75.この誓いを重ねる
「……おにーちゃんと、おねーちゃんのへやに行ってくるね」
昼過ぎ、眠りから覚めた少女は昼食を食べると、家族にそう言って、元は客室だった場所に向かう。
涙はない、薄く笑みさえ浮かべている。しかし、階段を降りる音は、軽快とは言えない。
今日は、教会での学習もないことが幸いだった。
「……大丈夫かしら?」
「……きっと、大丈夫だよ。ただ…」
元気を取り戻すには、少しだけ時間が掛かるかもしれない。それは言わなかった。
きっと、大人になる階段の途中で、少し立ち止まってるのだ。そして、それは必要なことだと両親は知っていた。
「お手紙の書き方でも、教えましょうか?」
「そうだね。それはいい考えだ」
宛先は、王都の魔法学園でいいのだろうか。
早く両親の元に帰るべきだ、と思うと同時に、もう少しだけこちらに居て欲しいと思ってしまう。
自分の矛盾に苦笑していると、階段を駆け上がる音が響く。
まるで二人が居たときの騒動の序曲のようだ。
「おかあさん!おとうさん!おにーちゃんとおねーちゃんがいた!」
「「えぇ!?」」
思わず立ち上がった。そして、気付いた。アメリアの手の中にあったもの、それは……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「今頃、見つかってるかしら?」
「どうだろうな?……まさか、自分を模した人形を作ることになるとは、さすが異世界」
「いや、異世界関係ないし」
俺達は、貨物車の上で寛いでいた。
最後尾のこの貨物はあまり揺れがなく、林の中は木陰になって心地がいいくらいだ。
「ま、伝言役には丁度いいだろ」
「アメリアちゃん一家には、お礼の手紙と『ぬい』たちね」
俺達は、各個人に当てた贈り物を残していた。お礼の手紙はみんなに。
アレクさんには異世界の車両のイラストを、カレブさんには覚えてる限りの服の三面図。
シャーロットさんには、料理のレシピ。それから、一度返された仮面。もしかしたら、また役に立つ時がくるかもしれないし。
そして、アメリアちゃんには、俺達とアメリアちゃん一家を模したぬいぐるみ。自分の目を作ってる途中で正気に戻りそうだったが、やり遂げた。
「冒険者ギルドの受付さんは、ちゃんと渡してくれたかしら?」
「俺達のファンを自称してたし、大丈夫だろ。……少し苦笑してたようにも見えたけど」
ベンにはリニーの、リニーにはベンのぬいぐるみを贈った。あの二人はもっと匂わせるべきだと思う。
「…アーテナイの屋敷は苦戦したわね」
「というか、思いっきりバレたしな。親衛隊に」
「買収に応じる柔軟さがあって…よかった、のかしら?」
「ノーコメントで」
親衛隊とシェーヌ、文官の皆さんには、より詳しいアーテナイぬいの作成方や、『ぬいさま』用の小物類の作り方をまとめたもの。
シェーヌには、役立ちそうな書式のテンプレを贈った。手書きなので、地味に枚数が多くなってしまった。
他にも、工房長に俺達が知る伝説上の武器をまとめたものなど。
「……アーテナイはどう思うかしら?呆れる?怒る?」
「どうだろうな。でも、アメリアちゃんとおそろいと分かったら……」
「次会うときまでに、強くなりましょう」
「それ、もっと格好いい場面で使いたい台詞なのに」
アーテナイにも、合計6体のぬいぐるみが同梱されてる。
内訳はアメリアちゃんに贈ったものと一緒だ。
アーテナイへの感謝の手紙が一番長くなったかもしれない。
二人、それぞれ書いたが、これまでの振り返りや、その時の心情まで勢いで書いてしまった。
二人合わせて、紙束みたいになってしまった。
「…本当に、次に会うときが楽しみね」
「ああ、全くだ」
帰る前には、もう一度手紙を書こう。
確証もないのに、漠然と未来を思う。
そう言えば、お酒が好きと言っていたのに、俺達との食事の席では飲んだところを見たことがない。
