62.喧嘩も勝負も越えて、その三人で
「いいかい、魔物は出来るだけ殺す選択肢を選び続ける。弱い者から狙ったり、嫌がることをしたりね。しかも、自分の命を勘定に入れずに、だ」
アーテナイは、俺達に語りかける。
「あの魔物になった『グレートアースリザード』。どうやら、魔法の類い、遠くの敵を狙う術は持ってないみたいだね。だが、とんでもない再生力だよ。ああやって、動かず再生に専念して、アタシの魔力切れを狙ってるのさ。魔力が切れる前に、この檻は壊して、ぶっ殺すけどね」
炎の檻に捕らわれた赤い瞳は、俺達を見下ろしている。己の身体が焼かれてようが関係ない。
「なるほど、分かった」
「後は、アメリアちゃんとシャーロットさんの事だけど…」
「ああ、もちろん…」
「「「二人のことは任せた!……ん?」」」
三つの声は重なった。そして、顔を見合わせる俺達。つい、場違いにも笑った。
お互いに表情を引き締める。
「さあて、アンタ達との喧嘩も勝負も、十分やった!」
「そうね。まだ勝負の途中だけど、私達の背中を預けるならアーテナイがいい!」
「じゃあ、共同戦線、ってのには人数不足だな。……共闘だァ!」
「「上等!!」」
「じょーとー!」
「も、もう、アメリア……」
子供の前での言葉遣いには注意しよう。そう思った。
短い作戦会議の後、二人はアーテナイが先ほど作った岩のオブジェの後ろに居ることになった。
いつのまにか、『リトルアースリザード』もさらにその後ろに居た。
どうやら、難を逃れていたらしい。森の時もそうだったが、逃げ足、隠密に関しては凄いトカゲだ。
俺達は、その場所を背に魔物に向かい歩き出す。
背水の陣、不退転の覚悟、何でもいい、ここから何一つ、誰一人後ろに行かせない。
「じゃあ、一番手、赤のアーテナイ。行かせてもらおうかね」
アーテナイは、昨日の短い槌を持っていた。そして、炎の檻を解く。
次の瞬間、『グレートアースリザード』が取った行動は、地面への潜行。
『グレートアースリザード』の能力は、再生力と地面への潜行。
どちらも、アースリザードの生物としての特性。その特性を、魔物と化した『グレートアースリザード』は、魔力を以てその特性を凶悪なまでに特化させている。
現に、俺達も気を取られていたとは言え、潜行を見逃し、車両を危険にさらした。
「今こそ、勇気、女神に示せ!!」
アーテナイが、地面に槌を打ち付ける。地面に駆けるのは、アーテナイの赤き魔力。
これは、後からアーテナイ聞いた話だ。
ドワーフの武器とは、なにか?
槌か、斧か、どちらも否。それは手に収まる程、小さくない。
鉄か、鋼か、どちらも否。それは加工できる程、柔ではない。
炉か、炎か、どちらも否。それはそれより熱き物を含むもの。
「―――『アース・ギガント』!その腕で捉えな!!」
ドワーフの武器、それはこの世界の大地そのもの。
そして、それに魔力を付与し、意のままに操る。
それぞ、ドワーフの付与が最強と言われる所以。
かくして、ドワーフの縄張りに逃げこんだ哀れな不届きものは、巨大な腕に掴まれ、大地からつまみ出された。
全身を掴まれた姿は、まるで断罪を待つ罪人。日の下に晒される。
「ガァルゥア!?」
そして、続くは日ノ本より来たる二人。
「二番手、朱谷纏、ヤマト。行くぞ!」
「三番手、異撫椎子、ナデシコ。行くわよ!」
俺は、アーテナイが生み出した腕を垂直に駆ける。
ナデシコは、どこまでも自由に白い光のツバサで空を翔る。
「―――桜然閃、斬首……承る!!」
俺は、魔物と化した『グレートアースリザード』の首の上で『姫桜』を抜刀。
『姫桜』の全長、約70cm。その首を落とせるわけが無い、本来なら。
―――チンッ
納刀の音、それを合図とするように、巨大な首は落下を始める。断末魔も無かった。
俺も、その後を追うように飛び降りる。
『グレートアースリザード』の身体は崩壊を始めるが、頭部はそうでは無い。
断面が蠢いてる。そして、赤い目は、その邪悪な光を失っていない。
生命の定義から外れた存在、魔物。そして、その魔物の核、魔石は頭部にあるようだ。
天空からの聞き慣れた声がする。
「よし!ただ今、命名完了!……アマリリス・ストライク!!」
白いツバサに赤い燐光を纏わせて、落下速度でナデシコが俺を追い抜いた。
すれ違いざまにこちらを見た。その姿勢は、見事な跳び蹴りの姿勢。
……わかったよ、後で褒めるって。いや、なんで赤い光を出してんだろ。
赤いアマリリス、その花言葉、『輝くほどの美しさ』や『誇り』。ナデシコによく似合う。
ナデシコは、『グレートアースリザード』の頭部に追いつき、地面への落下を加速させる。
まるで地面との挟み撃ち、加速された着地の衝撃をナデシコが居る事で、逃さない。
爆発、小規模のクレーターを作って、その頭部は砕け散った。
血肉は無い。皮も残らない。ただ、そのクレーターの片隅に残った、真っ二つに割れたスイカ大の魔石が、その魔物の存在を証明するのみだ。
「あー、スッキリした!」
ナデシコはクレーターの中心で、大きく伸び、そのまま仰向けで倒れた。白いツバサは、解ける様に消え、その髪も戻る。
俺もその頃には地面に到着。その瞬間、力が抜けた感覚があり、視線を前髪に移せば、黒くなっていて一安心。身体の重さが数倍にもなったような感覚、だがそれがすぐにいつもの感覚だと理解した。
「お疲れさん、ナデシコ」
ナデシコの隣に、座り込む。正確には、身体を支えれなくなった、という方が正しいかもしれない。
「お互いさま、でしょ?」
手を差し出された。意味は、なんとなく分かった。その手を握り、俺も仰向けに。
大地に体重を預け、二人で見上げた異世界の空は、青く遠い。




