71.もう一つの最終日
これはある日を境に時々見る夢だ。
時刻は、恐らく最終日の明け方。夢の中に時刻があるのかは分からないが。
手には『何か』を握っている。
前よりもはっきりとした形を取るそれは、日本刀。
故に呼びかける。
「『姫桜』、昼間のあれ、なに?」
「いや、妾も知らん。…なにあれ、怖くない?」
刀が俺の手から離れる。現れるのは、桜色の髪をした少女。
黒い羽織には桜の花びら、赤い着物には桜の花。そして、場所は畳敷きの居間に変わる。
夢の中だからって好き放題だな、おい。とりあえず、用意された座布団に座る。
「そもそも、妾は外界に干渉出来ないはずじゃ。いや、はずじゃった」
「『こっち』に来たとき、なんか意味深に『ようやくか』って言ったのは?」
「あれは妾も焦ったわ。まさか、思った事が伝わるとは、の。危うく妖刀認定で追放じゃったわい。それからは制御して、抑えることに成功したのじゃよ」
胸を張る『姫桜』に俺は大きくため息を一つ。
「……分からない事だらけじゃねぇか」
「うーん、一つ言えるのは、妾は魔力と随分相性がいい。そして、魔力さえあれば、夢の中でお主が体得した技の数々さえ放てよう!」
「あのとんでも技達を?言っとくけど、昼間の俺は、『桜然閃』ですら使いこなしてないぞ?」
「それはおいおい、というわけじゃな」
「その発言に、おいおいって言いたいわ」
「……………時に、ヤマトよ。重大な話がある」
「なんだよ、改まって、どうせ起きたら覚えてないぞ」
「重要なことじゃ、極めての……」
たたずまいを直した少女に、思わず緊張が走る。
「ナデシコとファーストキス、済ませたってホント?」
「起きるわ」
緊張して損した。立ち上がろうとすると、腰にしがみつかれた。
「待てぃ!重要な事じゃ!妾の視点ではいきなり2日くらい経っておっての!それでも、お主の中に残った妾の一部の『呪い』から情報を得れたが曖昧での!そんな重要イベント見逃したのが歯がゆいのじゃ!」
「……スルーしろよ」
「出来るか!馬鹿者!こっちは一年進展のないバカップルにやきもきしておったんじゃぞ!?」
「いや、お前バカップルって……。それに俺がナデシコと知り合って10年くらいだ。一年じゃ変わらないって」
「なお悪いではないか!?元服を迎えた男女二人、すぐにやや子が見られると思えば……どれだけ焦らすのじゃ!?」
「……思考がジジイに似てきたな」
「………ぐはっ!」
吐血、のふりをした『姫桜』が離れて、床に手を着いた。
「わ、妾があの、他の刀に赤ちゃん言葉で話しかけるジジイと、一緒…?」
「聞きたくなかったな、それ」
何やってんだあの爺さん。
「……今日の様に常に帯刀してくれれば、状況もはっきりわかるのじゃが……。うむ、やはりこの世界は妾と相性がよい、常に帯刀して危機に備えるとよいぞ」
「なんか、別の目的が透けて見えるんだが……。結局、何も分からずじまいか…」
「あの髪染めのことか。……うむ、鍵となるのは、精神の高ぶりとみるが…」
「俺の精神、心境、気合い、気持ち次第ってことか?」
「今日の場合は妾も含めてじゃ。あのまま、あの親子が死ねば、お主達の心に亀裂が入りかねかったからの。……あの時は、妾も助けたかったのじゃ…」
「そうか、力を貸してくれて、ありがとな」
「なに、一番は我の所有者であるお主次第よ。……成長すれば、我の思いなど関係なく、あの力を振るえるようになろう。飲み込まれるなよ、ヤマト」
「肝に命じておくよ」
そこで、ふと気になった疑問をぶつける。
「なぁ、例えばだけど、逆に『姫桜』の気持ちが極限まで高まれば、俺が意図しなくても、あの現象が勝手に起こるのか?」
「ん?……かも知れぬが、柄を握るという、繋がりは必要であろうな。……まぁ、そんなことよっぽどのことが起こらぬとあり得ぬわい。安心するがよいぞ」
「そうだよな」
「「ハハハハハ」」
約10時間後、『姫桜』内部にて
『婚約キタ――――――!』
教会での誓いの場面で、まんまと同席したその刀は、大変に荒ぶっていた。それでも、その雰囲気を壊さなかったことは褒められるべき、なのかも知れない。
いや、それでもその後、屋上で柄を握った時に、大して気合い入れなかったのに変わったの、お前のせいじゃねぇか。
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時刻は最終日、昼頃。
場所は『赤き槌』の隠し部屋。
『それ』は安置されている。
大きな水晶玉、それは大陸に6つある緊急通信装置の送信機。
その前に座るのは、アーテナイ。機器の前だと言うのに、服装を正し、どこか緊張しているようにも見える。
「……以上が、ここ数日の出来事さ。聖女様」
それは一方通信に近い。一方的にそれに話しかければ、大陸の某所にある受信機が同じ内容を再生する。
送信機への返信は、短い単語のみ、受け取ることが出来る。
【報告、感謝、赤】
文章からは感情が読み取れない。だから、書類や文面は苦手だ。そうアーテナイは思う。
【別世界、二人、興味、有】
アーテナイは口は堅く、友は裏切らない。
だが、唯一例外があるとすれば、この世界を思えばこそ、報告しなければならない相手がいる。
【今年、七星、集結、話す、有】
口語に直せば、
今年、七星将星が集まった時に、話す事がある
だろうか。
「……ったく、一体なんだってんだい」
元々、七星将星は区切りの年には、集結する慣習がある。
今年は、聖龍歴500年、元々予定もあった。場所も決まり、各人調整しているだろう。
だが、二人に興味を持った後に、それを改めて確認する意味。
それは何を指すのか、今聞いても、この通信機ではわかり辛いことこの上ない。
【元気、維持、赤、紫、送る、以上】
口語に直せば、
お元気で赤のアーテナイ…
「……七天将星、紫のアルジーヌより、ってか?……全く、その真意を確かめる方法が筆頭様と直接話すしかないとは、ね」
機器は沈黙した。応えるものは居ない。
アーテナイは、少しだけ期待していた、七星将星の頂点である紫のアルジーヌなら、今すぐに二人を帰してやれる方法が分かるのではないか、と。
僅かな苛立ちと共に、隠し部屋から出る。
店名からも分かるように、ここはアーテナイの拠点の一つ。
料理を注文してなかろうと、それを咎める者も居ない。店の出口に向かう。
『はぁああああああああああああ!?』
やけに大きな声が聞こえた。
人が苛ついている時にいい度胸だ。ここは、ちょっと注意してやろうと、扉を開ける。
「どうしたんだい?えらく元気のいい声じゃないか?…おお、あんたらかい」
その二人を見た時、自分でも驚くほど、苛立ちが消えた。
「あ、アーテナイじゃない」
「もしかして、デートか?」
生意気だが、妙に手に馴染む撫で心地を持った頭、妙な二人に懐かれた。そう思っている。
……いや、懐いたのはアタシか?
その考えは自分でも否定も肯定も出来ない。
「……で、今度はなにをやらかしたんだい?」
上機嫌でアーテナイは問う。
祭りの最終日にも関わらず、今日も騒がしくなりそうな予感がした。
ちなみに、アーテナイはこの後、主に夕方に、自分の予感が甘かった事を思い知ることになる。




