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最弱スライムと契約した俺、気づけば全スキルを支配していた~ぷるぷる相棒が実は最強すぎる~  作者: ローナ


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スキルなしの俺だけがおかしいとバレ始める

 翌朝。


 まだ空気の冷たい時間帯に、ユウは目を覚ました。


 簡素な宿の天井。木の梁が交差している。見慣れないはずの景色なのに、不思議と落ち着く。


 体を起こすと、足元でぷるん、と小さく揺れた。


「起床を確認。コンディション良好」


「おはよう、って言えないのか?」


「言語選択は最適化の対象外だ」


「そうかよ」


 短く笑って、ベッドから降りる。


 体の軽さは昨日のままだ。むしろ、少しだけ動きに馴染みが出ている。


「《俊敏》の定着率、微増」


 スライムが淡々と報告する。


「昨日の戦闘で使用回数が閾値を超えた可能性がある」


「へえ。じゃあ、今日も使えばもっと馴染むか」


「肯定。反復が最短ルートだ」


 効率的。シンプルでいい。


 支度を済ませ、外へ出る。朝の町は静かだ。パンの焼ける匂いと、遠くで荷車の軋む音。


 ギルド前には、すでに三人が揃っていた。


「遅くないな」


 レオンが腕を組んで言う。


「寝坊するタイプかと思ってた」


「会社員は時間に厳しいんだよ」


「カイシャイン?」


「こっちの話」


 軽く流して、全員で門へ向かう。


「今日の依頼は、街道沿いのゴブリン掃討だ」


 門を出て少し歩いたところで、レオンが地図を広げた。


「数は五体前後。Eランク相当」


「余裕ね」


 ミアが肩をすくめる。


「ユウは後ろでいい。無理はするなよ」


 言い方は穏やかだが、意味ははっきりしている。


 “戦力としては見ていない”。


「了解。後ろで見てる」


 素直に頷く。


 その方が、都合がいい。


 スライムが小さく囁く。


「前線に出ないのか?」


「まだいい」


「理由は?」


「観察だよ」


 視線を前方に向けたまま答える。


「どんな動きしてるか、どんなスキル使うか。全部見てからでも遅くない」


「合理的」


 ぷる、と納得したように揺れる。


 森に入ると、空気が変わった。


 湿った土の匂い。木々のざわめき。どこかに潜む“気配”。


「来るぞ」


 レオンが剣に手をかける。


 次の瞬間。


 茂みから、小さな影が飛び出した。


 緑色の肌。歪んだ顔。粗末な武器。


「ゴブリンだ」


 ミアが杖を構える。


「三、いや四!」


「前出る!」


 レオンが突っ込む。


 剣が閃く。一体を斬り裂く。


 速い。


 だが——


(まだ、俺の方が速い)


 昨日の感覚が、はっきりと残っている。


 《俊敏》はまだ完全じゃない。けれど、確実に“自分のもの”になり始めている。


「ファイア!」


 ミアの魔法が炸裂する。


 炎がゴブリンを包む。悲鳴。焦げた匂い。


 リナが後方で回復の光を放つ。


 連携は悪くない。


 むしろ、Eランクにしては上出来だ。


(……なら)


 ユウは一歩、前に出た。


「おい、ユウ!」


 レオンの声。


 だが、もう遅い。


 残ったゴブリンがこちらに気づき、突っ込んでくる。


 鈍い動き。粗い攻撃。


(いける)


 タイミングを合わせる。


 ギリギリで避けて、腕を伸ばす。


 触れた。


 ビリッ、とした感覚。


 頭の中に言葉が浮かぶ。


 ――《怪力》解析完了


「……なるほど」


 次の瞬間、拳を振るう。


 ゴブリンの体が、軽く吹き飛んだ。


 木に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。


 静寂。


 風が葉を揺らす音だけが残る。


「……は?」


 ミアの声が震える。


「今の……何?」


 レオンも動きを止めている。


 リナは目を丸くしていた。


 ユウは、自分の手を軽く握る。


 重い。


 だが、嫌な重さじゃない。


 制御できる範囲だ。


「ちょっと、力借りただけ」


 適当に答える。


「借りたって……誰から?」


「そこらへんの」


 曖昧に笑う。


 スライムが、静かに囁く。


「情報開示は非推奨」


「わかってる」


 小声で返す。


 残りのゴブリンも、すぐに片付いた。


 戦闘自体は問題ない。


 問題があるとすれば——


「ユウ」


 レオンが、真っ直ぐこちらを見る。


「お前、本当にスキルなしなのか?」


 来た。


 当然の疑問だ。


「一応な」


「一応って何だよ」


「自分でもよくわかってないんだよ」


 半分は本当だ。


 全部説明する義理もない。


「……さっきの動き、明らかにおかしい」


 ミアが口を挟む。


「俊敏も、力も。普通じゃない」


「褒めてくれてる?」


「違う」


 即答だった。


「気味が悪いの」


 正直でいい。


 ユウは肩をすくめた。


「そうかもな」


 否定はしない。


 できない。


「でも、役には立っただろ?」


 少しだけ、踏み込む。


 レオンは数秒黙り込んだあと、息を吐いた。


「……ああ。助かったのは事実だ」


「ならいいだろ」


「……そうだな」


 完全には納得していない顔。


 だが、切り捨てるほどでもない。


 その中途半端さが、ちょうどいい。


 依頼を終えて、町へ戻る道中。


「なあ、ユウ」


 リナが小さな声で話しかけてきた。


「さっきの、痛くなかった?」


「何が?」


「スキル、借りるって言ってたから……反動とか」


 少しだけ心配そうな目。


 こういうタイプか。


「今のところは大丈夫」


「そう……ならよかった」


 ほっとしたように笑う。


 その横で、ミアが小さく舌打ちした。


 見逃さない。


(温度差、あるな)


 いい傾向だ。


 関係が揺れるほど、あとで効く。


 ギルドに戻り、報告を済ませる。


 報酬が支払われる。


 初日としては上出来だ。


「今日はここまでだ」


 レオンが言う。


「明日も同じ時間に集合な」


「了解」


 それぞれが散っていく。


 ユウも外へ出た。


 夕方の空。少し赤い。


「観察結果を報告する」


 スライムが言う。


「パーティ内の信頼度は不安定。特に魔法使いの警戒値が高い」


「わかってる」


「剣士は有用性を評価。ヒーラーは好意的」


「バランスいいな」


「崩壊しやすい状態でもある」


 ぷる、と揺れる。


「続行するか?」


 少しだけ考える。


 そして。


「もちろん」


 即答する。


「まだ“奪い足りない”」


 今日だけで、二つ。


 《俊敏》と《怪力》。


 だが、まだ序盤だ。


 この世界には、もっとある。


 もっと強いスキルが。


 もっと価値のある力が。


「ならば次の最適解を提示する」


 スライムが、わずかに弾む。


「より強い個体、より多様なスキルを持つ対象に接触せよ」


「つまり?」


「このパーティに留まるのは、効率が悪くなる可能性がある」


 ユウは、少しだけ笑った。


「まだいい」


「理由は?」


「もう少しで——」


 空を見上げる。


 赤が、濃くなっていく。


「面白くなる」


 スライムが沈黙する。


 そして、ゆっくりと揺れた。


「理解した」


 短く、そう答えた。


 町の喧騒が遠くに聞こえる。


 日常が、ゆっくりと崩れ始めている音みたいに。


 ユウはその中を、静かに歩いた。


 次の一手を、頭の中で組み立てながら。

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