街最強の力を喰らい、俺は次の段階へ踏み込む
大地が、わずかに沈んだ。
男が一歩踏み込んだだけで、空気が押し潰される。
「来い」
短い一言。
だが、その中にあるのは“試す”ではない。
“潰す”だ。
「望むところだ」
ユウは息を吐き、踏み込んだ。
ぶつかる。
拳と拳。
鈍い音が響く。
衝撃が腕を駆け上がる。
「……っ!」
さっきより、重い。
《剛力》を奪ったはずなのに、それでも足りない。
「甘い」
男が押し込む。
そのまま、ユウの体が弾かれる。
地面を滑る。
距離が開く。
「分析」
スライムが高速で囁く。
「現在のコピーでは出力不足。上位層に未到達」
「つまり?」
「“深く奪う”必要がある」
ユウは口元を拭った。
血の味。
だが——
「いいね」
笑う。
難しいほど、面白い。
「どうした」
男が言う。
「終わりか?」
「まさか」
ユウは立ち上がる。
「これからだ」
再び踏み込む。
今度は、真正面からじゃない。
軌道をずらす。
視線を外す。
フェイント。
男の反応を“誘う”。
「ほう」
わずかに反応が遅れる。
その瞬間——
ユウは懐に入り込んだ。
「——触れる!」
手を伸ばす。
胸元。
確実な接触。
ビリッ。
今までとは、比べ物にならない衝撃。
頭の奥が弾ける。
情報が、洪水みたいに流れ込む。
――《剛力・深層》解析開始
「ぐっ……!」
膝が揺れる。
「危険域」
スライムが警告する。
「神経負荷、限界突破寸前」
「……まだだ」
歯を食いしばる。
逃がさない。
ここで離したら、意味がない。
流れを掴む。
押し込む。
奪い取る。
――《剛力・深層》一時取得
「……いい」
ユウが呟く。
体が、変わる。
さっきとは別物。
筋肉の密度。反応速度。すべてが一段上。
「それだ」
男が笑う。
「ようやく来たか」
歓迎している。
本気で。
「行くぞ」
ユウが踏み込む。
今度は——
対等に近い。
拳がぶつかる。
音が違う。
重さが同じ領域に入っている。
「……やるな」
男が低く言う。
「だろ」
ユウは笑う。
楽しい。
純粋に。
だが——
それでも、まだ差がある。
男の方が、わずかに上。
押される。
崩される。
「まだ足りん」
男が言う。
「全部、出してみろ」
「言われなくても」
ユウは息を吸う。
そして——
重ねる。
《俊敏》。
《強靭》。
《硬化》。
《剛力》。
さらに——
《黒炎魔法》。
全てを同時に。
「統合開始」
スライムが告げる。
「複合運用、初段階」
体が悲鳴を上げる。
だが——
制御できる。
「これでどうだ」
ユウは踏み込む。
黒炎を纏った拳。
速度と重さが重なる。
男の目が、わずかに見開かれる。
「……面白い!」
初めて、明確な“驚き”。
拳がぶつかる。
衝撃。
だが——
今度は、押し返した。
「はは……!」
ユウが笑う。
「届いたな」
「いや——」
男が首を振る。
「まだだ」
その瞬間。
空気が変わる。
圧が、一段跳ね上がる。
「——っ!?」
ユウの体が止まる。
男の“本気”。
今までとは別次元。
「これが上だ」
低い声。
次の瞬間——
拳が来る。
速い。
重い。
避けきれない。
直撃。
「がっ……!」
体が吹き飛ぶ。
地面に叩きつけられる。
息が抜ける。
視界が揺れる。
「……どうする」
男の声が遠くから聞こえる。
「ここで終わるか?」
ユウは、仰向けのまま空を見た。
青い。
やけに静かだ。
「……いや」
ゆっくりと起き上がる。
体はボロボロ。
だが——
まだ動く。
「終わらない」
立つ。
笑う。
「全部、もらうまで」
その言葉に——
男は、はっきりと笑った。
「いい目だ」
一歩、踏み出す。
「なら——」
構える。
「来い」
ユウは深く息を吸う。
スライムが静かに告げる。
「限界を超える可能性あり」
「それでいい」
答える。
「その先が欲しい」
風が吹く。
空気が震える。
そして——
ユウは踏み込んだ。
“次の段階”へ、踏み込むために。




