69.この夕日に別れを思う
『アーテナイの名の下に!閉山祭の閉会を宣言する!さぁ、明日から仕事だ!盛大に稼ぎな!!』
「「「おおおおおおおおお!」」」
夕刻、闘技場前広場には多くの人が集まっていた。歓声と拍手の熱狂。それは、祭りの終わりの寂しさを紛らわせるように熱く、夕日は赤い。
冒険者から商人、街の住人と思われる鉱夫、ドワーフから人間、獣人、少ないがエルフも居る。
人の波が起こる。街の出口、大通りの先にある各乗合馬車や、個人所有の車両に向かっているのだろう。
聞いた話だと、今から街を出れば、夜には魔物の寄りつかない安全地帯である宿場町に間に合うそうだ。
より急ぐ人たちは、今日の朝から出れば次の宿場町にも届くらしい。
今、向かっているのは別の都市で働く人々か、旅人か、冒険者か。
その人の流れを俺達は、闘技場の縁から見下ろしてる。
「つい、昇ったけど、結構な高さね……」
「猫かよ」
あるいは煙かも知れない。
どちらにしても、ナデシコはいざとなったら飛べるし、俺は壁の凹凸を使えば余裕だ。
思い出すのは、昼間の顛末。
時刻は昼前に戻り、協会から出た俺達を待っていたのは、にやけ面の一同だった。
どうだったか、何をやっていたかを聞いてくれれば、こちらも怒れるのだが、何も聞かない、何も言わない彼らに怒ることは出来ない。
「はい、これ。おめでとう、ヤマトにナデシコも」
「ボクからも、おめでとう、二人とも」
ベンとリニーから、小ぶりなナイフを手渡された。戸惑っていると、
「なに?『そっち』には誕生日を祝う習慣がないの?」
「いや、あるけど…」
「作戦会議も、一緒にご飯も食べたし、お互いの秘密も知った、そんな友人からの贈り物は不満かな?」
「いや、不満はない、その…」
ナデシコと目を合わせた。頷き合う。
「「ありがとう、二人とも!」」
「「どういたしまして」」
手に重みを感じる。それは、ナイフよりもこの縁の重みかもしれない。
「これで婚約祝いも兼ねてるからね。私達が王都に居を構えたら、いつか借りを返しに来なさいな」
「また会おうね、だってさ」
「ベン!!」
「ま、ボク達はしばらく鉱山で鉱脈発見の手伝いの依頼をこなすから、しばらくはラケルにいるよ。宴会のお陰で、金払いのいい商人にも目星がついたし」
「はぁ…。いつか旅に出るなら、予備のナイフも買っておきなさいよ。護身、は要らないかも知れないけど、何かと便利なんだから」
旅の先輩の目線はどこか優しい。ツンデレとはもう呼べないかもしれない。
「ありがとな、二人とも」
「いつか、思いっきり、恩返しをするから覚悟してなさい!」
「……はやまったかしら?」
「……常識の範囲で頼むよ?もちろん『こっち』の」
一気に顔が不安げになってしまった。これに関しては、俺もナデシコにブレーキを掛けるつもりはないので、覚悟しておいてほしい。
二人と別れた。再開の約束はあやふやで、二度と会えないかもしれないし、あっさりとまた会うかも知れない。でもナデシコと同意見のはずだ。また会えたら嬉しい。そんな二人だった。
「アーテナイは、これからどうするんだ?」
「ん?ま、一番最初は、頭の上の小さなお姫様をお城まで送り届けるかね…」
「……すー………」
アーテナイはいつもより、小声だ。頭上を見れば、アメリアちゃんが寝ていた。
そう言えば、デザートまで食べてたな。
三人で、俺とアーテナイでナデシコを挟んで、並んで歩く。正確には四人なのだが、一人は夢の中だ。
「あんたらこそ、祭りが終わったらどうするんだい?」
「えーっと、詰め所で熊の皮の代金を受け取って、工房にも顔出せって言われてたし……」
「それに、王都行きの打ち合わせ、だろ?」
祭りは終わるというのに、まだイベントがたくさんだ。
「ま、後、一週間ってとこかね……」
一週間、7日間。なんだ、今までのほぼ倍か。また事件が起きないといいな。宿はどうしようかな。
返す言葉はいくつも、思いついた。なのに、どうにも言葉が出ない。
結局、アメリアちゃんの寝息だけを聞きながら、通りを歩いた。
途中でナデシコは、俺に手を伸ばした。その手と繋ぐ。
「邪魔するよ。シャーロットさん」
「あ、アーテナイ様、いらっしゃいませ。二人も、お帰りなさい」
出迎えたのは、シャーロットさんだ。ようやくアーテナイに驚かなくなったようだ。
「……まぁ、アメリアをここまで?……ありがとうごさいます」
ついでにアメリアちゃんの大物ぶりにも。そのまま、アメリアちゃんは寝室に運ばれた。
そのまま、お茶を出されたので四人でいただくことになった。
「ねぇ、シャーロットさん。……お祭りが終わっても、もう少しだけ、お世話になってもいい?」
「アレクさんとカレブさんには、後で話すけどさ。多分、一週間くらい、なんだけど……」
「……もう、二人ともなに言ってるの?そんなに不安そうな顔して。……アーテナイ様?二人になにかいいました?」
「アタシは無罪だ。……祭りの終わりでしんみりしてるんだろうさ」
また、アーテナイに頭をぐりぐりとされた。
「初日に言ったでしょ?好きなだけウチに泊まりなさい、って。命の恩人が遠慮するんじゃありません。……というか、作業室の二人も聞いてるでしょ?作業の音、止まってるわよ?」
その声に合わせて、扉が開く。そこに居たのは、アレクさんとカレブさん親子。
「う、うむ。未だにアーテナイ様には慣れなくての…しかし、話は聞かせてもらったわい。条件は二つ!一つ、初日に決めた金以外は受け取らん!二つ、遠慮するな!いくらでも延長してもよし!……こほん、以上じゃ」
「うん、自分の家だと、なんて無神経かな?……でも、そう思ってくれたら嬉しいな」
二人は、扉の先で立っていたようだ。その言葉は、暖かい。
「それから、もし、またラケルに来たら必ず顔を出すこと、コレが条件です。……いいかしら?」
「うん!」「はい」
「「お世話になります」」
頭を下げる。最後の一つはどこかで聞いたような条件だった。
また会いたい。そう思われたことが嬉しかった。
「ところで!今二人が来てる服だけど!………何でもないです」
俊敏にこちらに近づいたカレブさんは、途中でアーテナイにひょいと摘ままれ、宙づりになった。




