90.王都到着。女王の帰還。
「頑張り屋、か……」
これは、リニーが間違ってた、という事でも無い。
リニーから見た時、恋人の貴族の親、というのは、越えるべき壁なのだろう。
逆に、貴族の親から見れば、結婚相手に貴族を望む理由も分かる。
では、リニーの恋人、貴族の末っ子、ベンはどうなのか。
現在冒険者であるベンは、ネリーの言葉を借りれば、家督の継承を外れた状態にあるのだろう。
そして、俺達は見ている。魔物の巣窟を発見した時、ベンが俺達へ逃げろと言ったその背中を。その背に寄り添うリニーも。
誰もが懸命に生きている。それぞれの立場で、自分の正しさを持って。この世界で多くの『頑張り屋さん』達が。
「結局、会ってみて、話してからじゃないと、どんな人か分からないのよね。……人を一括りにする便利な表現なんて……そうね、難しいわ」
ナデシコも、しばし考えた後、ふと零した。
貴族は傲慢、貴族は正義、などとはとても言えない。でも、誰もが、頑張っているのだろう。
「……俺達に出来るのは、せいぜい見習うことくらい、かな。俺達以外にも、多くの人が頑張ってんだ。得意なことを頑張って、苦手なことは助けてもらおうぜ、ナデシコ」
「ポジティブなのかネガティブなのか、分からないわね。でも賛成。胸張っていきましょ、ヤマト」
俺とナデシコは笑みを交わして拳を合わせる。
そんなやりとりをしていると、前から小さな影が飛んできた。
「あーん!二人ともいい子だねぇ!ナデナデしてあげるね!」
「「ん~~?!?!」」
二人まとめてその小さな影、ネリーに抱き寄せられた。……なんて力だ!この魔力相当だぞ!?
襲い来るのは、暴力的な柔らかさ。花のような甘い匂いもする。
いかん、頭に酸素が行かずにバカになる…!おっぱ…。
「コルネリア様!?二人とも息が出来てないですよ!?」
薄くなる意識の中、デライラさんの声がした。
「え?……ホントだ!?……大丈夫!?」
急なエアバック体験からの解放、事故は外ではなくて、車内で起こったのだった。
「はぁ……はぁ…9分44秒、私の最高記録よ…!」
「……いや、そこまで長く無かったわ……」
息を切らしながらでも、俺にしか伝わらないアピールをするナデシコ。無難なツッコミしか出来ない俺、放しはしたがナデナデは続けるネリー、まだ動揺収まらぬデライラさん。
窓の外には、王都を示す『世界樹の若木』が見え始めていたのだが、それに気付くのは少し後になるのだった。
「銀のつばさにのぞみを乗せて、灯せ平和の青信号、ラケル特急アースリザード! 定刻通りにただいま到着!」
「いや、のぞみは心情だとして、銀のつばさも青信号もなかっただろ。……後、定刻だと昼過ぎだったけど、昼前に着いたな」
「細かい事はいいのよ」
「二人とも元気だね。ようこそ!ロニアへ!」
俺達は王都ロニアへ到着した。
結局、デライラさんとはあまり話せなかったが、経営している商店兼住居へ招待を受けた。
そのデライラさんは、仕入れた商品の受け取りがあるそうなので、客車の席で別れた。
いつでも来ていいと言ってくれたので、時間があれば向かうことにした。
そして、この俺達にネリーに加えた三人で、入場門へ向かっていた。
荷物を背負った俺達と、ローブを被った文無しネリーは下げ鞄一つ。どちらも、旅の道中とは思えない程軽装だ。
お世話になった護衛のドワーフ達や商隊長にも挨拶をする予定だった。しかし、ロニアに付くなり慌ただしく各所に連絡していたので、邪魔しては悪いと思い、その場を後にした。
この危なかっしい小動物エルフを送り届けることを優先した、というのもある。
「ネリー。あなたの家ってどのへんなの?」
「『世界樹の若木』の方だよ?」
「分かりやすい目印だな…。とりあえず、街の東か」
街の外だが、天を突かんばかりにそびえる『世界樹の若木』。
枝振りからして広葉樹だろうが、とにかく大きい。若木というのも、どうせエルフ換算だろう。
ふと、なにやら門の近くが騒がしいのに気付いた。
「なにかあったのかしら?」
「商隊の影響か?」
「いつもこんな感じだよ?」
「都市が変わればそんなもんかしら」
「こんな門……悪い忘れてくれ」
二人からの上下の別方向からの視線が刺さった。
なにやら騒がしいが、入場の手続きは行われているようだ。その列に俺達は並んだ。
並んでいるのは、冒険者風の集団から、同じ客車で見かけたラケルからの乗客、商人風の獣人など他所多様だ。
俺達の番まで、ネリーの美味しい店情報を聞いていた。
「なるほど、甘味もあるのね…!」
「うん、王都は砂糖も他の都市より安いよー。蜂蜜も栽培してるし」
「俺はキノコも気になるな。だが、一番は……」
「米ね」「米だな」
「二人とも変わってるね」
米の知名度は、珍しい穀物程度だそうだ。なんともったいない、だったら買い占めてしまおう。
「はい、次の方ー」
「二人からでいいよ。わたしはここの住人だから審査も短いし」
「そう?じゃ、ヤマト行きましょうか」
「だな」
その後、ラケルで取った住民票のようなものを見せてから、いくつかの質問をされた。
入場目的や来た手段などだ。目的は一応、旅とした。
まさか、俺達異世界人、元の世界に帰る手掛かりを求めて、『赤のアーテナイ』からの紹介で『緑のユディット』に面会にし来ました。とバカ正直に言えば、長時間拘束コース間違いなしだ。
サイトシーングが無難なのだ。
「はい、問題ありませんね。そう言えば、先程はあのローブの子と親しそうでしたが、ここで知り合ったんですか?」
「いや、宿場街から付き合いだ」
「それから、あの子、幼く見えるけど、エルフの大人女性だから子供と思って対応しちゃだめよ?」
「なるほど、助かりました。…ようこそ、王都ロニアへ。お楽しみください」
真面目そうな職員の人だった。俺達は、一足先にロニアへ入場した。ラケルとも違う石畳の街だ。住居は木製が多い気がする。
「はい、次の方ー。では、頭のローブは外して頂けますか?ご婦人」
「はーい」
「…………………女王陛下…?」
女王陛下?俺達は、何か聞き違いだろうと後ろを振り返った。
「はーい!コルネリア・ユグドラシル帰ってきましたー!」
名字は王族、皇族にのみ残る文化。そんなことを背中を冷や汗でじっとり濡らしながら、思い出していた。




