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【学園編開幕】異世界快進劇 ヤマトナデシコ ~超人カップルにとって、異世界転移は旅行同然!帰るまでが旅行です~【現:二章三節】  作者: 沢クリム
『赤ノ章 祝祭のラケル』 エピローグ

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76.その英雄は知らない


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ちょいと庭の空気を吸ってくるよ」


ヤマトナデシコの出発日から数日が経った。時刻は昼前。

先ほどから机仕事を行っていたアーテナイは、大きくのびをして文官達に声を掛ける。

以前なら、小言の一つ、釘の一つでももらっていた所だが。


「いってらっしゃいませ、アーテナイ様。……そうですね。皆さん。少し休憩にしましょうか?」

「「はーい」」


シェーヌの声かけをきっかけに、それぞれのびをして、飲み物を取りにいったりしている。

書類書式の統一以降、文官達は随分余裕が出来た。

アーテナイも、思う存分サボ……視察が出来るというものだ。

他の変化と言えば……


「ふふ、今日は帽子をつくりましょうか?」

「俺は斧を作ってるんだけどよ、質感を布で表現するのが難しいんだよなぁ……」

「『柄の部分は木を使うのもいい』と、指南書に書かれているぞ」

「なるほど」


編み物が流行していた。それも『ぬいさま』用の細かいパーツを自作しているのだ。

アーテナイは、すっかり職人顔の彼らを見て、見ぬふりをすることにした。


「……ま、そのうち飽きるだろ」


アーテナイは知らない。

自宅の一角に『ぬいさま』用のスペースが出来、ジオラマのようなものまで出来ること。



「……教会にでも、顔をだすかね」


アーテナイは通りを歩いていた。途中、冒険者ギルドが目に入る。

正確には、そこで騒ぐ物達が。


「だから!コレは売り物じゃないっての!一昨日来なさい!」

「じ、じゃあせめて、作者の方をご紹介……」

「うーん、ダメだね。それに、さ。しつこいよ?」

「す、すいませーん!」

『双杖』の二人が、『ぬいさま』を複数持った男を追っ払っていた。

異世界にも、レアものに目がないマニアが発生していた。


「居なくても、騒動の原因になってるじゃないかい……」

幸い、大事にならなかったようだし、自分にも気付いていないようなので、通り過ぎることにした。


「二人からもらったぬいぐるみ、ボクみたいに宿屋に預けたら?」

「……狭苦しい所に閉じ込めたくないのよ。言っておくけど、別に、ベンみたいに大切にするのが、嫌いって訳じゃ、ないから…」

「……リニー」

「それに、コレを持っていた時に、アメリアちゃんが『おそろいだね』って言ってくれたことに浮かれてる訳じゃないからね!」

「…リニー?」


『双杖』の二人はまだ知らない。

数ヶ月後、Aランクの昇格試験の実績が貯まり、この街を出ることを。

その時に、アメリアちゃんに元気で送り出され、リニーが密かにショックを受けることも。



「あ、アーテナイさま!」

教会の近くで、アメリアから声を掛けられた。


「よう、アメリア、今日は一人かい?」

「みんなとべんきょうしたよ?今日は早めにおわったけど、すこしのこって、準備をけんがくしてたの」

「見学?……ああ、そう言えば、今日は……」


教会の鐘が鳴っている。今頃中では、儀式の最中だ。

今、顔を出したら、混乱を招くだろう。視察は中断だ。


「おにーちゃんとおねーちゃんの時のさんこーにするの!」

「……そうかい。家まで送っていくよ。乗るかい?」

「うん!」

小さな仲人、もしくはコンダクターになんと返したものか、アーテナイは流石に悩んだ。

結局、家庭の教育に任せようと決めた。


アメリアは知らない。

幼くして、アーテナイから一目置かれた人物として、街の噂になっていることを。

ちなみに、アーテナイは知っているが、事実なので放置している。


アーテナイは、頭の上の重みを感じながら思う。

……幼い頃、『人間』嫌いだった自分がここまでこの町の人々を好きになるとは、知らなかった、と。


500年以上前、ラケルは飢餓の危機にあった。魔物被害による食料の枯渇。それに加え、強欲な商人達による、食料の値上げ。

当時の王は決断する。鉱山の一部売却を。程なく危機は去ったが、一部鉱山を手に入れた商人達の行いは筆舌に尽くしがたいものであった。

奴隷による休みのない掘削、搬送。倒れる物は捨て置かれ、動かぬ物は鞭を打たれた。

宿舎という名の家畜小屋は、糞尿と腐乱したナニカの匂いが立ちこめる。

それを見て自慢げに笑う商人は、趣味の悪い香水の匂いを全身から放ち、我が物顔でラケルを闊歩する。


幼いアーテナイにとって、『人間』は自分たちの大地で横暴を働く醜い存在であった。

自分が王になった暁には、『人間』を排除する。そう、誓ったものだった。


幼い頃、アーテナイは自分の身体に嫌悪感を持っていた。身長はドワーフよりも人間に近く、エルフ以上に魔法を使いこなす自分に。

そんなアーテナイの慰めは、『地竜の背びれ』だった。その大地の広大さ、荘厳さに比べれば、その差はちっぽけなもの。嫌なことがあると、街の外でその鉱山を眺めた。思えば、サボり癖はこの頃ついたのかもしれない。

