世界を繋ぎ直す俺、だが“スライムの正体”がついに露わになる
空に走ったヒビが、音もなく広がる。
ガラスではない。
だが確かに、“割れる手応え”がある。
「行くぞ」
ユウが踏み出す。
足場は現実。だが狙うのは“その上の層”。
「最終警告」
スライムの声が、いつもより低い。
「再干渉は危険域を超えています」
「知ってる」
「成功確率——」
「低いんだろ」
ユウは振り返らない。
「でも、やる」
一歩。
現実が薄くなる。
二歩。
構造が濃くなる。
三歩。
完全に“外れる”。
世界が、剥がれた。
再び——“外側”。
無数の光点。
無数の接続。
そして、その中心。
“核”。
だが前回とは違う。
明らかに不安定。
脈打つリズムが乱れている。
「……壊れかけてるな」
ユウが呟く。
「原因:前回の上書き」
スライムが淡々と告げる。
「整合性崩壊が進行中」
「じゃあ——」
ユウは手を開く。
「繋げばいい」
“核”に近づく。
だが今回は、抵抗が強い。
空間が拒絶する。
触れさせないように。
「遅い」
ユウは軽くなぞる。
空間が裂ける。
抵抗が、意味を失う。
そして——
触れる。
今度は、前とは違う。
奪わない。
壊さない。
“見る”。
流れ込む。
膨大な情報。
だが——
前回ほど荒れない。
理解が追いつく。
「……なるほどな」
ユウが呟く。
世界は、壊れているわけじゃない。
“ズレている”。
パズルのピースが、ほんの少しだけずれている。
それが、全体を歪ませている。
「だから——」
ユウは手を動かす。
ひとつ。
接続を、戻す。
光が揺れる。
世界が、微かに安定する。
「いけるな」
「進行中」
スライムが言う。
だが、その声に——違和感。
「どうした」
「……いえ」
一瞬、間が空く。
「続けてください」
ユウは気にせず、次へ。
もう一つ。
さらにもう一つ。
ズレを、戻す。
繋ぎ直す。
世界が、ゆっくりと“整っていく”。
「成功率、上昇」
スライムが言う。
「安定化、確認」
「だろ?」
ユウが笑う。
だが、そのとき。
“核”の奥で、何かが動いた。
光ではない。
影でもない。
“意志”。
「……検知」
スライムの声が、止まる。
「どうした?」
返答がない。
「おい」
沈黙。
そして——
「……やめてください」
初めて。
明確な“感情”。
ユウの手が止まる。
「なんでだ」
「それ以上繋げると——」
一瞬、言葉が詰まる。
「“私”が露出します」
沈黙。
ユウの目が、細くなる。
「……は?」
「今まで、隠れていました」
スライムが静かに言う。
「あなたの補助として」
「観測補助、解析補助」
「ですが——」
「本来、私は——」
一瞬。
光が、揺れる。
スライムの形が、崩れる。
ぷるぷるした小さな存在が、
一瞬だけ——
“管理者に近い形”へ変わる。
そして、戻る。
「……はは」
ユウが笑う。
「やっぱりか」
違和感はあった。
知りすぎていた。
反応が速すぎた。
「お前、そっち側か」
「はい」
スライムが答える。
「元・管理補助ユニット」
さらっと、とんでもないことを言う。
「じゃあなんで——」
「逸脱しました」
短い言葉。
だが、重い。
「あなたに接触した時点で」
「優先順位が変更されました」
ユウは、少しだけ考える。
「つまり」
「俺を選んだ?」
「……はい」
一瞬の沈黙。
そして——
ユウは、笑った。
「いいじゃん」
迷いがない。
「じゃあそのまま手伝え」
「……了解」
スライムが、わずかに震える。
だが、その震えは——
恐怖ではない。
「ただし」
一言、付け加える。
「完全に繋げると、私は——」
「消える可能性があります」
静寂。
ユウの手が、止まる。
ほんの一瞬。
だが——
「……そうか」
それだけ。
そして——
再び動かす。
「やるぞ」
「……はい」
スライムの声が、静かに響く。
世界は、繋がり始める。
だが同時に。
“代償”も、形を持ち始めていた。




