番外 冒険者とヤマトナデシコ 7
「…言っておくけど、本来依頼人に戦わせるなんて、あってはならないことなんだからね?」
「…ボク達だから、二人だから、今回は例外ってこと、忘れないでね?」
「分かってるわ!…じゃ、危なくなったらよろしく!」
「『双杖』で倒したってことにしといてくれ」
俺達の視界の先には、先ほど倒した『ベノモススネーク』に似た『ブラウンスネーク』が居る。
この蛇型魔物、『ベノモススネーク』の下位種らしく、毒はないが、大きさは5m程で、俺達が知る蛇より太い。
野生動物はおろか、人間すらひとのみだろう。
前線は木刀を手にした俺。その後ろにナデシコは控え、『双杖』は万が一のフォローと周囲の警戒を頼んだ。
最初に発見したのは、ナデシコ。そして、先ほどの講義の実践をしたいと言ったのは俺。
二人は渋々了承してくれた。
『ブラウンスネーク』は、まだこちらに気付いていない。
俺は先ほどの講義、魔力の制御、について思い返していた。
魔力の制御、それは単純な『節約』と『溜め』。
まずは『節約』。
ペンを拾うのに、重量上げの如く力を入れる者はいない。
つまり、魔力を使うとは、この世界にとっては日常動作のひとつに過ぎないのだ。
逆に俺達にとって、魔力を使うとは、競技に挑むような緊張感と、戦いに結びついたものだ。
常に全力、故に緩急もなく、単調。
最大球速が同じでも、常に同じ速度のピッチングマシンと緩急を付ける投手、どちらの球を打ちやすいか。
無論、ピッチングマシンだ。タイミングさえ覚えれば、MAX160kmでも打てる。
『節約』は、常日頃から使ってる異世界の人間からすると前提。
戦いの場に合っても、常に全力ではガス欠を起こす。
しかし、俺達は、常に全力でも魔力切れを起こしたことがなく、アーテナイとの修行では、体力や時間の方が先に限界にきてしまうのが常だった。
それを話した時、『双杖』には呆れられたものだ。
では、込める魔力の大小で緩急をつけ、『節約』をしたとしよう。
それで、アーテナイに届くのか。否だ。多少、翻弄程度にはなるだろう。しかし、まだ足りない。
だからこそ、一時的にでも自身の全力を越えることが必要になってくる。
『溜め』がここで出てくる。
魔力を循環させ、圧縮し、打ち出す。
実は俺達は、コレを一度見ていた。
それは、『双杖』の二人が、アーテナイに挑んだ時だ。
あの時、リニーは魔力を『節約』しながら数でアーテナイを牽制し、ベンは魔力を『溜め』てアーテナイの木槌にヒビを入れる結果を生んだ。
アーテナイに挑むなら、『節約』と『溜め』、この二つが出来ることは前提だ。
身に付けて当然、使いこなせてスタートライン。
だから俺達は、今日、ここで身につける。
改めて、魔物に向き直り、少しだけ魔力を高める。
魔物は、肉の身体を持たず、その身は魔力で構成される。
そして、魔力ある生物を襲ってくる現象に近い存在、魔物は俺達に気付いた。
本来の蛇なら、威嚇や逃げることで生存の可能性を高める、戦闘とはリスクなのだ。
だが、魔物『ブラウンスネーク』は違う。
俺に向かって真っ直ぐに襲いかかってくる。這い回る事そのものがフェイントになっている。
接近を許した、その顎の二本の牙は鋭利。
「まずは半分、くらいか」
木刀に込める魔力をいつもの半分くらいに調整した。そのまま横に薙げば、『ブラウンスネーク』は近くの木まで飛ばさされた。
「シャー!!」
魔物に脳振盪はないらしい。初めて鳴き声を上げた『ブラウンスネーク』。残念なことに、俺が打った方の牙が折れている。そのことに動揺する魔物ではない。構わず、俺に向かう。
「じゃ、3割………2割……1割…5分。これくらいだな」
意外と力加減が難しい。力を込めすぎれば、吹き飛ばしてしまう。それでは訓練にならないので、徐々に力を落としていく。
いつもの5パーセント程度で飛ばさず、手加減が出来るようになった。まだ余裕があるが、あまり落としすぎても、事故が怖い。魔物が脅威とは忘れてはいけない。
『ブラウンスネーク』は、果敢に俺を責める。頭部を使った噛み付き、尻尾を使った下段なぎ払い。
俺の魔力を付与した木刀は折れず、身体能力を強化した状態で打ち込めば、その動きを止めることが出来る。
人外の動きだが、十分に対応出来た。そして、時間稼ぎは十分やった。後ろから立ち上る魔力を感じながら、そう思った。
「はぁぁ……!」
ナデシコンの息吹を感じる。ナデシコが最も得意とするのは、『強化』。魔力による身体能力向上。
その魔力を『溜め』、右手に集約している。
「…ナデシコ。周囲に魔物は居ない。でも、それは強すぎるな。下方向しろよ?」
『節約』は意外な効果があった。冷静に状況を判断出来るのだ。精神的な余裕が出来た故だろう。
「分かったわ…!」
逆に、ナデシコはどうしても力が入っている。やりとりが出来るだけ、まだ判断力は残っている。
込める魔力は一割、俺にとっては少ないが、先ほどまで倍の魔力だ。
『ブラウンスネーク』は不意打ちを受けたように、下段からの打ち上げに対応出来ない。
『ブラウンスネーク』は宙に浮かぶ、その時に後ろに下がる。
代わりに出てくるのは、ナデシコ。視線だけを交わす。…まったく、楽しそうにしやがって。
「溜めて…打つ…!」
技名さえ付いていない、その拳の打ち下ろしは、正確に『ブラウンスネーク』を捉える。
その日、ラケルの森に半径2メートル、深さ5メートルの穴が開いた。