幼い頃から大地を愛した。この土地で生まれ育ったドワーフの皆を愛した。だからこそ、よそ者を嫌った。


偶然だった。今ほど、魔物の侵入対策がされてなかった頃、鉱山へ搬送される『人間』達の車両が魔物に襲われているのを見たのは。


アーテナイは、気付けば走り出していた。当時から、その強さは規格外。しかし、複数体の魔物との戦闘は、無傷というわけにはいかなかった。戦いが終わった後、車両を駆る商人は振り返らない。

それでも、アーテナイの心中を埋め尽くしていたのは、安堵だった。

荷台に載せられた、奴隷達の涙ながらの感謝の姿勢が、その目には焼き付いていた。


幼いアーテナイは知らない。

自分がいずれ、世界を救う英雄の一人になることを。



「邪魔するよ。シャーロット」

「ただいまー」

「まぁ、お帰り、アメリア。いらっしゃい、アーテナイ。ご飯たべていく?」

「そういうつもりじゃ、なかったんだけどねぇ…」

「いいのいいの。今日は急に二人が外で食べる事になっちゃって、困ってたの。……それとも、シェーヌ様に連絡した方がいい?」

「やれやれ、参ったねぇ…」

「いいのいいのー」


気安いやりとりだ。それはなんとも心地いい。アーテナイは、結局二人分をペロリと平らげる。

食後のお茶の飲みながらの一時、雑談に花を咲かせる。


「ごちそうさまでした、っと。そう言えば、アレクとカレブはどうしたんだい?」

「それが、王都の商人に目を付けられちゃって……」

「なに?」

思わず力が入る。身内同然の二人に手を出されたとあっては、アーテナイも黙っていない。


「王都でもユディト様のぬいぐるみを作りたいから依頼できないか、って。今は接待を受けてるの」

「……そうかい。まぁ、なるようになるさね。……飯代だ。困ったことがあったら、アタシが話を付けてやるよ」

一気に力が抜けた。脱力のまま、雑談を続けた。

作業服の需要が落ち着いた今、ぬいぐるみが主力になりつつあることや。やはり、二人の事にも触れた。


「二人とも、元気……程々に、元気だといいわね」

「そうさね…」


シャーロットとアーテナイは知らない。

『仮面の達人』を巡って、謎の料理対決に巻き込まれていくことを。

その突破に、二人の残したレシピや仮面が活躍することも。


「アーテナイさま、またねー」

「おう、いい子にしてな、アメリア」

「たまには遊びに行こうかしら?」

「歓迎するよ、シャーロット」


窓から飛ぶ。その光景も、三人には慣れたものだ。

華麗な着地を決め、上の窓を見上げる。


ヤマトとナデシコが手を振っていた。


「っ!……たく、居なくても騒がしいたら、ありゃしないね…」

いや、見間違いだ。アメリアが、二人の人形を振っていただけだ。


その後、アーテナイは、貯まっていた仕事を片付けた。

食事と風呂を終え、自室で横たわる。枕元には、二人が残した人形達があった。

タオルを掛け布団のように掛ける。ここ最近の日課だった。


「はぁ……いい夢見なよ、アンタらも」


ため息が出た。幼い頃でもやってなかった人形遊びを、500年以上経ってやることになろうとは、当時の自分は知らないに違いない、と。



その日、アーテナイは夢を見た。

そこには、『七星将星』全員とヤマトとナデシコがいた。

その九人で、黒竜に挑み、あっという間に勝利。全員で酒を酌み交わす。

そんな、楽しい夢だった。





アーテナイは知らない。

その夢の一部が現実となることを。



そして、その戦いで不死を失うことを、その英雄は知る由もなかったのだった。








これにて、『赤ノ章 祝祭のラケル』完結となります。

次回、『間ノ章① あかいおまけ』にもお付き合い頂けると幸いです。


現時点での感想や評価、お待ちしています。

どうか聞かせて頂ければ、めちゃめちゃ嬉しいです。

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