11・比十族
ゴボボボ…。
上半身は人間の姿、下半身は魚。
海に住まう人魚が海面から落ちてくる鉄の破片を避けながら
生きていそうな者を探している。
そして愛鷹を捕まえた。
急いで海底の洞窟に運ぶ。
そこから浮上すると、海から繋がる鍾乳洞になっていて
洞窟には青白い炎の松明が掲げられ、明るくなっていた。
「宝永さーん」人魚が洞窟の奥に向かって叫ぶと
奥からランプを持った、細身で垂れ髪の色白の20代前半くらいの
青年がやってきた。
「烏天狗の子供いた」
愛鷹を若者に渡す。
「ありがとう古宇利さん。お疲れさん」
「もっと生きてそうな者を探してくる」
そう言って、『古宇利』と呼ばれた人魚は海に戻って行った。
*
「不二、烏天狗の子供だ」
宝永が洞窟の奥へ愛鷹を運ぶと、そこでケガ人の手当てをしている
女性がいた。
「子供だって?なんでまた戦場に?」
不二も宝永と同い年くらいで、漆黒の長い髪を後ろに束ね
土と血が付いたモンペ姿だが、美しい容姿をしていた。
「…死んでる」
ゴザの上に横たわる愛鷹を見て、彼女はそう言った。
*
ユラリ…。
気配がして顔を上げると、愛鷹の枕元に慎太郎がいて
まっすぐに不二を見つめていた。
「お願いします。 自分はやうと村の永野慎太郎と申します。
その子の名は愛鷹。 あなた様は名のある比十とお見受けしました。
どうか、その子を助けてください」
慎太郎は深々と頭を下げる。
「わたしの知っている愛鷹と、ちょっと違うな。名を継いだのか」
「はい。その御方の息子です」
「そうか。やってみる。でないと、こいつの親が化けて出そうだ」
不二は愛鷹のえぐれた右目に手を当てて、集中しはじめた。
「血の管を繋げる。 細胞を活性化して傷をふさぐ。
眼球の再生は…無理か。 わき腹と足も同じように。
心臓を動かす。 動け。 動け。 …もう一度」
愛鷹の胸の上で不二の手が握って、開いてという動きをする。
ト… クン…
トクン トクン
小さく、けれど確かに心臓が動いて愛鷹は蘇生した。
慎太郎は両手をついて礼を言い、消えていった。
「失った血液を作る。それからもう一度、目を。
片目を失うと、やがてもう片方も失明する。そうならないように処置する」
自分に言い聞かせるように、不二は確実に治療していった。
「あ…あ…」
うめき声をあげて、意識が戻った。
「聞こえるか?愛鷹。 永野慎太郎の頼みで君を治療した」
ビクッ。
【慎太郎】と聞こえて、愛鷹が反応した。
「君は生き延びた。 ここは沖縄。
沖縄の海底洞窟だ。 しばらくここでケガを治す。
わたしの言う事を聞いて、おとなしく寝ていろ」
不二の言葉に愛鷹は「う…」と、声を出して頷いた。
*
愛鷹が「特攻隊」を知るのは、もう少し後のことだ。
読んでくださってありがとうございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。




