79.夢は騒がしい。残される『もの』。
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これはある日を境に時々見る夢だ。
時刻は、恐らく5の月2日の明け方。夢の中に時刻があるのかは分からないが。
手には日本刀を握っている。
俺の手を飛び出し、それはたちまち少女の姿に変わる。
現れるのは、桜色の髪をした少女。黒い羽織には桜の花びら、赤い着物には桜の花。
手には、ハリセン?
「……一晩を明かしたのだった、ではないわ!?」
跳躍して繰り出されるのは一閃。狙いは俺の、頭頂部。スパーン、と小気味のいい音がする。
「痛ッ…くはないが、何すんだ、『姫桜』」
「妾の台詞じゃ!何であそこから、何もしない選択になるじゃ!?」
この血走った目で地面にハリセンを叩き付けたのは、『姫桜』。
自称、俺が持っている日本刀『姫桜』の人格の具現化した姿。
「?」
「国民的ゲームのキノコとか出すブロックか、お主は!?」
言動に神秘性のかけらもないが、呪いから生まれた存在で、普段は日本刀『姫桜』から外の世界や俺の事を見ているそうだ。
その呪いとは、毎夜毎に歴代所有者やその者が斬った写し身が、現在の所有者を夢の中で殺し続ける。
そのことは、目が覚めると覚えていない。夢の中の出来事、ということになるようだ。
だが、夢の中で殺され続けた者はいずれ、狂ってしまう。『姫桜』は、その様子を決して語ろうとしない。
「落ち着けよ、話題が脱線してるぞ?まずは冷静に話し合おう」
「……聡くないヤマトに、諭されるとは屈辱じゃ…」
「遠回しにバカって言ったかオイ」
しかし、俺がその全て、歴代所有者とその者達が斬った存在の写し身を夢の中で斬ったら、呪いが弱まったらしい。
今は週一くらいの頻度で、夢の中に連れ込まれ、『姫桜』が再現した『敵』と戦ったり、このようにおしゃべりしている。
ただ夢の中で戦うと、身体を動かした記憶が無意識下へフィードバックされ、代償に起きたときに少しの疲労感を覚える。
呪いが弱まった今も、起きたら記憶が消える仕様は健在で、起きている俺の小さな悩みの種になっている。
「男女が一つ屋根の下、昼間の身体のほてりが残った状態、何も起きないはずはずも………なかったんじゃがなぁ……ハァ……」
「何よりじゃないか。俺達にはまだ早いだろ、色々と」
「これでは、いつ、『やや子』が見れるか分からぬわ……」
『姫桜』は疲れたように肩を落とす。
このおせっかい刀は、俺達、俺とナデシコの事をくっ付けようと躍起になっている節がある。余計なお世話である。『やや子』、子供の顔を見せろとうるさい。
「……そう言えば、なんで『姫桜』がそんなに俺達の事を気にしてんだっけ?」
「む?語った事無かったかの?良かろう、とくと聞くがいい」
「へいへい」
胸を張る『姫桜』。小さい子供の姿だから微笑ましいが、刀自体は数百歳じゃなかったか。
刀の所有者が居ないときは、意識がないらしいから、実はこの見た目が年相応なのか?
「まずは恩返しじゃな!」
「恩返し?」
「うむ!妾に『姫桜』という名を与え、拵えを整えてくれたナデシコ!妾の呪いを週一のスポーツジムくらいまで弱めてくれたヤマト!この二人にじゃな!」
「自分の呪いの例えにスポーツジムはどうなんだ?」
元々、『姫桜』はナデシコの祖父が買ってきたものだった。それを色々あって俺がもらったのだった。
ちなみに『姫桜』の所有者判定は一定の力量を持って『姫桜』振ること、らしい。
以前の所有者は、少なくとも近代ではなかったのだとか。
「いや待て、どうして俺達がくっつくのが、俺達への恩返しなんだ?」
「だって、お主達、両思いなのに全然進展しないではないか」
「いや、俺達のペースでやってるからさ…」
「その結果が、初めての口づけまで10年じゃぞ?お主らでは、亀はおろかカタツムリにも周回遅れじゃ」
「………そこまで?」
「妾は日々、ヤマトを現代の知識を得ておる。その基準から見ても遅いわい。早さが足らぬわ」
「はいはい、寝てる間は覚えとくよ」
まぁ、起きたらこの小言も忘れるんだが、『姫桜』としては一言、言わないと気が済まない、ということなんだろう。
それに、つい最近だが、この夢の中の事を思い出す機会もあった。
それにピンチを救われたこともあったんだが、………ナデシコと二人の時にコイツの小言を思い出すのは勘弁したいな。
「うむ、次の理由じゃが……むぅ…」
「どうした?」
「……これは、妾の事情じゃが、出来れば『次代』を見てみたいのじゃ…。妾は、『その後』も残り続けるじゃろうしな…」
トーンダウンした『姫桜』へ、『どの後』か、質問しないと分からない俺じゃない。
俺は、俺とナデシコはいずれ居なくなる。『姫桜』を残して。
だけど、あくまで軽く流しておこう、俺が気にすれば『姫桜』も引きずるだろう。
「ま、そこは安心してくれ。現実時間で1年間の付き合いだ。そうそう手放したりしないさ。俺もナデシコも、未だにガキの頃のおもちゃを捨てられない性分だ。俺達の子供が生まれたら、きっと同じように物を大事にするだろうさ」
「そうか、少し安心したわい。……ん?今、妾をおもちゃ扱いしなかった!?」
「……ああ、そこは宝物に変換しといてくれ」
「出来るかァ!?そこに直れぃ!!」
その後、『姫桜』の怒りのハリセンは何度も俺に振り下ろされることになるのだが、便利な言葉で締めさせてほしい。
以下略。




