番外 冒険者とヤマトナデシコ 完
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「ん?なんだこりゃ?」
ヤマトとナデシコが森へ向かった数日後、冒険者ギルドである張り紙を見る男がいた。
その強面の男は、ヤマトとナデシコの依頼文を手伝った男でもある。
冒険者ギルドは、冒険者に対して様々な情報を開示している。
それは、事故などが起こった危険地帯だったり、魔物の目撃情報であったりと様々だ。
危険地帯への運搬や、魔物の素材採取に役立てたりと冒険者はその情報を活用する。
ギルドに立ち寄った際に、それらを確認するのは、冒険者の基本である。
そして、見ていた張り紙の内容はこうだ。
魔物の巣窟の発見情報。
現在、殲滅済み。討伐者、一部冒険者とラケル親衛隊見習い扱いの戦士。
その周辺に殲滅前時点で巣窟から出ていた蛇型魔物の出現の可能性あり。
有毒の『ベノモススネーク』も確認されているので、解毒剤の携帯をいつも以上に推奨。
他は場所の簡略図と日付が乗っている。
「これ、アイツらが行った場所と日付が一緒じゃねぇか」
彼にとって、二人は世間知らずの金持ちの子供だった。
「なるほど。相当な実力者が同じ日に森に居たのか」
無論、その二人が発見者と討伐者も兼ねているとは思わない。
「まったく、運がいいのか悪いのか……。ま、今度会ったら大丈夫だったか聞いとくか…」
その後、なんだかんだ世話好きの彼は、残念ながら冒険者としては大成することはなかった。
しかし、今回の経験から新人に絡みに行くのをきっぱり止め、迷ってる人が居れば声を掛けるようになった。そして、その面倒見の良さがギルド職員の目にとまり、職員にスカウトされることを彼はまだ知らない。
ちなみにその時、影で付けられたあだ名は『強面だけど親切な人』だったりする。
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「えー、皆さん、飲み物は、行き渡りましたでしょうか?」
「これより『勝手に突っ走るな反省会兼、魔物討伐おめでとう会INピクニック』を始めます」
「「乾杯!」」
―――カンパーイ!
俺達のかけ声にこの場に集った知り合いの唱和がこだまする。
場所はラケル郊外、牧場のほど近くだ。
この世界では、魔物の発生しない安全地帯が点在し、そこに農村や牧場が作られる。
今日ばかりは魔物ともトラブルとも無縁、のはずだ。
前に大型魔物と戦闘になったのも同じく安全地帯だったはずだが、そこからは目をそらすことにする。
「おにーちゃん、おねーちゃん……まだ痛い?」
一番に俺達の元に来てくれたのは、アメリアちゃんだ。心配げなその表情もまたかわいい。
魔物の巣窟の討伐から帰って来た俺達の負傷を、心配してくれているのだろう。
「ああ、もう大丈夫だ」
「名誉の負傷よ、気にしないで」
「なーにが、名誉だクソガキ共。もう一発行っとくか?」
「「いいえ!反省してます!!」」」
後ろから声を掛けられれば、自然と背筋が伸びた。
そう、俺達の負傷とは魔物との戦闘で付いたものではなく、アーテナイにもらったゲンコツで出来たタンコブなのであった。
「ならよし!……はぁ、本来なら報償ものだってのに、アンタらにかかると一騒動になっちまうだから大したもんだよ…」
「いやー、それほどでも」
「褒められてないぞ、ナデシコ」
昨日、書類仕事を片付けたアーテナイの元に、俺達の戦果が伝わったのは夕方。
駆けつけたアーテナイは最初こそ、俺達の心配をしたものの、『双杖』からの詳しい報告を聞いた後は………まぁ、ご想像の通りの説教と、元気があり余ってるなら修行ってことで、こってり絞られた。
そして、アーテナイの側近、苦労人エルフのシェーヌはこの件の後処理で、冒険者ギルドと協議をすることになったそうだ。そして、今日は支部長との面会だそうだ。ごめんね。今度なにか差し入れよう。
「おにーちゃん、おねーちゃん……しっかりしなきゃ、めっ!」
「「……ごめんない」」
一日越しにアメリアちゃんからも、お叱りを受けることになった。
ちなみに、アメリアちゃんのご両親、カレブさんとシャーロットさんからも、昨日は公衆浴場にて、それぞれお叱りを受けている。
ムチャ、ダメ、ゼッタイ。
