72.この都市での日々
「もう、祭りから一ヶ月なのね」
「あっという間だったな」
「……アンタら、よくそんなアッサリ流せるね…」
俺達の言葉にアーテナイはあきれ顔だ。どうしたのだろうか、少し振り返るか。
「まず三日間の奉仕期間の後、改めて私達の誕生日会やったわね」
「未だにどうやったら三日間でほぼ町中の連中全員と知り合いになって、大宴会並みの人数がアタシの屋敷に集うことになったのか、分からないだけどね」
「アーテナイが言ったじゃないか、終わったら知り合い集めて祝おうって」
「限度があるんだよ」
「もう、アーテナイも楽しそうだったからいいじゃない」
それは奉仕期間中、町中を駆け回りあちらこちらで誕生日アピールしてたからな。
でも、参加者の大半がアーテナイとの宴会をしたかったからだと思うぞ。
「その後は、工房に行って、ちょっと演習所が半壊したりしたわね」
「まさか、鉱石の貯蔵庫が壊れるとはな…」
「大事件でしたからね、アレ……」
付与の適正診断や、演習所での試し振りがあったのだが、全開の『桜然閃』で隣の貯蔵庫の壁まで斬ってしまったのだった。
シェーヌも当時は頭を抱えていた。それがきっかけで、シェーヌの事務作業を手伝う事になって、
「まぁ、あの事件がきっかけで書式の統一化に着手出来たと思えば、必要な事でした」
「この一ヶ月で、シェーヌも随分毒されたね」
人を有毒生物のように言わないで欲しい。
ドワーフの書類の書式は工房や部門によってバラバラで、それが事務作業を繁雑にしている一因でもあった。俺達は異世界の書類の書式を紹介して、アーテナイの鶴の一声で、統一化が発表された。
「その途中で、『アースリザード』の緊急検査が始まって、王都行きの定期便が激減。俺達の王都行きも、落ち着くまで待つことになったよな」
『グレートアースリザード』の魔物化は、思ったより大事になった。物流を支えていた『アースリザード』は、安全が確認出来るまで、使用禁止が決まったのだ。幸いだったのは、要人達は街を出た後だったことだ。時間が出来た俺達は、
「アーテナイと一緒に鉱山の見学をしたら、うっかり金鉱脈当てちゃったりね」
「商人の勧誘がしつこかったから、『じゃあ俺達を倒してみせろ』っていったら、ストリートでのファイトが日常化したり」
「アタシもたまに見学してた」
「もう、サボりはダメですよ?アーテナイさま?」
「…世話になったシャーロットさんに言われると、弱いねぇ……」
すっかり見世物になった俺達目当てに、出店が出たのだが、せっかくならと『赤き槌』のシェフと共同開発したソースが大受け。
レシピを公開したら、屋台戦国時代が幕を開けたのだが、多くのパチ物が蔓延り混沌を極めていた。
この世界の住人は善良だが、商売っ気がなくなった訳じゃない、それを痛感した一件だった。
そして、それを収めたのが、シャーロットさんこと『仮面の達人』だ。
「僕たちの店で『達人マーク』を作って、認定店にだけ配る様にしたんだっけ」
「わたしが描いたんだよ!」
デサイン元はアメリアちゃんだ。将来はデザイナーかもしれない。
実際、デフォルメされた狐面はいい出来だった。
忘れかけられた『仮面の達人』が、この都市から消えないものになった。
「その時よね。『アーテナイぬい』を作ったのって」
「『達人マーク』で余った赤い布の端切れで作ってたのに、気がつくと『アーテナイぬい』が主戦力になってたな」
「……気付ば、ワシの店が『聖地』になるとはのう…」
冗談で作って、店頭に並べたのに購入希望者が殺到し、抽選販売になったり、作成キットを売ったり大変だった。量産体制を整え、他の店にも作り方を流してなんとか収まったのだが、発祥の地であるカレブさんの店は、『聖地』認定をされてしまった。
通りすがった、『アーテナイぬい』を持ったラケルの住人が一礼をしていく、そんなことが日常になってしまった。
「……許可しなきゃよかったよ」
「いえ、『ぬいさま』は必要でした。親衛隊、事務方全員の作業効率が格段に向上しましたので」
「どういうこったい」
ちなみに、シェーヌはヘビーユーザーの一人だ。試作一号を贈った時の反応は、本人の名誉に関わるレベルだった。
儲けるつもりはなかったのに、思わぬあぶく銭を手にしてしまった俺達は、
「そう言えば、その頃だよね。リニー。二人がボク達に護衛依頼をしたのって」
「ああ、そう言えば、護衛依頼だったわね。ベン。………途中から何故か魔物の巣窟を潰すことになってたから、元の依頼を忘れてたわ」
「楽しかったわね」
「またやろうな」
「「お断りします」」
この世界の勉強がてら、『双杖』の二人に近隣の森までの護衛依頼を出して、ちょっとした冒険をした。
まさか、魔物の巣窟を発見して、その討伐に当たることになるとは、予想してなかった。
しかし、無双ゲームみたいで楽しかった。
戦闘BGMは『双杖』の二人の緊迫した会話。
勝利シーンは『双杖』の二人のあきれ顔、そんな無双ゲーだった。
「ったく、そういう時こそアタシを誘えってんだ…」
「その時、アーテナイ忙しかったじゃない」
「主に俺達に修行を付けたり、書類仕事をサボって遊んだせいでな」
「修行は感謝してるけど、ちゃんと仕事しないとダメよ?」
「…はいよ」
俺達はこの一ヶ月、定期的にアーテナイの元で修行をしていた。
『強化』、『付与』を全開にして、まともな武器を持ったアーテナイとの戦闘。
『グレートアースリザード』対して使ったような大規模な技を縛ったにも関わらず、連敗が続いた。
やっと昨日、二人がかりで一本を取ったところだ。
全く、振り返って見れば、祭りの後夜祭というには、騒がしく、長いのにあっという間の一ヶ月だった。
そして、今日、俺達『ヤマトナデシコ』はラケルから王都へ向けて旅立つ。
このなかで、どれか、もしくはいくつかのエピソードは後に書きたいと思っています。(作者)




