番外 冒険者とヤマトナデシコ 6
俺達はあの後、『生活魔法』についての講義を受けた。
まず、『可食判定』は書いて字の如くだ。
その食べ物が『自分』が食べられるか判定する生活魔法。
生活魔法に詠唱は必要なく、少々の時間集中すれば『可食判定』が出来るらしい。
俺達は、この世界で食前に祈る習慣を知っていた。
それはてっきり宗教的な意味のみを持つのだと思っていたが、『可食判定』を行う時間でもあったらしい。
しかも、この魔法、殆ど魔力を消費しない。それが今まで見逃していた原因だった。
そして、リニーが今回わざわざ声をかけて来たのは、冒険者は昼飯を急いで食べる傾向にあり、痛みやすい外での食事の際に、声を掛け合う習慣があるからだそうだ。
次に、『飲水生成』は少し複雑だった。
何もない虚空から水を生み出すのではない、雨水や川の水、もしくは汚水でも構わない、なにかしらの水分から人が飲める水を作り出すのだ。
こちらには少々の魔力を消費する。しかし、町中で見かける機会は殆ど無い。
なぜなら、この世界にはすでに上下水道の整備がされているからだ。
蛇口をひねる方が魔力を消費するより容易く、疲れない。
しかし、外で活動するものや、それこそ冒険者は違う。水道がない環境ではまだまだ現役の魔法だ。
冒険者は、魔力に余裕がある者が用意するのが常らしい。
俺達は依頼人なので、当然除外され、ベンが用意するので一声掛けたらしい。
他にも、可燃物に火を付ける『着火』、傷口から出血を止める『止血』。
この世界の住人なら、習わずとも身につけているものだそうだ。
特に、この四つの生活魔法は『女神の慈悲』とされ、信仰に深く結びついてる。
なるほど、この世界で女神が深く信仰されるわけだ。
俺達のように環境に恵まれ、特に意識しなくても生活出来ていたが、野外や放浪の生活であったなら、これらの魔法はあまりに破格で便利だ。
「他にも『洗浄』なんかも、生活魔法の一部ね。あとは、大きく魔力を消費するけど、『増血』………ナデシコ、ちょっと付いて来なさい。…………男共、付いて来たり聞き耳を立てたら殺すわよ?」
二人で森の茂みの中に入って行った。
リニーには悪いが、俺は現代日本で保険体育もしっかり勉強している。
『増血』、女性限定、でピンと来たが黙って居るのがマナーだろう。
そして、戻って来たナデシコは、
「女神様……ありがとうございます…!」
すっかり信者になっていた。
無理もない、以前、ナデシコは『ソレ』についてこう例えたのだ。
『マンスリーでやってくるクソ遅延の内蔵破壊攻撃』、と。
「話を変えるけど、キミ達は今日まで『可食判定』をしなくて平気だったなんて、運がよかったね」
「どういう意味だ?」
「だって、誰かにとっての『可食判定』で大丈夫でも、自分では食べれないものもあるだろう?」
もしかして、アレルギーのことか?
「俺とナデシコはそういうのはないな」
「私達の世界だと……他者の食べれないものを調べられる技術があるのよ」
アレルギー検査のことだ。
医療機関で受けられ、血液検査などで自分が持つアレルギーの種類が分かるのだ。
「なによソレ、魔法と変わらないじゃない」
「そういう世界だったのよ」
「俺とナデシコはなんでも美味しく食べれて好き嫌いもないぞ」
「それはなんとなく分かってたよ。……なるほど、魔法に頼らない世界、か」
ベンはなにやら考えこんでしまった。顎に手を当てて、思案しているようだ。
「たくましいのね。……冒険者向きよ、アンタ達」
「素直に褒められると照れるわね。今日はリニーも頼りになるわ。アメリアちゃんにも言っておいてあげる」
「……言っておくけど、そういう狙いがあったわけじゃないんだからね?」
どうして、こうもツンデレ定型文が似合うのだろう。この台詞はジト目で言ってるのだが。
「あ、なんとなく分かったかも、二人の修行の行き詰まり」
唐突にベンが何か閃いたようだ。俺達の注目がベンに集まる。
「ねぇ、二人とも、アーテナイ様との修行の時、魔力を全開にして戦ってるんじゃないかな?」
「ああ、そうしないと、まともに勝負にならないからな」
「私もよ?常に全力全開は基本でしょ?」
「やっぱり!」
それは、ベンにとって答え合わせのようだった。しかし、リニーは俺達と一緒に首を傾げている。
「何か分かったの?ベン。実に二人らしいのだけど…」
「うん、そうだねリニー。でも、こうは言い換えられないかな、二人は常に一定の出力で戦っている、って」
「……ああ、そういうことね!…確かに苦戦する訳だわ!」
リニーにも分かったようだが、俺達はピンときていない。
「なあ、そろそろ答えを知りたいんだが…」
「ああ、ごめんごめん。詳しくは後で話すけど、一言で言うと…」
「一言で言うと?」
ベンの次の言葉を待つ。それは、思い至れば単純なことで
「キミ達は、魔力の制御を覚えれば、もっと強くなれる!」
俺達の可能性を示すものであった。




