65.その人々と夕食を
「さあ、遠慮せず食べな!」
「ここ、そんな居酒屋みたいなノリじゃなくない?アーテナイ」
「高級店ってやつじゃないのか?」
「王都や帝都の要人をもてなすお店になります。味付けも、ドワーフの伝統料理より繊細なものが楽しめます」
バッチリ高級店じゃないか。
ここは、ラケルでも有数のレストラン『赤き槌』の特別個室。
豪華な内装と壁に掛けられた武器群に圧倒される。
メンバーは、俺達三人にシェーヌとアメリアちゃん一家。
アメリアちゃん一家は、アメリアちゃん以外、俺達より圧倒されていたが。
『グレートアースリザード』討伐後、二人の無事に泣き崩れる鉱夫ドワーフを慰めたり、駆けつけたシェーヌや親衛隊と現場検証したり、唐突に始まる野生動物狩りとジビエバーベキューの昼食、など盛りだくさんだった。大型ウサギの肉が旨かった。
夕方に街に戻っても、騒動は続いた。
早馬で状況を知ったアレクさんとカレブさんは、顔面蒼白。馬車の中で眠るアメリアちゃんとシャーロットさんの前で安堵の涙を流す光景は、夕日も相まって感動的ですらあった。
バーベキューの時に俺達の取り出した焼き肉のタレの匂いが残って無ければもっと。
その後は、『赤き槌』にて移動して、シェーヌとアーテナイから今回の件についての話があった。
まずは、口止め。
公表はされる予定だが、祭りの期間に発表するには混乱をもたらす情報が多すぎる。
めったに居ない『グレートアースリザード』が魔物化し、安全地帯である人里に潜行し侵入したこと、例えるなら仮定の事態が実際に起きた事に等しい。それも、万が一、といった類いの。
俺達一同は断る理由もなく、了解した。
その頃に、料理が届いた。つまり、冒頭のやりとりに戻る。
コース料理ように順番に、ではなく、定食のように主菜も副菜も一度に来た。あるいは、密談を中断させない配慮かもしれないが。
今日は、魚料理がメインらしい。
素揚げにされた一尾に、香りの良いソースが絡められ、盛り付けは躍動感すら感じる。
副菜には、果実も混じったサラダ。瑞々しい葉物に、柑橘の爽やかな香りが混じる。
スープは、俺の知識ではポタージュに近いだろうか?白くとろみがあるようだ。
関心したのはパンだ。ほのかに湯気を立てるそれは、自身が焼きたてだと主張する。
アメリアちゃんのはどれも小盛りだが、パンはウサギ型で配慮が行き届いている。
こちらの世界でも、ウサギは可愛い動物役に抜擢されてるようだ。
「わ、おいしそー」
それは、昼のバーベキューを思い出してか、この料理のクオリティについてか、質問はしないでおいた。
ウサギ、美味しい、かの山。
美味しい料理とは不思議な物で、この場に来てから、相づち程度だった人間の大人組も、徐々に談笑を始めていた。話題の中心はもっぱら料理。
「これは…『かぶ』かしら、原型がないくらいすり潰されてるけど、ほのかに風味が残ってて美味しいわ…」
「パンともよくあうね。魚のソースに付けてもおいしいね」
「揚げ物もカラっと揚がって、食感が心地ちいいわい。サラダも他の料理との間に丁度いい酸味じゃ」
食べ終わるころには、アメリアちゃん一家の緊張も解けていた。
食後の果実水が行き渡った頃、その話は始まった。
賠償について。
今回の一件については、ラケルに安全保障上の責任があるとし、破損した車両は望むものを用意する。
それを聞いた時のアレクさんは、同じ物でいい、とは言ったものの、数十秒の沈黙があったことは本人の名誉の為に黙って居よう。
魔物に襲われた二人は、目立った外傷はないものの、見舞金の支給の申し入れがあった。
それをシャーロットさんは断った、即答で。そして、立ち上がる。
「私達は、みんなに感謝しています。
この街を作り、守ってくれた、これまでのアーテナイ様やそれを支える皆さんに。
森でアメリアを助けてくれて、家族の時間を守ってくれた二人に。
…昨日のお料理対決はちょっと、予想外だったけど……。
そして今日、3人のお陰で、命を助けてもらいました。
だから、お見舞い、なんか要りません。
それより、皆さんにお礼をしたいと思います。
ナデシコちゃん、ヤマト君、アーテナイ様、本当にありがとうございました」
その瞳から、一筋の涙が流れた。それは、なによりの報酬だった。胸に熱い物がこみ上げる。
「わしからも、礼を言わせてくれ」「うん、ボクからも」「わたしも!」
「「「ありがとうごさいました」」」
三人も、シャーロットさんに続いて立ち上がり、シャーロットさんに続く。
その深く下げた頭に申し訳なくすら感じる。
「いや、アタシの縄張りの不手際だ、顔を上げとくれ」
「我々には街の運営としての責任があります。ですので、どうか…」
「そもそも、私達が巻き込んだところもあるし…」
「そうだな。気持ちはうれしいが、こちらも恩がある」
気付けば全員立ち上がっていた。結局、お見舞い金を取り下げるまで、その頭は上がらなかった。
魔物になった『グレートアースリザード』なんぞよりも、よほど根性があるアメリアちゃん一家だった。
ちなみに、その後、討伐報酬の話になり、
「私達も結構よ!」
「ここで受け取るの、かっこ悪いしな!」
立ち上がって、そう宣言したのだが……、
「いや、ソレとコレとは話が別さね」
腕を組んだアーテナイ。
「働きには報酬を与えるのが、常識です。受け取ってもらいます」
にこやかなのに圧を感じるシェーヌ。
「旅費もかかるじゃろ?」
現実的な問題の指摘をするアレクさん。
「ダメだよ?二人とも」
続く、カレブさん。
「だめだって、おにーちゃん、おねーちゃん」
シンクロするアメリアちゃん。
「「……だって」」
格好が付かないと食い下がる俺達だったが、
「私達にはしっかり生活基盤があるし、恩を受けた側。だから要らないって言ったの。とにかく、二人とも、座って?お金の大事さ、しっかり教えますから」
「「……はい」」
シャーロットさんに逆らえる筈もなく、そこから月の生活費の試算や、ラケルや王都での市場価格の勉強が始まった。
俺達は途中からメモを取りながら、大人達にしっかりお説教をくらったのだった。
その後、シェーヌが持ってきた、銀行口座を開設の書類を書くという、およそ異世界とは思えないイベントをこなすことになる。保証人はアーテナイ。書類を確認されたときに、
「アンタ達、ヤマトとナデシコが本名じゃなかったのかい!?」
アーテナイは大いに驚くことになるのだが、そう言えば本名は別にあるとは、言ってなかったな。
『グレートアースリザード』を倒した時に名乗ったが、いつもの異世界特有の異名と思われていたらしい。
結局、この世界で名字は王族、皇族にのみ残る文化だったので、俺達は引き続き、ヤマトとナデシコで通すことになったのだった。
世界は変わろうが、変わらないもの、それが俺達ヤマトナデシコだ。
「格好つけるところかい?」
「もちろん!つけるところよ」
「二人合わせて、天下無敵って覚えてくれ」
アーテナイは無言で俺達を、ぐりぐりと強く撫でるのだった。




