾が広島と長崎に落とされたそうや。

気を付けて行きなさい。

それと、よければ修行に来たらええ。鍛えてあげよう」

「ありがとうございます」



華菜の母はおにぎりの弁当を作って、愛鷹に持たせてくれた。

「信州のやうと村か。アヤカシと末裔の村だって、噂には聞いとるよ。

明日には村に着くやろうけど気をつけてな」

「はい。お世話になりました。ありがとうございました」


「つまんなーい」

華菜は最後まで不貞腐れていたが、最後は飛び去る愛鷹の後ろ姿に

「また来て」と、手を振った。


読んでいただき、ありがとうございます。

引き続き、読んででいただけますと嬉しいです。


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