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【学園編開幕】異世界快進劇 ヤマトナデシコ ~超人カップルにとって、異世界転移は旅行同然!帰るまでが旅行です~【現:二章三節】  作者: 沢クリム
『赤ノ章 祝祭のラケル』 第二節 グルメバトルと過去、アーテナイの誓い

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52.王座誓う、砕けることなき、この約束

「よお、やってるかい?」


リニーと別れた後、最終日の計画を話していると、アーテナイがやってきた。

不届き者達の尻をしばき終えたのか、その手には槌はない。


「楽しませてもらってるわ、アーテナイ。…それにしても、意外ね。あれだけ楽しみにしてたんだから、とっくにベロベロか、飲んでるかと思ったのに、全然お酒の匂いがしない……。……アーテナイ、頬にタマネギ付いてるわよ」

アーテナイの頬には何も付いてない。

しかし、ナデシコの鋭い嗅覚は何かを掴んだのだろう。カマを掛けたのだ。

そう言えば、ラケル煮はまだ余裕があった筈なのに、いつの間にか消えていた。

すでに、酒屋のジイさんと豆屋のオバチャンの分は取り分けてあったので、別に構わなかったのだがどこに行ったのか謎だったのだ。


「おっと、どこだい?」

どうやらマヌケは見つかったようだ。アーテナイは頬を拭うが、当然なにも取れる筈がない。


「「犯人はお前だ」」

一度は言ってみたかった台詞を言うことが出来た。


「指を差すんじゃないよ。……別にいいだろ?ごちそうさん、旨かったよ」

アーテナイは悪びれもせずに答えた。

アーテナイへの料理なので俺達も怒ってはいない。むしろ、そう言ってもらえて嬉しいくらいだ。


「そう?ラケルを出発する前にもう一回、作ってあげよっか?」

「アーテナイの家って厨房あるか?」

印象では酒とおつまみばかりありそうだ。

「相変わらず気安いねぇ。ま、いいけどさ。……今晩、ちょっと付き合ってくれるかい?」

非難のような言葉だが、その声色は嬉しそうだった。そして、その後の誘い文句は、凄く男前だ。


「いいけど、どこにだ?」

「宴を途中で抜け出すなんて………まさか、喧嘩売ってる?」

「いや、その発言が喧嘩売ってるだろが。……違うさ、あんたらの願いを叶えるって誓いにね。アンタ達以上の立会人もいないだろ?」

大袈裟だと、からかおうと思ったが、アーテナイの顔を見れば、茶化せないものだと察することが出来た。俺達は、頷いた。その返答にアーテナイは満足そうに頷いた。



「「拉致だ!連れ去りだ!人さらいだー!」」

「黙ってな!舌噛むよ!」


二日連続のお荷物状態だった。物理的な意味で。

しかも今日は俺達が怪我してないからか、魔力を使った強化状態のアーテナイだ。

景色は流れる速度が、馬力が違う、朝の馬車が恋しい。


道中、誰も止めなかったのは、単純に速度の問題だろう。俺達の悲鳴もドップラってたに違いない。

ラケルに都市伝説が生まれる日も近いだろう。


「……死ぬかと思ったわ」

「今ならバンジーを笑って出来そうだぜ…」

「なに言ってんだか、ついて来な」

到着したのは、朝のアーテナイ様屋敷だ。

正面から入り、奥へ奥へと入っていく、やがて明かりが無くなり、月明かりだけの廊下になった。


案内されたのは、石で出来た玉座の間だった。

月明かりが天窓から差し込むそこは、寒々しい印象を受けるが、その印象はすぐに変わった。


「……ただいま戻りました」


そう言ったアーテナイの顔を見た、酷く懐かしそうなその横顔は、この場にあった暖かさを思い起こさせるには、十分だった。そして、返事が無いのが、とても残酷に思えた。だから、俺達は、


「「お帰りなさい、アーテナイ」」


気付いた時には、二人でアーテナイを抱きしめていた。

この英雄は、どれだけ頑張ったのだろう。想像も付かない、想像するだけで胸が痛くなる。

帰り道が分からないという前提だが、ただ二日だけで、恋しく思う場所がある。


でも、アーテナイのそれはもっと酷い、過去に帰る事など誰にも出来ないのだ。

進むしか無かった道の果てに居る。

アーテナイの隣には他の仲間も居たのだろうが、今居るのは俺達だった。

せめて、今この場で倒れない為の杖になりたい。


「……このお節介どもめ」


アーテナイが発したとは思えない程弱々しいその声は、俺達の頭の上から聞こえた。



さらに、しばらく時間が経ってから、俺達は引き離された。その顔は赤い。


「ちょっと待ってな。……あと、二人ともそのにやけ顔やめな…」

昨日のお返しだ、ざまあみろ。


アーテナイはその玉座に一礼する。

そして、その玉座の後ろから、一振りの槌を取り出した。恐らく金属製のそれは小ぶりだが、妙な存在感がある。アーテナイが握ったタイミングだった。


――カチャ


背中の『姫桜』の鯉口が一度鳴った。

共鳴の様にも感じたそれは、アーテナイが戻って来たことで話すタイミングを逃した。


「我が名はアーテナイ。ドワーフの王レキアンダーサの娘にして、ドワーフ王族最後の子」


玉座に向かい、胸に槌を掲げる様に持って堂々と宣言する。

昨日、闘技場で聞いた言葉に似ているが、言葉の重みが違う。

自然に背筋が伸びた。


「勇気ある父祖、皆に、そして我が魂に誓う。我が友ヤマト、我が友ナデシコ。その両名を故郷への帰路にいかなる協力を惜しまぬことを。この誓い、どうか見届けよ」


付与か、魔法か、アーテナイの持つ槌は、赤く光り輝く。

目を焼くような眩しさではない。でも、月光を塗りつぶしてしまうように辺りを照らす。

その赤い光りに照らされるアーテナイの横顔は、凜々しく美しかった。

俺とナデシコが、揃って見惚れていまうほどに。


我が友、そう言ってもらえた事に遅れて気付いた。

涙が溢れそうになるほど、嬉しかった。


アーテナイの光に照らされて、俺とナデシコはいつの間にか手を繋いでいた。


今宵、王座はその誓いを聞き届けた。

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