50.その宴は続く
「…何やってるのよ、アンタ達……」
俺達が会場内を散策し、適当なつまみを貰って席に戻って雑談していると、リニーがあきれ顔で話しかけてきた。
「なにって、ご覧の通りだが?」
「雑談してただけよ?」
「手を繋ぎながら『突然謎の魔物が闘技場に攻めて来たらどうするか』をなんて話をする知り合いがいたら、何事かって思うでしょ?」
「ああ、これね。手を繋いでると話しかけられないことに気付いたのよ。…リニーは一人?」
そうなのだ。話しかけようとして気配はあっても、『へっ、お邪魔虫は退散しますかね』みたいな訳知り顔で退散していくのは面白い。
ナデシコと手を離して席を促すと、リニーは座った。
手を離した時、少しリニーは気まずい表情になった。
「おかしいのは、話題の方よ。…お生憎様、私達はアンタ達みたいに、いつも一緒って訳じゃないわ。ベンは、こういう時には情報収集してるのよ。お酒が入った冒険者の口は軽いわ。お得な稼ぎ場の情報をこぼす位にね」
「いつも一緒って訳じゃ無いのに行き場所は把握してるのか……ごめんなさい」
目線だけで黙らせられた。余計な事言わないでおこう。
「リニーはついて行かなかったの?」
「ベンは私に酔っ払いの冒険者に近寄って欲しくない、らしいわ。それに…私、酒の匂いもダメなのよ」
下戸まで属性に加えてリニーはどこにいくのか。
「それより、話題の方よ。流してんじゃないわよ。一体どんなきっかけでそんな物騒な話題になったっての?……まさか、なにか魔力を感じてじゃ…」
リニーの顔がシリアスだ。同時に話しかけてきた理由もわかった。説明するの恥ずかしいな。
「ああ、ごめんごめん。本当にタダの雑談。よくやるでしょ?いきなり盗賊団とか、犯罪組織が来たらとか……」
こちらの世界には無いのだろうか、俺達は雑談の一つとしてよく話していた。
想像の中もナデシコの無双する様子しか浮かばなかったが。
「はあ?何言ってるの…。盗賊団や犯罪組織なんて、『とっくの昔に七天将星が潰した』じゃない。記録と物語にしか残ってないっての。………どうしたの?アンタ達」
「「………………」」
思わず、ナデシコと絶句していた。七天将星、いつも想像を超えてくるな。
「なんでもないわ。ちなみに、リニー。……強盗とか聞いたことある?」
「……?…冒険者講習には出てくるわよ。魔物の被害調査では、物品の紛失は人が盗ったことも考慮に入れなさいってね。……まったく、『そんなのありえない』っての」
異常だ。常識が異なる。
魔物よりもよっぽど違和感のある話だった。
「ああ、でも、黒竜災害の前後の物語や記録では、そんな事もあったみたいね。興味本位に冒険者の依頼記録を図書館で調べた時にそんな記述も………いや、なんでもないわ。聞かないで」
図書館のあたりだろうか、どうやらリニーは口を滑らせてしまったようだ。
俺達が出会った人たちは、いい人ばかりだった。
それは、この都市の治安がよく、出会った人に恵まれていたからだと思っていた。
周りを見回す。
早くも酔い潰れた人を介抱する人が目に入る。
酔い潰れた人が、硬貨の入っているであろう革袋から硬貨が零れる。
それを、介抱している人はその硬貨を革袋の中に戻し、紐を締め直した。
これが、アーテナイが、他の七天将星と作った光景?
「……正直、今までで一番、アーテナイを凄いって思ったわ」
「全くもって、同意だな…」
俺とナデシコは、同じ光景を見ていたようだ。そして、感じたことも同じだ。
「なによ今更。……はぁ、アンタ達と話してると、別の世界の人間と話してる気分だわ…」
「「正解」」
ため息交じりのリニーに、俺とナデシコは揃って答えた。
「…こっちが一人の時に二人でボケ倒すなっての。………え?マジなの?」
「マジだぞ。初めてだな。ズバリ当てられたの」
「マジよ。うん、リニーは一等賞ね!」
ナデシコはちょっとテンションが上がってる。
「え、えぇ……」
リニーは引き気味だった。
「私の耳がおかしくなかったら、昨日一日で『こっち』に来て魔力もろくに知らなかったのに、アーテナイ様の喧嘩を買って、殴り合ったって聞こえたんだけど?しかも、今日はなぜか料理対決やってたわよね?」
「大丈夫、リニーの聞いた内容で間違いないわ。…どうしたの?頭抱えて?」
「……アルコールの匂いを嗅いだ時以上に頭が痛い」
恒例のネタばらしタイムも3回目だ。リニーにとって果実水のお供にしては、なかなかヘビーだったようだ。
「というか、私に話して良かったの?……私は少なくともベンには話すわよ」
「逆に、ベン以外には話さないだろ?」
「どうだか、私が言いふらして明日には悪い意味で有名人かも……」
「うーん、その時はその時よ。私達の見る目がなかったってだけ、私達に出来るのはそうね……。ご飯の約束、最終日でいいでしょ?その時までは、黙ってた方がお得よ?」
「それは、そうね。……もう行くわ。今日は浴場にでも行って、一人で今日の疲れを取ることにするわ」
リニーは疲れた様子で、立ち上がった。
「あ、私も行こうかな。浴場」
「一人にさせないっての!………じゃ、また最終日に闘技場前で会いましょ?」
「お昼でいい?」
「いいわよ。…………ちなみに、アメリアちゃんも来たりするのかしら?」
「誘ってみるわ」
「まあ別に構わないけどね期待とかしてないから」
ツンデレ、下戸、ロリコン疑惑のリニーは、やたら早口だった。
「またね!」「またな」
「ええ、また会いましょう。二人とも。……邪魔して悪かったわね、ナデシコ。だから黙っててあげるわ。ベン以外にはね」
最後は、ナデシコに一言残して、去って行った。ナデシコは友達との約束に終始ご機嫌だった。
この世界で、繋がった縁はまだまだ続いていくようだ。




