91.友と共に。古の恋物語④。
「いやー、さっきは大変だったね!いつもは門番の人たちが大騒ぎする位なんだけど、商隊の人まで血相変えて駆け付けるからびっくりだよね」
「一番ビックリしたのは私達よ」
「一歩間違えば誘拐犯だったんじゃないか、俺達」
「えー、大丈夫だよー。大袈裟だなぁ」
現在、王都を進む馬車の中、対面には無邪気に笑うネリー…敬称略。
この世界の動物はどれも俺達の世界のそれより、大型になっている。馬も例外ではなく、石畳を叩く規則的な音は、車内にも聞こえてくる。揺れも少ない、車窓から見る景色は緑豊かだ。少しだけ、落ち着いてきた。
正直なところ、まだ混乱の最中だと言っていいだろう。あの後、そりゃもうえらい騒ぎになった。
商隊長は、女王陛下に客車で待ってるように言ってたらしい。……俺達がさっさと連れ出していました。
入場門付近では、それらしい人物を探して大騒ぎだったそうな。……その隣を雑談しながら行列を進んでました。
そして、当の女王陛下は二人の旅人と一緒と分かり、関係者大集合。……囲まれたところにエルフ王宮からの迎えが来たが、俺達を同行者に指名。
まぁ、ツーアウトってところか。
その女王陛下を小動物呼ばわりしたことは、ノーカウントでお願いします。
「そもそも、『女王陛下』ってなによ。ネリーはエルフでしょ?」
「フッフッフ、言ったでしょ?『エルフ達と人間が手を取り合って、都市として再建した』って。なにこを隠そう!この都市には王が二人居るのです!人間の王とエルフの女王の二人が!」
「じゃあ……そのエルフの女王ってのが、ネリー、でいいんだよな?」
また、とんでもない人物の気まぐれにに巻き込まれたのか。ラケル以来だから、一ヶ月ぶりか。あれ、頻度高いな。
「え、違うよ?」
「「違うのかよ!?」」
じゃあ、何なんだ一体…!
「もう退位して100年くらいで、公式の場では先代が付くよ。もしくは、コルネリア女王陛下。長いから、親しい人はネリーでいいよ、って言ってるの。今の女王はわたしの娘、とっても可愛いフルリスちゃん!」
そう言えば、終身女王でない国は退位した女王も変わらず『女王陛下』、と呼ぶのだった。日本風に言うと上皇、か?
今の女王ではないが、女王陛下ではある。ややこしいな。
「ちなみに、話し方はこのままでいいのか?女王陛下この野郎」
「一応、畏まった作法も取れるわよ?女王陛下バカ野郎」
呆れ気味な俺達は、つい態度も雑になってしまっている。
不敬罪がないことを祈るばかりだ。
「えー、ネリーって呼んでくれないと寂しいよ!……もしくは、ネリーお姉ちゃんでもいいよ?」
「お断りだ、ネリー」「お断りよ、ネリー」
「うんうん!恋の話をしたらもうお友達、だもんね!」
ネリーの謎のマイルールによって俺達はこれからもネリーのお友達、らしい。
「そう言えば、ネリー。あなた自分で『難民だったエルフ達』って言ったわよね?それなのに、女王なの?」
「うん、そうだよ。生き残ったエルフで、王家の血を引いてるの、わたしだけだったし」
「どういう事だ?」
「だって、エルフ本国ってもう滅んじゃったもん」
ネリーは何でもない事のように、そう言ってから、また語り始めた。
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エルフの国の外、響く歌がある。それは、上達したエサルカの歌だ。
今は、その歌に立ち止まり、耳を傾けるものも居る。変わらず、入国の許可は下りない。
だが、エサルカに焦りはない。伸びやかな歌、その恋を歌うエサルカが思い浮かべるのは、一人の少女だ。
……コルネリア、どこかで聞いて居てくれるだろうか…。
出会いから5年。コルネリアは、あれからほぼ毎日来ていた。歌い方を教え、時に共に歌う日々。
あるいは、互いの知ることを語り合い、持ち寄った同じものを口にしたこともあった。
思えば思う程、エサルカの歌は上達した。
会えない日もあった、その日はこの歌だけでも、とその思いを込める。また、立ち止まるものが増えた。
……いっそ、いつまでもこの日々が続けば。そう、いつの間にかエサルカは思ってしまっていた。
「……いつまでも遊ぶことは許さない……か。……あーあ、生まれてから初めてのお父様の言葉って、もっと素敵なものだと思ってたのになー」
コルネリアの父は、エルフの王であった。エルフらしい男だ、何事も無感情で無頓着。
複数の妻を持っているが、子が出来ると通わなくなる。子孫を残す行為としか、見ていないのだろう。
そして、コルネリアの母は、早くに亡くなったそうだ。その事について、とくになんの感慨もなかった。
そう、エサルカに出会うまでは。
様々な話をした。その中でも、家族の話をするエサルカは、コルネリアにとって特別だった。
輝いて見えたのだ、その瞳が、その思い出の中の日々が。
今まで、様々な芸術に触れた。時に、家族や思い人をテーマにしたものもあったが、それらに対して技巧や技術以外になにか思うところは無かった。
なのに、エサルカに出会ってから、それらの見方が変わった。
技巧は未熟、技術はより上位のものがあるにも関わらず、心が動いた。憧れ、焦がれ、嫉妬さえした。
コルネリアは、生まれ変わりつつあった。
しかし、五年、少女の優秀さで見逃されていた少々のお転婆、脱走は今日、注意を受ける形になった。
まだ、閉鎖や封鎖をされた訳ではない。なのに、足が動かなかった。
王の命令であった。逆らうことなど、許されない。
「……ああ、会いたいな…」
王の娘、エルフの姫、ただの少女は、月夜に歌った。共に歌った、恋の歌。
今は、響き合うことはない。




