49.その宴は始まった
「さあ!宴の時間だよ!…ちなみに、今日の事を弄って来た奴はケツを叩く!!分かったかい!?」
「「「出来るか、ボケェ!!」」」
「よし、全員、そのケツ真っ二つだコラァ!!」
宴の開始はアーテナイとノリのいいラケルの民との追いかけっこから始まった。
解放された闘技場は人で溢れていた。時刻は夕方。
闘技場内に売り子や屋台が乱立し、大人達は酒を片手に徘徊したり、敷物や椅子に座ったりしている。
その中心で、アーテナイが開始の音頭を取ったのが先ほど。
2代目木槌を振り回し、ケツをシバいていくアーテナイは他の都市の客から笑われたり、呆れられたりしているが、皆笑顔だった。
今日の斧が使われてたら惨劇だっただろう。その辺、感謝すべきだ。
いいぞ、アーテナイ、もっとやれ…!
あの後、引き分け、両者勝利が正式に採用され、都市の歴史に俺達の名前がアーテナイ共に刻まれることになった。
正気に戻った俺達は、ひとしきり恥ずかしがった後、開き直って今に至る。
拡声器の魔法道具ももう無い。というか、しばらく見たくない。
「これでいいわね!」
「うん、上出来だろ」
木製の看板にペンキ、のようなもので『ラケル煮』の作り方を書いた俺達は、その出来に納得していた。
宴開始までにも色々あった。
『ラケル煮』煮関する質問攻めに、『ラケル煮』を食べた酒屋のジジイと豆屋のオバチャンのどっちが凄いか論争、冒険者パーティの勧誘などなど。
レシピは積極的に広める予定だったが、なにしろ質問者の数が多い。
そこで、差し入れで仲良くなった闘技場の職員から看板とペンキをもらい、レシピを闘技場の一角に掲げることにした。
翻訳スキルは筆記にも対応していて助かった。
最後に日本語で俺達のサインを書いておいた。
ナデシコと考えた自分のサインが役立つ日が来るとは、人生は何が起こるか分からない。
「さて、避難するか」
「そうね、周囲の気配は4つ。酒は8つね」
「囲まれてる…!?」
作業中に話しかけてくる人は居なかった。
さすが職人の街、作業中に邪魔しない不文律でもあるのだろう。
俺達は、闘技場の一角に向けて駆け出す。
一定の区画に入ると、酒の気配が遠ざかる。
ここは飲酒、及び持ち込み禁止エリア、子供連れエリアとも言う。
「あ、おにーちゃん!おねーちゃん!」
「「アメリアちゃん…!」」
場所で分ける所に宴の大規模さを感じる。
花見会場のようだ。
そこには、本日の審査をほぼ一人で決定した、アメリアちゃんと仮面を外したシャーロットさんが居た。
「「お疲れ様です!シャーロットさん!」」
「うん、その態度はやめてね…?バレちゃうから、ね?」
この敬意は割と本気なのだが、シャーロットさんが困るなら改めよう。
闘技場内には持ち込んだ敷物を引いていたり、机と椅子をを持ち込んでいる人さえいる。
皆が好きに飲み食いしている。無論、ここでは家族連れが多い。
二人がいたのは、運営が用意したであろう少し綺麗な机と椅子、四人がけだ。
「二人ともここで食事?なにかもらってくる?」
「お腹いっぱいだからだいじょーぶ」
「アレクさんとカレブさんは?」
「二人とも、付き合いだったりで、お酒が飲めるところに行っちゃったわ。……お義父さんはちょっとヤケ酒入ってたと思うけど…」
なにか嫌なことでもあったのだろうか、心配だ。
誘われたのでの飲み物を取ってきて椅子に座った。
背中の『姫桜』は膝の上に。
ちなみに、招待券を持っている人は闘技場内の屋台が飲み食いし放題だったりする。
アメリアちゃん一家と俺達も貰っている。
「じゃあ、みんなお疲れ様でした、乾杯」
「「「かんぱーい」」」
小規模な乾杯。皆、果実水だ。
ちなみに『ミルク』もあったが、ナデシコは首を横に振るのみだった。
今日の出場組の小さな打ち上げだった。一人は匿名希望だったが。
「ねぇ、アメリアちゃん、ホントは私達の『ラケル煮』の方が美味しかったでしょ?」
「大人げ無いぞ、ナデシコ。……俺も気になるが…」
「うーん、ほんとうにどっちも、おいしかったよ?それに…」
「「それに?」」
「アーテナイさまも、おにーちゃんも、おねーちゃんも、みんなラケルが好き。それって、比べなきゃダメ?」
「「……おみそれしました」」
俺達は自分らの未熟を恥じるばかりだった。そうだな、比べなくていいか。
今日の審査員は、間違いなく名審査員だった。そんで俺達より大人だ。
頭を下げる俺達を不思議そうに見ていたが、なんとなく、その敬意は伝わったのだろう。
「えっへん!」
アメリアちゃんは胸を張り、腰に手を当てたのだった。
「この子、ホントに大物だわ…」
仮面の達人ほどじゃないと思う、俺とナデシコの思考は一致して、それを口にしないだけの理性はあった。
結局アメリアちゃんは、空が暗くなった辺りでシャーロットさんと帰宅することになった。
俺達の居ない間に、友達に囲まれたりと色々騒がしいことがあったみたいだ。
送ろうと提案したが、宴会を楽しんで、と断られた。
二人に改めて今日のお礼を言って、その背を見送った。
二人の影は、小さいが、大きく見えたのだった。




