74.贈りもの、贈るもの
俺達が乗るのは、ラケルから出発する輸出品の商隊。各宿場町と王都を経由して、大陸各所に行くらしい。
輸出品は多岐に渡り、香辛料や加工肉、武器、各種鉱石を加工した加工品やインゴットなど、ラケルの名産品の数々。
複数のアースリザードが牽く、大型車両からなる一団。王都への到着は3日後の予定だ。
ラケルの精鋭ドワーフ兵、そのカバーに護衛の冒険者も同行している。魔物の出現など、いざという時も安心という訳だ。
商隊の中には、客車もある。そこに俺達の席があるのだが、今日だけは最後尾の貨物車の屋根が俺達の指定席だ。少しでも、ラケルを目に焼き付けたかったのだ。
商隊長も、この一ヶ月で知り合ったドワーフだ。事前に許可も取った。
「アンタら、これも持っていきな!」
「おっと…!」
「アーテナイ、なにこれ?」
出発直前、アーテナイが投げ寄越したもの、指先ほどの大きさのそれは、赤い星を象られた記章だった。
「赤星章、アーテナイ様に挑戦し、勝利した物へ贈られるものですよ。ちなみに、長らく与えていなかったので、アーテナイ様が一から作り直すことになりました」
「余計な事言ってんじゃないよ、シェーヌ。……ま、記念だ、取っときな!」
「ありがとな、アーテナイ!」
「ありがとう!……アーテナイバッジ、ゲットだぜ!」
そこは我慢しろよ、ナデシコ。
アーテナイから受け取ったものは、本当に数知れない。
この異界の空を照らす赤い導きの星。その象徴が、俺達の胸元に宿った。
「みんなー!またねー!」
「行ってきまーす!」
貨物車の上から、皆に向けて大きく手を振る。
先頭車両は走り出している。間もなく、動き出す。
「再会を楽しみにしておるぞー!」
「いつでもおいでー!」
「絶対、無事でお家に帰るのよ!」
アレクさん、カレブさん、シャーロットさんの温かい声。
「かましてきなさい!二人とも!」
「王都もキミ達でめちゃくちゃにすればいいと思うよ!」
『双杖』の二人のからかうような激励。
「王都で父に会ったら、頼ってみてください!お気を付けて!」
シェーヌは一礼する。見送りの時まで、助言とは、性格が出ている。
「ヤマトおにーちゃん!ナデシコおねーちゃん!またねー!ぜったい、またねー!」
ぬいぐるみを抱きしめ、小さな身体から精一杯の声をだすアメリアちゃん。
俺達は、何度も頷き、手を振る。アメリアちゃんを頼んだぞ、ポンちゃん四世。
……ん?いま、ぬいぐるみが敬礼の姿勢をとったような……気のせい、だよな?
「…………」
アーテナイは、言葉を発さない。俺達を見て不敵に笑っている。
ああ、そうだな。続きは、また会ったときに時に語ろうな。
そして、こちらに拳を向けた。俺達は、それに拳を向ける。
受け取ったもの、それは勇気。残していく物、それは約束。
車両は動き出す。徐々に加速する車両は、皆の人影を小さくする。
ラケルの大門が視界に収まった。
「俺達が来たのがこの街で良かった!みんなに出会えて、嬉しかった!」
「ラケル!みんな!愛してるわ!」
「「ありがとう!」」
感謝。それが、俺達がこの都市に贈った言葉だった。
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車両は、あっという間に小さくなっていった。見えなくなるまで見送った。
それでも、まだ手振る少女がいた。
「アメリア……」
少女の母が、声を掛けても、その手は止まらない。
「どうしたんだい?……アメリア」
大きな手が、少女の頭の上に乗る。ヤマトとナデシコにするのとは違い、優しい手つきで。
「……おみおくりのとき、はなかないって、やくそくしたの。でも、やめたら、こぼれちゃうの……」
もう、終わった。そう言える人は、この場に居なかった。
「そうかい。よし!じゃあ、新しい約束、いや勝負をしようかね」
「しょうぶ?」
少女は、アーテナイの方を向いた。勝負、それは二人がよくやっていたもの。手は、思わず止まった、潤み出す瞳。アーテナイはその少女を持ち上げ、その瞳と向かい合う。
「そう、先に泣いた方が負け!勝った方は、好きに泣いてよし!じゃあ!始め!」
「え?えぇー!?」
待ったも、同意もなく、始まった勝負に少女は、困惑のままだ。
そして、気付いた。一筋の涙が、その英雄の瞳から零れたのを。
「あーあ、負ちまった。アタシの友達のアメリアは強いねぇ…」
「……っ!」
その勝者は、火が着いた様に泣いた。
敗者は、自分の衣服が濡れるのも構わず、抱きしめて、その背中を擦る。
やがて、勝者が疲れて眠りに落ちた頃、その母親がやってきた。
ゆっくりと、譲り渡す。
「…ありがとうございます。アーテナイ様。私は、貴方を誇りに思います」
「アンタら母娘には負けるけどね」
「…もう、あまり、からかわないでくださいね?……二人が居なくても、また遊びにきてください。……私も、アーテナイ様を、友人の一人と思ってもいいですか?」
「もちろんさ。シャーロットさん、いやシャーロットには一回、負けてるからね。五分のダチさ」
「わかったわ、アーテナイ。……今までも、今日も本当に、ありがとう」
こうして、一同はそれぞれの帰路に着く、今日という日は始まったばかりだ。
それぞれ、思わぬ物を受け取ることになるとは知らずに。




