選び直した俺、世界を“再起動”してすべてを取り戻しにいく
白。
視界を埋め尽くす、完全な無。
だがそれは“消えた”のではない。
まだ何も決まっていない状態。
ユウは、そこにいる。
形は曖昧。
だが、意識ははっきりしている。
「……ここが再起動前か」
応答はない。
世界の声も、もう聞こえない。
代わりにあるのは——
無数の“初期設定”。
光の粒のように漂う情報。
世界の骨組み。
ルールの種。
可能性の断片。
「全部、白紙かよ」
ユウは笑う。
「好きに書けるってことだな」
だが、そのとき。
「……ユウ」
小さな声。
振り向く。
そこに、スライムがいる。
いつものサイズ。
いつものぷるぷる。
だが——
「……薄いな」
輪郭が、消えかけている。
「再構築途中です」
スライムが言う。
「このままでは——」
「消える、か」
「……はい」
沈黙。
ユウは、少しだけ目を細める。
「じゃあ先に決めるか」
手を伸ばす。
“設定”の粒へ。
「まずは——」
ひとつ、掴む。
それは、“存在の安定”。
「これ、お前にやる」
ポン、と押し込む。
スライムの輪郭が、強くなる。
「……あ」
少しだけ、色が戻る。
「ありがとうございます」
「まだ終わりじゃねえ」
ユウは次々と掴む。
“維持”
“継続”
“個別認識”
「ほら」
全部、流し込む。
スライムが、しっかりと形を持つ。
「……戻った」
小さく、震える声。
「完全に……存在しています」
「だろ?」
ユウは笑う。
「相棒だしな」
一瞬の沈黙。
そして——
「……はい」
スライムが、少しだけ柔らかく揺れる。
だが。
まだ終わっていない。
「次」
ユウは、空間を見る。
無数の“初期設定”。
ここで決める。
世界の形。
「……どうする」
スライムが問う。
「全部、作り直すんですよね」
「そうだな」
ユウは腕を組む。
「でも完全リセットはつまらん」
「……?」
「せっかく積み上げたもんがある」
王都。
人々。
戦い。
出会い。
「全部消すのはナシだ」
「では——」
「“引き継ぎ”だ」
ユウは笑う。
「今までの世界をベースにして——」
「バグだけ潰す」
スライムが理解する。
「異物排除、強制エンド……」
「その辺全部いらねえ」
「はい」
ユウは、“世界設定”を掴む。
大きい。
重い。
だが——
「いけるな」
持ち上げる。
そして——
「再定義」
流し込む。
ルールを書き換える。
・異物排除 → 無効
・存在選択 → 許可
・強制終了 → 削除
世界が、揺れる。
「安定化、進行」
スライムが言う。
「再構築率、上昇」
光が、形を持ち始める。
地面。
空。
街。
王都が、再び現れる。
「……いい感じだな」
だが、そのとき。
ユウの体が、揺れる。
「……っ」
崩れかける。
「ユウ!」
「……大丈夫だ」
だが、明らかに不安定。
「負荷が……」
スライムが言う。
「まだ分散されていません」
「分散?」
「あなた一人が“世界の基準”になっています」
沈黙。
「……それは」
「長く持ちません」
ユウは、苦笑する。
「だろうな」
このままだと——
世界は安定する。
だが、ユウが持たない。
「……どうする」
スライムが問う。
ユウは、少しだけ考える。
そして——
「簡単だろ」
笑う。
「分ければいい」
「……?」
「基準を」
自分だけじゃなく。
世界全体に。
「全員で持てばいい」
その瞬間。
ユウは、手を広げる。
光が広がる。
王都へ。
人々へ。
「——共有」
“存在選択権”を。
少しずつ。
すべてに。
スライムが息を呑む。
「それは……」
「自由だろ」
ユウは笑う。
「俺だけチートじゃつまらん」
光が、広がる。
世界に、“選択”が根付く。
その瞬間。
ユウの負荷が、軽くなる。
「……成功」
スライムが言う。
「分散完了」
ユウは、大きく息を吐く。
「……助かった」
だが——
まだ終わりじゃない。
最後の確認。
「……これで」
世界を見る。
王都が、動き出す。
人々が、息をする。
「完成か?」
スライムが、静かに言う。
「はい」
一拍。
「新しい世界です」
ユウは、少しだけ笑う。
「悪くねえな」




