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【学園編開幕】異世界快進劇 ヤマトナデシコ ~超人カップルにとって、異世界転移は旅行同然!帰るまでが旅行です~【現:二章三節】  作者: 沢クリム
『緑ノ章 愛歌のロニア』 第一節 出会いは狂騒曲

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92.古の恋物語⑤。夕日の瞳と海色の目。



一週間が経った。

それは、エルフにとって瞬きに等しい。だが、コルネリアにとって永遠の獄にも等しかった。

機能的に、日々をこなす。教えられる事は単純で、習得は容易、賛辞には微笑みを返す。なんの問題も起らない。

窓辺を見る。夕日だ。海岸が懐かしい。自分の瞳によく似たあの夕日は、海岸線に沈んでいくのだろう。なんて羨ましい。羨ましくて、カーテンを閉じて、背を向けた。


「コルネリア!俺だ!」


窓の外から、声が聞こえた。聞き間違える筈がない。駆ける。身体操作など、失敗する要因もない、それでも一度つまずきながら、窓辺にたどり着く。カーテンを開ける。居るはずない者がいた。


エサルカだった。一般的な市民の服を着て、耳元を隠すローブを身につけている。

無意識の内に、窓を開ける。

そして、見上げた。

屋敷の外と中、夕日が外の男の金の髪を照らし、影の中にいる少女にとって、それはとても眩しかった。



心の中で、いくつもの言葉が浮かぶ。

嬉しい、会いたかった、なんで、どうして、どうやって、誰かに見つかったらどうするの、もう会えない、もう会ってはいけない、帰って、あなたに危害がおよぶかもしれない、わたしを見て、わたしを見ないで、わたしの声を聞いて、わたしの声を聞かないで、わたしのそばにいて、わたしのそばからはなれて。

だが、瞳から零れる涙とともに、出た言葉は、



「………たす、けて…」

「分かった!」


すぐに抱きかかえられて、ローブに包まれた。靴も履かされ、小脇に抱えられる。

エサルカは駆けだした。

その時、コルネリアは確かに、見た。泊まり込みの世話人が、こちらに頭を下げるのを。


街を駆ける。時に隠れ、時に待つ。

しかし、ある時、偶然にも市民に見つかった。

だが、その視線は何もなかったように反らされ、早くいけと言わんばかりに、街の外を向いた。

そんなことが複数回あった。そして、街の門扉まで来た。


「止まれ!」


衛兵だった。エルフでも精鋭。10年前、男を笑っていた張本人でもある。

エサルカは止まらない。慌てたのは、コルネリアだ。エサルカに視線を送る。


「……大丈夫だ」


小さい声で、囁くように視線に答えた。コルネリアは、その言葉を信じる。

それでも、視線だけはその衛兵に送る。衛兵の杖には魔力が集中する。

人体に穴をあけるのに十分過ぎるほどの力は収束し、明後日の方へ飛んでいった。

その隙に、エサルカはその横を通り過ぎた。

その時、コルネリアは、衛兵の口角が上がったのを見た。


海岸の洞窟にやって来た。出会いの場所であり、二人の5年間の場所だ。


「……エサルカくんは、凄い魔法使い、だったの…?」

疑問が勝った、ここまでエサルカは一度も魔力を使っていない。なのに、何事もなく、都合が良すぎるほど、あっさりと街の外に来れた。


「……教えてくれたのは、コルネリアだ」

「え?」

「俺は、もう5日、あの歌を歌っていない」

「えぇ!?」

異常事態だった、10年間止むこと無かった歌が、止まっていたのだ。


「代わりにコルネリアを呼んでいた。歌に乗せてな。今まで、二日も間を空けたことがなかっただろ?だから、心配になってな」

「……わたしは、毎晩、あの歌を歌ってたの……」


貴方の全てを愛する。

心が張り裂けそうな思いも、愛おしく感じる。

出会う為に生まれ、別れるならば死んでもいい。

そんな歌詞を。毎晩。コルネリアは、うなされるように口から溢れて止まらなかった。


「……だからだろう、今日の朝、屋敷の使用人が俺を訪ねて来た。『お嬢様を助けてください』と」

コルネリアの目は驚愕に、見開かれた。

「そして、警備の衛兵もな。……歌詞が変わって歌が下手になった文句だったが、協力を約束してくれたんだ。歌を好きだという人から衣服をもらった」

「……じゃあ……」

「魔法なんか使ってない。でも、俺達の歌が、助けくれた。助けてもらったんだよ、コルネリア…」

「…あ、あぁ……みんな……」

二人で涙を流した。心動かされた者は、多くいたのだ。

抱きしめ合った。偶発的な接触を含めなければ、それは5年間で初めての抱擁だった。


満たされた、心の中で温かいものが。心地よかった、なにより求めたその体温が。溢れる涙がさえ、愛おしい。



「ここから、旅に出よう。コルネリア」

「……エサルカくんの、お父さんの遺灰は?」

「いいさ。元々、居場所がなかった俺が、唯一頼れるのが、親父の故郷だっただけなんだ。ここは、盗賊も魔物も出ないから、しばらく居着いてしまった。だけど今は、コルネリアの隣が俺の居場所だ」


エサルカが微笑む。その微笑みは、コルネリアの心臓を酷く高鳴らせた。


「うん!居場所になってあげるから、ずっと一緒に居てね!」

「ああ、約束する。この生涯を、コルネリアに捧げよう」

「もうエサルカくんてば、格好いいんだから!」

「お前は可愛いよ、コルネリア…」

「エサルカくん………いいよ?」

「…コルネリア」


その二人の唇が重なるのを、夕日が見ていた。

まるで、見て要らないと言わんばかりに、すぐに海岸線へ沈んでいった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「あ、ここからは、ダメだよ。二人とも、まだ子供なんだからね!」

「……察してしまうから止めてくれ」

台無しだった。情緒もなにもない。おかげで、零れかけの涙も引っ込んだわ。


「うぅ…グスン……よかったわね…ネリー…」

「えへへー、ナデシコちゃんの話も後で聞かせてね?」

「うん、わかった…」

ナデシコは、ネリーの隣に移って、その頭を撫でている。どうやら、ナデシコには深く刺さったらしい。



そうか、じゃあ、俺がツッコむしかないのか。冷笑系のそしりをうけるかもしれないが、仕方ない。


「いや、エルフの国が滅んだ話はどこ行った?」

「急な話だったから、次の日にまたお屋敷に侵入して色々持ち出たの。

 ついでに『世界樹の苗木』とか国宝みたいなものも、もらってね。

 怒ったお父様が歌とか芸術とか禁止にしたら、エルフの若者みんな大陸に逃げて、国民半減。

 そのエルフまとめ上げたのは何を隠そう、わたしとエサルカくんなのです!」

なにその建国記。得意げに言ってるが、簒奪者なのでは?


「で、エルフの国が滅んだ話は?」

「しばらくしたら黒竜がエルフの王国の近くに出現して、禁足地になっちゃった」

「なっちゃったんだ」

「うん!でも、わたしが居なかったらエルフ全滅してたから結果おーらい?」

一つの恋が巡り巡って世界を救ってる、のかもしれない。


窓の外をみれば、『世界樹の若木』は随分近くまで来ていた。



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