61.その少女は呼ぶ、親しき伝説の名を
「アメリアちゃん!シャーロットさん!」
ナデシコが二人の場所に到着したのは、地面に激突するまで三秒と無かった程の高さ。
ナデシコは、得物を連れ去る猛禽の鳥のように二人を再び空に連れ去った。
腕の中に居るのは、二人で身を寄せ合って固く目を閉じた母娘。
「よかったぁ………ほんとに、よかったよぁ…」
そして、ナデシコの胸の中は、安堵で満たされた。
「あ、あれ……ナデシコちゃん…よね?」
先に目を開けたのは、シャーロットは辺りを見回し、状況を確認する。
二人を抱えたまま、白い光のツバサで空を飛ぶ、髪色の変わっているが見知った少女。
一瞬、身体が硬直しかけるが、その表情を見て力が抜けた。
泣きそうになっているナデシコの頭を撫でたい、という場違いなことを思っていた。
「……おねーちゃんは、女神さまだったの?」
目を明けたアメリアは、母とナデシコの腕のなかで、思い出していた。
協会に飾られた像、有翼の目を閉じた白い女神像を。
皆が熱心に祈り、それを受け止める、その慈愛に満ちた笑み。
彼女が瞳を開ければ、今のように自分たちをみているのだろうか…。
「私はナデシコ……ただの、とびっきりにかっこいい、大和撫子なニューヒーローよ!」
撫子は笑顔で二人に応える。その目の端に涙の煌めきを宿して。
その笑みをもって、二人はいつものナデシコだと認識した。
空を旋回する。目指すは、倉庫屋上。
速度は、流石に先ほどの様に出せない。
そして、腕を切られてもなお、一度逃した得物に執着する魔物が一体。
「ガァアアア!」
迫る魔物、その速度は今はナデシコに軍配が上がるが、よく見れば足が再生を初めている。
「しつこい化け物ね!そこで待ってなさい!後でぶっ飛ばしてあがるから!!」
冷や汗を流しながらも、罵倒は忘れない。
「だいじょうぶだよ。おねーちゃん。だって…」
落ち着いた声を上げたのは、意外にもアメリア。
ナデシコとショーロットの二人は驚きつつ、その言葉の続きを待つ。
アメリアは、大きく息を吸い込んだ。
「わたしのバックにはアーテナイさまが居る!!」
その叫び、空に響いた時、地面が隆起した。
現れたのは、石で出来た巨大な腕。拳の形を取った、それは魔物の横腹を殴り飛ばした。
まるで交通事故、自身の体高以上に飛ばされたのは巨大な筈の魔物だ。
地面に投げ出されたそれを、見下すように立つように拳の岩の上に立つ、その者は……
「よく言った!アメリア!!……さぁ!クソトカゲ!!よくもアタシの縄張りを荒らしてくれたね!?ブッ飛ばされる準備はいいかい!?」
赤髪を怒れる獅子のように振り乱した、伝説の英雄、七天将星、赤のアーテナイ。
「……もうブッ飛ばしてるじゃない…」
ナデシコは、もう逃げる必要が無いことを悟り、その場に着陸を決めた。
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「な、なんだ!?」
ナデシコが二人を抱えて飛んでいるのを確認した後、地を駆けていた。
普段よりずっと身体が早く走れた。右手に『姫桜』、左手に鞘を持ちながらなのに、むしろいつもより走りやすいくらいだった。
そんな時、地面の揺れを感じた。
そして見た。地面から生えた拳が、魔物をぶっ飛ばしたのを。
「……アーテナイだな…」
納刀して、また地面を駆ける。そうしてしばらくすると、ナデシコが地上に降りてきた。
「ナデシコ!二人とも!無事だったか!?」
「当たり前でしょ!ヤマトこそ着地ミスって、怪我でもしてないでしょうね?」
「おにーちゃん!?」 「ヤマトくんもなの…!?」
ナデシコは、髪色と背中以外いつも通りだが、アメリアちゃんとシャーロットさんの驚きが大きい。
なんでだろう。俺も?ふと、視線を探れば、俺の頭を向いている。
ん?前髪の色が………ピンク?
「な!?なんだこりゃ!?」
「大丈夫よ、今は男の子もなれる時代だから…!」
「プリティでも、キュアキュアでもないわ!!」
なんのフォローにもなってない!
いや、変化は俺だけじゃない。
「……ナデシコも変わってるからな、髪。あと背中に羽生えてる」
「ん?……なんだこりゃ!?」
いや、お前も知らないのか。てか、リアクション、一緒……。
「……身勝手かしら、それともビースト?いや、羽も生えてるってことは……私達は天使だった…?」
「超なのか、Zのエンディングなのか……。いや、違うだろ」
ちなみに、超と書いてスーパーと読む。
俺があえて推すなら、身勝手だ。ほら、ナデシコにピッタリだし。
「…相変わらず、訳が分からないことを言ってるってことは、変わりないってことでいいんだね?」
「アーテナイ!」
「魔物をどうしたんだ?」
「ハン!あの通りさ」
昨日も持っていた槌を持ったアーテナイが、近くに来た。
見れば、炎の檻に捕らわれた魔物が焼かれている。呻き声も上げてない。ただ、じっとこちらを睨みながら耐えている。
「なによ、昨日の料理を作った時の魔法じゃない」
「ふざけてる場合か?」
「………変わらないね!アンタ達!」
肩をすくめる俺達に、アーテナイは大きな声で、俺達の中身は変わって無いことを確認していた。
「さて、お互いに言いたいことや、聞きたい事がたくさんだろうが……」
「そうさね。やることは決まってるってもんさ」
「まずは、クソトカゲを倒してから考えるわ!」
俺達は並び立つ。向く方向にそびえるのは巨大魔物。
なのになぜか、巨大な筈の魔物は酷くちっぽけな存在に思えた。




