表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【学園編開幕】異世界快進劇 ヤマトナデシコ ~超人カップルにとって、異世界転移は旅行同然!帰るまでが旅行です~【現:二章三節】  作者: 沢クリム
『赤ノ章 祝祭のラケル』 第二節 グルメバトルと過去、アーテナイの誓い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/150

54.その、零れるもの


「な、何言ってんだい!?いや、何を言ってるのか分かっているのかい…?」


アーテナイは驚きに目を見開いている。

俺はというと、妙に落ち着いていた。伊達に長年、幼なじみの思いつきに付き合っていない。


「うん、分かってる。こっちから帰っても、また昨日みたいに連れてこられるかも知れない」

「ああ、確かにな。だったらいっそ…」


「私達が行き来する方法を見つける。誰かさんが出来たんだから、私達に出来ない理由ないでしょ?」


「ふざけた自然現象だとしても、同じ条件を満たせばいいしな」

「私、大学でやりたいことなかったし、ちょうどいい研究課題ね」

「高校ではどうするんだ?」

「遊ぶに決まってるじゃない。異世界に来るのなんて一度体験してるんだし、大学の課題くらいでちょうどいいわ」

「忙しくなりそうだな。……民俗学から当たってみるか」

「今から具体的に考えてたら疲れるわよ。それに、大学でも遊ぶから」

「いっそ、サークルでも作るか」

「それいいわね。クラファンって出来るのかしら」

「異世界研究の?やめとけやめとけ、どっからどう聞いても詐欺グループだろ。それに…」

「それに?」


「いきなり発表して、世間をあっと言わせた方が面白い」


「…魔法は無いなんて言ってる現実主義者達に『ざまあ』するってわけ?」

「いまさらファンタジーを認めてももう遅い、ってな」

「ベストセラー間違いなしね。その頃には多分流行変わってると思うけど」

「わざわざ流行に乗ってどうすんだ?」

「それもそうね。流行くらい、私達が作ってやるわ!」


「……さっきから、本当に何を言ってるんだい?」

驚き戸惑っていたアーテナイは、もはや呆れている。

無理も無い。異世界トーク全開だったしな。


「アーテナイ、勝負よ!」

ナデシコは、立ち上がりアーテナイに指を差して宣言する。一つの勝負を。


「私達がまた来たときに、まだその弱音を抱えてたらアンタの負け。解決してたらアンタの勝ち。もし負けた時には、私達が解決しちゃうから、覚悟してなさい!」

アーテナイはまたも驚いた。だが、その顔は徐々に笑みに変わる。


「ハン!まだ帰れもしないのに、何を言ってんだい!……アタシが勝ったら?」

「その時は、異世界のお酒をたっぷり奢ってあげる。私達もお酒を飲める年齢だと思うから、一緒に飲みましょ?」

「…だったら俺はつまみでも用意するかな。今回の事で料理にも興味出た」

やはり、異世界に料理は必修科目なのかも知れない。先人は偉大だ。


「…いいねぇ、負けられない勝負だ。……楽しいだろうなぁ、アンタらと飲む酒は……」

アーテナイは背を縁に預け、大きなその手で顔を覆ってしまった。その下の表情は見えない。

その手の隙間から、一滴の水が零れた。


「ナデシコさんや、アイツもう勝った気でいますよ?」

「気に入りませんね、ヤマトさん。こっちの一勝一分け、ってのを忘れてしまってのではありませんこと?」

「無理も無い、お年を召し過ぎていらっしゃったのですから」

「召すドワーフ」

「ちょ、ナデシコ、言い過ぎ…」

それは大草原が避けられないような一言だった。笑みが零れるとも言う。


「アンタら……調子に、乗るな!」

「「!!」」

その大きな腕は振り回される。その横薙ぎは、温泉のお湯を散弾に変えた。

目に入らなかったことは奇跡と言っていいだろう。


「痛いわね!何すんの!」

「上等だ!この野郎!」

俺達は立ち上がり、すぐに反撃は開始した。アーテナイも俺達に対抗して立ち上がった。

そこから始まる、お湯の応酬、2対1なのに巻き上がる水の量は互角だ。身体の大きさが違う。

笑いながらそのやりとりが続くものだから、口にも目にもお湯が入っていった。

これでは、目が赤くなってしまう。誰が涙を流したか、そんなことは分からないくらい。

え?マナー?知るか!よい子は真似しないでネ!


決着の時は、唐突だった。


「あ………」

「え?」

「ん?」


アーテナイの手が唐突に止まった。視線の先には、ナデシコ。

つい、手を止めて、ナデシコを見る。






零れていた。片方。






いや、先端は見えない、神に誓って。湯気で隠れてるのだ。

その原因は、アーテナイのお湯掛けか?

それとも、大人げ無い運動の結果か?

去年より成長したナデシコに水着がついて行けなかったのか?

ナデシコは着痩せするタイプ。

走馬灯に似た感覚でいくつもの思考が浮かんで消える。

ナデシコの視線が、自分自身の胸元に落ちるのが、スローモーションのように見えた。


次の瞬間、俺は反転し、お湯に潜った。


「キャーーーーーーーーー!!!」


その悲鳴は、浴室に反響し、その後に浴室を駆けるナデシコの足音が聞こえた。

危ないぞ、とは思ったが言えるはずも無い。

ナデシコが暴力系ヒロインだったら、今頃、命が無かったかも知れない。


「………アーテナイ、俺が見てないって言って、信じてくれると思うか?」

お湯から顔を出した俺は、アーテナイに尋ねる。

「いや、アタシも湯気でよく見えなかったからね。信じるよ」

アーテナイの優しさが身に染みた。


「…………それに、こんなのが、初めてなんて、ナデシコが可哀想だからね……」

その呟きは浴室に静かに響いた。


その後、アーテナイが先に脱衣所に行き、ナデシコを宥めた。

約30分後、あがるように言われて、脱衣所で着替えて、アーテナイに案内されて、アーテナイの寝室に入った。


シーツで見事なミノムシと化したナデシコが居た。

アーテナイによって髪は乾かされたのだろう。髪は乾いている。

しかし、お湯から出たばかりのように顔は真っ赤だ。その目も。

その前で、正座する俺。


「…………見た?」

「…見てません」

「………本当に?」

「………本当です」

「……………………………信じます」

「………有難き幸せに存じます」


アーテナイ曰く、それは見事な土下座だったそうだ。


こうして、二日目の夜は更けていった。


その後、ナデシコはそのままアーテナイのベッドで寝る事になり、俺はアーテナイの勧めで客室を借りる事にした。


アーテナイは、この旨をシャーロットさんに報告してから宴会場に戻るそうだ。

湯冷めが心配だが、酒を飲めば身体が温まるから大丈夫とのことだ。


ドワーフの王族を使い走りに使ったことに気付いたのは、ベッドの中だった。

様々な疲れから、そのままぐっすりと眠ってしまったのだった。


お湯の掛け合い、水入りにより決着付かず。


異世界二日目は、二度の引き分けで区切りとなった。



夢を見た。

ナデシコからアッパーカットを食らう夢。

明晰夢、夢を夢と認識出来ていたが、避けずに飛ばされたのだった。

その日、夢の中で星となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