12・野戦病院
ときどき、うめき声が聞こえた。
松明の薄明りの中、何人かのアヤカシらしき者が横になっていた。
狸、狐、鬼も烏天狗もいる。
その中に右目から頭にかけてと、腰と足にも包帯をグルグルに巻かれた
愛鷹も寝ていた。
消えそうな松明に青白い炎を灯す狐族がいた。
「狐…雪丸…?」
愛鷹がつぶやくと
「わたしは葛の葉。狐族の、何代目かの葛の葉」と答えが返ってきた。
「痛いところはない? 痛ければすぐ不二さまを呼ぶ」
「だい…じょうぶ…」
かなりの重傷だったが、痛みはほとんどなかった。
いつか春がしてくれたように、痛み止めをしてくれているらしい。
*
洞窟はいくつも通路が分かれていて、愛鷹のいる場所とは反対側からも
声が聞こえた
そちらが人間のスペースと思われた。
上半身を起こしてお粥がすすれるようになった愛鷹に
「かなり良いみたいだね」と宝永が声をかけた。
「ありがとうございます。…あの、慎太郎は?」
「あー…あの男の人か。うん…何て言ったらいいか…。つまり…」
言いにくそうな宝永を察して、
「死んだんですね?」
と愛鷹が確かめるように言った。
「うん。 魂がここに来て、君を助けてくれって言ってた」
「そう……」
お粥のお椀を握りしめた手が震えた。
慎太郎の優しい笑顔と、健康そうな白い歯が浮かんだ。
ぽと… ぽとん…ぽとん…。
椀の中にこぼれ落ちる涙を、ぬぐう余裕などなかった。
こんな想いは3度目だ。 両親と慎太郎と…。
天寿を全うせずにいなくなる。 もう、こんなのは…嫌だ。
宝永は黙って愛鷹の背中をゆっくりとさすった。
慎太郎はもういない。
慎太郎が褒めてくれた千里眼も、もうない。
しばらく、眠れない日が続いた。
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