「ははは、昨日は魔物相手に大立ち回りをしてたのに、アメリアちゃん相手だと、あんなに小さくなるなんて、なんだかおかしいね、リニー」
「……いいなぁ…」
「リニー?」
『双杖』の二人も今日の集まりに参加している。リニーの様子がおかしいが、それはアメリアちゃん関連だといつもの事なので、ベンに任せよう。アレでも格好いいところはある。
魔物の巣窟の殲滅は、冒険者ギルドとしても功績大の評価なのだ。
そして、冒険者でもない俺達は今回の一件を二人の手柄に、と提案したが、二人はあっさり断った。
やっても無いことで評価されても仕方ない、だそうだ。
結局、魔石の報酬も受け取らず、護衛報酬さえ拒否しようとしたが、そこは押付けた。
「まぁまぁ、皆さん。その辺で」
柔和な雰囲気のこの人は、アメリアちゃん父、カレブさん。
「せっかくのいい天気じゃし、飯を食おうかのう」
今日は以前壊れた車両代わりの新車両を乗り回せてご機嫌な、カレブさんの父、アレクさん。
ちなみに、車両を牽くのはデカいトカゲだったりする。流石異世界。
「今日は何を作ってくれたのかしら?」
アメリアちゃんの母、シャーロットさん。アーテナイにも一目置かれたりする凄い人だ。
ナデシコ曰く、昨日怒られた中で一番怖かったそうだ。
「今日はね。タマゴサンドにハムサンドでしょ」
「あとは、照る焼きチキンも用意した。サンドイッチパーティーだな」
俺達には、『翻訳』という俺達の言葉をいい感じに訳してくれるスキルがある。
それによって、パンに挟んだ料理も『サンドイッチ』で通じるのだ。
「へぇ、美味そうじゃないかい」
「おいしそー!」
「私は昨日無かったタマゴとハムのものを食べようかしら?」
「ボクは昨日の照り焼きをもう一回食べようかな」
それからは、俺達には珍しく平和に過ごした。飲みものを飲み、ご飯を食べ、アメリアちゃんと遊び、その遊びに本気になったナデシコを追い回したりと、気の抜けるほど平和な一時だった。
やがて、俺達は木陰で涼みながら、草に身体を預けたまま、枝葉の擦れる音を聞いていた。
そして、やがて瞼が重くなり、一時の眠りに落ちていった。
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「……こうしてると大人しいもんなんだがねぇ…」
「……ええ、そうですね…」
木陰で眠る、アメリアとヤマトとナデシコ。それを見下ろすのは、アーテナイとシャーロット。
その語らいは小声で、優しげだった。
『双杖』の二人は、少し離れた別の木陰で互いの腕を絡めてなにか語り合っている。
アレクとカレブは車両の点検、という名の趣味の時間だろう。カレブは父の付き添いだ。
「…ったく、そろそろ教えようと思った『節約』と『溜め』もいつの間にか覚えてくるし、目の離せない連中だよ、全く……」
アーテナイの指は、二人の髪を梳く、その手つきは柔らかで表情は穏やかだった。
シャーロットは、その様子に少しだけ驚いた。しかし、同時に母親としての共感を覚えていた。
ラケルで語られるアーテナイの話は、勇猛果敢そのものだ。
ラケルは、活性状態の鉱山の魔力に惹かれ魔物も周辺に多く出没する。冒険者でも緊急の対処が厳しい時には、アーテナイ自ら出陣することもある。
その時はお祭り騒ぎだ。人々は英雄の活躍を語り、乾杯をアーテナイに捧げる。
しかし、今の様子は、まさに……。
「……早いとこ、アタシに一撃入れてみな」
「「……ううっ」」
二人の額を起こさない程度に指で額をぐりぐりと押す。
そして、二人はピッタリと同じタイミングでうなされる。
その様子に、シャーロットは苦笑して、アメリアの頭を撫でる。
「…えへへ……すぅ……」
嬉しそうな我が子を、シャーロットは愛おしく思う。
そして、同時に感謝する。この子の命を二度に渡り救ってくれたヤマトとナデシコに。
………ああ、きっと、この出会いに恵まれた私は、世界で一番運がいい。だから、この幸運を二人と、きっと再開を待ち望む二人のご両親にも分けてください。女神様。
シャーロットは、穏やかな時間の中、異世界を冒険する事になる二人の幸運を祈るのだった。
これにて、『間ノ章① あかいおまけ』完結となります。
次回、『緑ノ章 愛歌のロニア』にもお付き合い頂けると幸いです。
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