追放されたはずの魔法使い、逆に俺へ復讐を誓う
ギルドを出たあと、空気は妙に軽かった。
ひとつ、重石が外れたような感覚。
だが——
「不安定要素は残存」
足元でスライムが揺れる。
「排除された個体が、外部から干渉する可能性あり」
「ミアのことか」
「肯定」
ユウは肩をすくめた。
「来るなら来ればいい」
避ける理由はない。
むしろ——
(その方が、奪える)
小さく笑う。
「……本当に良かったのか」
横を歩くレオンが低く言った。
「何が?」
「ミアのことだ」
振り返らないまま続ける。
「長く組んでた仲間だ」
「だろうな」
「それを、あんな形で……」
言葉が途切れる。
後悔と、迷いが混ざっている。
「でも切った」
ユウが言う。
「それがお前の選択だろ」
「……ああ」
レオンは短く答える。
その声には、まだ揺れがある。
「なら、それでいい」
それ以上は言わない。
他人の決断に、感情で踏み込む気はない。
リナは少し後ろを歩いていた。
何度か口を開きかけて、やめている。
やがて、小さな声で言った。
「ユウさん」
「ん?」
「ミアさん……戻ってくると思いますか?」
素直な疑問。
そして、少しの期待。
「戻らない」
即答だった。
「え……?」
「戻れない、の方が正しいか」
前を見たまま言う。
「一回壊れた関係は、元には戻らない」
静かな事実。
リナは黙り込む。
「……そう、ですよね」
納得したような、していないような声。
その頃。
町の外れ。
人気の少ない裏路地。
ミアは、壁にもたれていた。
「……くそ」
拳を握る。
震えている。
怒りと、悔しさと、そして——
恐怖。
「なんで……」
声が漏れる。
「なんであいつなのよ……」
頭に浮かぶのは、ユウの姿。
戦闘の光景。
ありえない動き。
ありえない強さ。
「スキルなしのくせに……!」
歯を食いしばる。
理解できない。
だから、許せない。
そのとき。
「——困ってるみたいだね」
背後から声がした。
ミアが振り向く。
そこにいたのは——
黒いローブの男。
顔はフードで隠れている。
「……誰?」
「通りすがり、かな」
軽い口調。
だが、どこか不気味だ。
「さっきの騒ぎ、見てたよ」
「……」
ミアは警戒する。
「余計なお世話よ」
「そうかな」
男は一歩近づく。
「君、強くなりたいんだろ?」
核心を突く言葉。
ミアの目が揺れる。
「……関係ないでしょ」
「あるよ」
男は小さく笑う。
「だって、君は“奪われた側”だから」
その一言で、ミアの呼吸が止まる。
「……何を」
「気づいてないの?」
男は首を傾げる。
「あの男、スキルを“奪ってる”」
静かに言った。
ミアの目が見開かれる。
「……そんな、ありえない」
「ありえないことをやってるから、ああなってる」
淡々と続ける。
「君の魔法も、そのうち奪われるかもしれないね」
ゾッとする言葉。
「……っ」
ミアは一歩下がる。
だが、同時に——
理解が追いつく。
昨日の違和感。
今日の戦闘。
全部が、一本につながる。
「……だから、強かったの?」
「そういうこと」
男は頷く。
「じゃあ……どうすればいいのよ」
思わず口に出ていた。
その瞬間、男の口元が歪む。
「簡単だよ」
ゆっくりと、手を差し出す。
「“それ以上”の力を手に入れればいい」
「それ以上……?」
「奪われない力」
低く囁く。
「むしろ、奪い返す側に回る力」
甘い言葉。
危険な響き。
だが——
今のミアには、拒否する理由がなかった。
「……あるの?」
「あるよ」
男は即答する。
「ただし——」
一歩、近づく。
「代償は払ってもらう」
当然だ。
力には対価がいる。
「……何でもいい」
ミアは呟いた。
迷いは、もうない。
「強くなれるなら」
その目に宿るのは、怒り。
そして——
明確な敵意。
向けられる先は、一つ。
黒崎ユウ。
「契約成立だ」
男が笑う。
その声は、どこか歪んでいた。
ミアの足元に、黒い魔法陣が広がる。
ゆっくりと、彼女を包み込む。
「……待ってなさい」
小さく呟く。
「絶対に——」
拳を握る。
「潰してやる」
光が弾ける。
そして、闇が残る。
一方、その頃。
ユウは何も知らず、町の通りを歩いていた。
「外部リスク、上昇」
スライムが言う。
「そうか?」
「明確な敵対行動の兆候」
ユウは少しだけ空を見上げた。
雲が、ゆっくりと形を変えている。
「いいね」
小さく笑う。
「退屈しなくて済む」
スライムが静かに揺れる。
「危険だ」
「知ってる」
それでも。
「その方が、奪いがいがある」
風が吹く。
新しい“敵”の気配を運ぶように。
ユウは歩き続けた。




