77.日記で分かる。ラケルの日々。
俺がナデシコを好きになったのは、いつからだろうか。
出会いは、はっきり覚えている。
ひとりぼっちで泣いている女の子、名前も知らない顔も分からない、そんな女の子に声を掛けた。
理由は、なんとなくその事が嫌だった。そんな曖昧で、感情的なものだった。
そこからは、追いかけっこ。追いついたと思っても離されて、また追いついて。
身体には疲労が満ちていたし、あちこち痛かった。
それでも、足は止まらなかったし、前へ進むことを選んだ。
実は、そこからの記憶は曖昧なのだ。
いつの間にか、追いついて、何か聞かれて、それに応えて、泣いた女の子を慰めて……。
そして、手を繋いで夕日の中を歩いていた、俯いた女の子の顔もよく見えなかった。
『またね』、そういったのは俺だった気がする。
そして、返って来た『またね』。
ああ、そう言えば、同世代の女の子を可愛いと思ったのは、アレが初めてだった気がする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私、異撫椎子、あだ名はナデシコ。
世界記録なんて朝飯前に更新できちゃう普通の女子高校生。
そんな私の婚約者、普通の男子高校生、朱谷纏と一緒に異世界に迷い込んじゃって、さあ大変!
私達高校生活を取り戻す為に、現実世界に帰らなきゃ!
聖龍歴500年3の月28日。
右も左も分からない森の中、森の熊さんをブッ飛ばし、人助け。
この時助けたアメリアちゃんはとってもいい子。その家族のみんなにも凄くお世話になったわ。
丁度お祭りの最中だった街に着いても、勘違いで2mの女ドワーフに絡まれちゃったりしたわ。
その女ドワーフ、アーテナイとも結局喧嘩になっちゃったけど、超辛勝。とっても仲良くなっちゃった。
この日の夜の事は割愛するわ。ゼッタイに忘れないから、書くまでもないでしょ?
聖龍歴500年3の月29日。
次の日の賠償金が発覚して、グルメバトルはグダグダで引き分け。その後は、みんなで宴!
アーテナイは街のみんなのケツをしばいてたわ。
仮面の達人、一体何者かしら?
でも、その日は帰還のための収穫もあったの。
一つは、この異世界から見て、まるで『異世界』のような場所。迷宮の奥地にあるらしいわ。
もう一つは、この世界最高の知識を持つエルフ、ユディットの紹介。
アーテナイは、七天将星っていうこの世界の英雄で、ユディットもその一人みたい。王都に居るらしくて、アーテナイは自分よりマイペースなんて言ってたけど、大丈夫かしら。
後、この日の夜の事も割愛で。アーテナイとの約束は忘れないわ。でも、お風呂の事は忘れなさい。いいわね?
聖龍歴500年3の月30日。
アーテナイとご飯を食べたり、でっかいトカゲをブチ殺したり、私にツバサが生えたり、ヤマトが頭ピンクになったり大変だったわ。
この日の夜は、書けるわ。ご飯食べて、説教されて、銀行口座をつくったりしたの。
思えば、この日からこの世界の大人達からのお叱りが増えたのよね。
でも、みんな私達の事を思って怒ってくれてるから、ますます大好きになっちゃう。
一応反省してるのよ?つい、楽しい方を選んじゃうだけで。
ここは見せられないわね。また怒られちゃう。
聖龍歴500年4の月1日。
お祭り最終日ね。日数換算で、16歳の誕生日。
この世界も一年365日らしいし、私とヤマトの誕生日はこの日って事にしたわ。
すっごく大事な約束をしたの。来年は私から言うから覚悟しなさい!
他には、ご飯食べたり、仲良くなった友達の冒険者から誕生日プレゼントもらったり、街の中で空を飛んでまた怒られたりね。
ラケルのお祭りは、すっごく楽しかったわ!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……なんというカオス」
「でも、ウソは書いてないわよ?」
今日は、聖龍歴500年5の月2日。
俺達が異世界に来て1ヶ月以上、始まりの街とも言えるラケルから旅立って1日が経っていた。
「というか、日記というには随分、『俺』に読まれることを意識してる、というか……」
「ああ、書いたのは昨日だからね。ヤマトにも読ませる予定だったし」
「これ日記じゃねぇなよな、ナデシコ」
ちなみにヤマトは俺のあだ名だ。日記、というか書き物の持ち主はナデシコ。
「ふふ……あ、ごめんなさい。邪魔するつもりはなかったのだけど…」
「いえ、こちらこそ騒がしくして、ごめんなさい」
「気を付けます」
今は、王都ロニアへ向かう客車の中だ。
対面で二つの長椅子、四人掛け席で1ブロックを形成している。
窓際にナデシコ、その横が俺。ナデシコの対面に座っているのは、品のいいおばあさんだ。
この世界には、エルフやドワーフ、獣人もいるが、目の前のおばあさんは、人間で間違いないだろう。
「じゃあ、お互いに遠慮なし、ってことでいいかしら?敬語も要らないわ。私はデライラ、明日までよろしくね?」
「うん!よろしく!私はナデシコよ」
「俺はヤマト。よろしく頼む」
デライラさんと俺達は軽く握手を交わす。ちなみに、異世界でも多くのボディランゲージが共通していたりする。
言葉が通じるのは、『翻訳』スキルがある、という解釈をしている。
だから、たまに通じなかったするし、俺達が思い浮かべたものに限りなく近いが、微妙に異なるものがこの世界では同じ呼び名だったりする。
「それにしても、よかったわ。二人が仲直り出来たみたいで…」
「「?」」
一体なんのことかと、二人で首を傾げる。
「あら、違ったかしら?昨日は午前中は、席に居なかったし、午後から席に着いたと思ったら、二人とも視線も合わせないんだもの、何かあったとは思っていたのだけど……初対面だし、ねぇ?」
「「あ、ははは…」」
曖昧に笑う事しかできない俺達。
そして、俺は昨日のことを思い出していた。