子供扱いは、ずっとされてた。それは少し面白くない。
四年くらい掛かるが、お酌くらいさせて貰えるようになりたいものだ。
「ところで、ナデシコ。誕生日プレゼントなんだが……」
「春休みに二人で買ったやつがあったわね。『むこう』に」
毎年、両家の集まるちょっとしたホームパーティーでプレゼント交換をしていた。
だから、交換は帰ってから、そう二人で決めていた。
俺は自分のポケットを漁りながら、言葉を続ける。
「いや、異世界での誕生日もあっても、いいんじゃないかと思ってな。4の月1日がこちらで誕生日ってことで」
「ヤマトの次の台詞は『これを贈らせてほしい』、ね?」
「これを贈らせてほしい……ハッ!」
いや、何をやらすねん。
「……まったく、似たもの同士ってのも、困りものね」
ナデシコに目を向ければ、ナデシコも小さな革袋を取り出してる。俺も取り出せば、サイズ感まで一緒で驚く。
「せーの、で出しましょうか?」
「いいだろう」
「「せーの!」」
お互いに袋の中身を取り出す。お互いの手にあるのは、銀色の指輪。
「いや、めっちゃ被るやん」
「コントがしたいわけじゃないんだけどね」
どうしてこうなった。ラブストーリーをやらせてほしい、コメディはほどほどで。
「ちなみに俺は、工房長の工房で教えてもらいながら作ったんだが……」
「私はアーテナイの個人工房借りて」
「「アーテナイんちのお泊まり会の時に…」」
たまにナデシコはアーテナイの家に泊まりに行っていた。アメリアちゃんと一緒に。
作ってるタイミングまで一緒だった。
「先行はもらった!さぁ、ヤマト!手を出しなさい!」
指輪を交換する婚約者の台詞か、これが…。
左手を出す。ナデシコは少し動揺した。どうやら、一歩リードしたようだ。
「……薬指は、『あっち』に帰ってから、ね?」
はにかみながら、俺の人差し指に指輪を付けるナデシコ。
見事な上目使いと、笑み。身長差を利用した見事な一撃だ。
顔に血が集まるのが分かる。
「決まったわね?さあ、ヤマトのターンよ?……それとも、時間が必要かしら?」
「………くッ」
勝ち誇った顔だ。クソッ、顔がいい…!
先ほどの動揺で、ツッコミでペースを取り戻すことが出来ない。
ならば、もうヤケだ。
「…………?……!?」
俺は、あえて、何も言わずに指輪を人差し指へ。その様子にナデシコは首を傾げる。
油断したな?……俺は、ナデシコの手を自分の口元に運ぶ、ナデシコは僅かに動揺するが、されるがままだ。
俺は、左手薬指の根元へ口付けをする。
「……ここ、予約したからな?」
もう少し、気の利いた事が言えたら良かったのだが、血液は心臓と顔へ回り、脳が働いていないことが自分でもわかる。
はたして、ナデシコの反応は……。
と、伺おうとしたのだが、俺はいつの間にか、車両に仰向けに倒れていた。
「……え?」
「…………反則負けよ、ヤマトの」
いつの間にやらマウントポジション。俺以上に顔の赤いナデシコは、魔力を漲らせている。
わー、初日の夜みたいだー。……じゃない!?
俺達は、アーテナイの元で修行した。
その結果、様々分野で互角だった俺達は、はっきりと得意科目が出来た。
いや、前置きはいい。
俺が言いたいのは、もう体術でナデシコに勝てない、というこの事実。
「あのー、ナデシコ、さん……?」
「……悪い唇、塞いだほうがいいわよね?」
ダメだ。声が届かない。俺は抵抗を放棄した。
「……せめて、優しく、してほしい……」
「……ッ!」
初めてのキスは、俺から。二回目は、お互いに。
そして、三回目から先、数え切れない程の回数は………。
だが、誓って、絶対に、夜想曲が奏でられる前に終わったと、言っておく。
Q:どうしてナデシコを煽ることを言ったんですか?
A:坊やだからさ
ご覧の小説サイトは、『小説家になろう』です。
決して、『ノクターンノベルズ』ではありません。
次回、エピローグです。(作者)




